第7話

「おす」

「………っす」



 駅から学校は俺の足で5分程度。

 わたあめを置いていつもより早歩きをして先に教室に入ったら、入ったところで声をかけられた。



 学校で俺に声をかけて来るやつは、昨日増えたわたあめ以外にひとりだけ。青木あおき高良たから



 別にスポーツをやってたわけでもないのにすでに180近くある俺と同じぐらいの身長で、俺より………高1が集うこの教室の男連中の誰より遥かに身体が出来上がってる、立ってるだけで何か目立つやつ。



 挨拶して思った。

 昨日まで髪の毛は確か金色だったのに、昨日の今日で青になってるって何だ。余計に目立ってる。



 この学校には決まった席はない。クラスもない。

 中学の教室2個か2個半ぐらいの広さがあるひとつの教室で、各学年全員が授業を受ける。

 基本通信制だから来るのは自由。席が決まってないのもクラスがないのもそのため。



 ただ、決まった担任は居る。個人で。

 1年は最初学校で適当に振り分けられて、1ヶ月ぐらいで自分で選ぶ。指名制の担任。

 考えるのが面倒だった俺は、最初に振り分けられたときのままで、この青木高良と同じ担任。



 その担任に何か言われたのか、こうして高良は時々俺に話しかけて来る。



 高良は何故か入学式のときから目立ってた。普通に居ただけで目立ってた。

 もちろん今も目立ってて、高良のまわりにはいつも取り巻きが何人も居る。



 高良と居るだけでやたら注目されるから、あんまり話したくねぇんだけど。



 挨拶だけしてあいてた前から二番めの席に行こうとしたら、何でか高良もついて来た。

 教室に居るやつらの視線も、自然とついて来る。



「………何」

和心わしんが来るから、お前で人避け」

「………」



 人避けって………ひでぇなお前。



 って思っても、実際そうだから言うに言えない。

 俺が居ると、俺と居ると、高良の取り巻きはチラチラと視線を送って来るだけで誰も近寄って来ない。

 来るのは和心。寺田てらだ和心わしんぐらいだ。



 和心。あんまり学校に来ないナゾの人物。



 先生は『わこ』って呼んでると思う。でも高良は『わしん』って呼ぶ。

 身長は170ぐらい。何がナゾって………。



 この学校は制服も自由だ。制服はあるけど私服でもいい。

 ちなみに俺は制服派。毎日服を考えるのが面倒だから。

 逆に高良は私服派。ダボっとした系が多い。ちょっとチャラい感じ。

 わたあめも昨日今日と私服だった。パーカー。そして和心は。



 俺が和心をナゾと思うひとつの疑問。



 和心は男なのか女なのか。



 顔はキレイ。キレイな顔だと思う。整ってるって意味で。

 色白で細い。線が細い。少し長めのつやつやした黒髪。切れ長の目はまつ毛バシバシ。色白のせいか唇がやたら赤く見える。手首とか指とかもめちゃくちゃ細い。指は加えて長い。



 言ったらまずいのかもしれないけど、正直、俺には和心が女に見える。

 でも、着てる制服は男もの。つっても、キッチリは着てない。白シャツにVネックセーターに制服のズボンって感じ。ネクタイもしてない。夏はTシャツに制服ズボン。



 Tシャツ姿を見たけど、女子の身体ではないようにも見えた。



 黙って居るだけでやたら目立つ高良と、週に2回ぐらいしか学校に来ないナゾの和心は、何故かふたりで居ることが多かった。



 いや、居たきゃ居ればいいんだけど。



 和心は俺と同じで人が苦手っぽい。なのに何で目立つ高良と?って。

 高良は高良で、和心のために俺を使って人避けするし。



 いや、俺には別に関係ねぇんだけど。



 ガタガタと椅子を引いて座ったら、そこでやっとわたあめが教室に入って来るとこだった。

 

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