第24話 一言多いんだよクソ親父
「クソ親父、用件があるならさっさとしろ」
「待て。リリーシュカ嬢が行方をくらませたことは報せを受けておる」
「…………やっぱり監視がいたか。どこに連れ去られたか知ってるか?」
「学園迷宮じゃ。覆面で顔はわからなかったらしい。魔術で
監視からの情報か?
どうせならその場で連れ戻して欲しかったが、行先が分かっただけでも上等だ。
それだけわかれば自分で追える。
「わしの話はまだ終わっておらぬぞ」
「……リリーシュカの行方以外にまだあると?」
クソ親父は頷いて懐から一通の手紙を取り出し、手渡される。
「つい先日のことじゃ。わし宛てに二通の手紙が届いた。一つの差出人は魔女の国ヘクスブルフが大魔女、リチェーラ・ニームヘイン。内容は……ウィルとリリーシュカの婚約破棄についてじゃった。もう一つはリリーシュカ嬢じゃろうな。中身はわしも見ておらん」
告げられた内容に俺は少なからず驚く。
「……婚約破棄? なぜ今になってそんなことが」
「手紙によるとリリーシュカ嬢からの要望のようじゃ。政略結婚を続ければクリステラに悪影響を与える――と」
「…………」
どういう意図で政略結婚の破棄を申し出たのかは推測の域を出ないものの、暗殺の件で自分がいなければ――とか考えたのだろう。
だからって婚約破棄は安直が過ぎると思うが。
「ヘクスブルフは判断をこちらに任せるとのことだ。また、婚約破棄をする場合は相応の賠償をするとも」
政略結婚はクリステラとヘクスブルフが友好的な関係になったことを内外へ周知させるためのもの。
そして婚約破棄をヘクスブルフから打診した場合、その分の賠償をするのは当然とも言える。
「おぬし、もしや嫌われておったのか?」
どうだろうか。
自信をもって好かれているとは言わないが、極端に嫌われていないとも思う。
どちらにせよ今となっては確認のしようがないことだ。
「婚約破棄についてじゃが――ウィル、おぬしが決めろ」
「……俺が?」
「断れば政略結婚の話はなくなり、クリステラはその分の賠償をヘクスブルフへ請求する」
「政略結婚が破綻すれば俺を王にするって話はどうなる」
「この場合、ウィルは婚約破棄をされた側じゃ。その責をおぬしに問う気はない」
政略結婚もしたくない、王にもなりたくない俺にとってはいいことずくめの話だ。
ここで俺が頷けばリリーシュカとの政略結婚は解消され、元の自堕落で平坦な俺だけの日常に戻れる。
だが。
「リリーシュカは学園迷宮に連れ去られたんだよな」
「監視の報告によるとそうじゃな」
「ここで俺が婚約破棄を承諾した場合、リリーシュカの身柄はどうなる?」
「どうにもならん。婚約破棄をした時点でクリステラ王家とは関係のない留学生の立場になる。魔術学園……特に学園迷宮は自己責任の場。自分で自分の身を守れぬ学生は年に何十人と消えている。リリーシュカ嬢の身の安全をクリステラとして守る理由はない」
本当にそれでいいのか?
いいや、いいわけがない。
やる気なし王子でも譲れない一線は持ち合わせているつもりだ。
せめて、ちゃんと本人に聞かなければ納得できない。
「――悪いが、
「ほう? なぜじゃ」
「約束事を途中で放り投げるのは俺の信条に反する」
リリーシュカを最高の花嫁に育て上げると約束した。
その約束は果たされていない。
俺はやる気なし王子だが、約束したからには最後までやり抜く気概くらいはある。
あと……リリーシュカはレーティアの友人だ。
こんな形で友人がいなくなったと知れば酷く悲しみ、俺のせいなのに必要以上に自分を責めるだろう。
そんな姿は俺だって見たくない。
「……やはり変わったな、ウィル。昔を思い出したと言うべきか…………やっとやる気になったか?」
「違う。俺のやる気はとうに枯れている。これは俺が心の平穏を取り戻すために必要な行いだ。俺の選択で婚約者が行方不明――なんて、思い出してはため息をつくような過去はいらない」
それに、この程度のことでやる気を出す必要性がない。
俺がやるべきことは三つ。
リリーシュカを連れ帰る。
攫ったやつは二度と同じことが出来ないようにする。
婚約破棄の理由を直接本人から聞き出す。
簡単なタスクだ。
日の出前には始末をつけるとしよう。
面倒だが、禍根を断つには絶好の機会だ。
「おぬしが決めたのならば、わしは何も言うまい。――クリステラ王国第七王子ウィル・ヴァン・クリステラに命ず。必ずリリーシュカ嬢を連れ帰れ」
「――誇り高きクリステラの名に懸けて、全身全霊を以って王命を遂行いたします」
「後始末はわしに任せよ。息子の幸せのためじゃからな、気にせんでよい。もし礼をしたいのなら早く孫の顔を見せよ」
「いい話風に終わりかけたのに一言多いんだよクソ親父」
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