第8話

「付き合うの?」

「………は?」



 高良はわざわざ自分が取ってた席から鞄を持って来て、俺の隣に座った。

 机は中学までのひとりひとつの机ではなく、ふたりでひとつの長いやつ。椅子はパイプ椅子。



 自分のリュックをそのまま後ろの席に置いたのは、多分和心の席確保のため。



 わたあめは教室入ってすぐの一番後ろにちょこんと座ってた。鞄をがさごそと漁ってるのが見える。



「昨日コクられてただろ?あやに」

「綾?」

綾貴あやたか

「………お茶?」



 高良が言う『綾貴』がわたあめだって分かってたけど、俺は敢えて話をそらした。答える必要も義理もねぇだろって。



「それよく言われるって綾が言ってたな」

「………」

「おーい、お茶って呼ばれることもあるんだってさ」

「………」

「昨日バカみたいに茶化してたやつには言っといたから」

「………何を?」

「イマドキまだ男だ女だ言うヤツが居るんだな?だっせぇって。だから付き合うなら付き合うで大丈夫だ」

「………」



 何度も言うけど、高良は目立つ。

 何もしてなくても、居るだけで目立つ。



 それは背が高いから。ガタイがいいから。髪の毛の色が派手だから。



 ………だけじゃねぇんだって、お前は。



 何でか人が集まってくのは、そんな空気が高良から出てるから。感じるから。人を惹きつける何か。



 圧倒的、存在感。



 ………そんなやつにそんなこと言われたら。



 自業自得とはいえ、言われたやつを気の毒に思いつつも、あいつのことなんか何も知らねぇよって答えた。それぐらい答えてもいいかって。

 教室に入ってから昨日のことを何も言われないのは、高良のその言葉があったからだろうし。



鍔田つばた綾貴。イラストコースに行ってるめちゃくちゃ絵がうまいやつだよ。すでにイラストで金稼いでるって聞いた」

「………興味ねぇけど」

「あと、お前のこと大好きって」

「言われるような接点がねぇ」

「毎朝電車で席を譲ってくれるんだよって、顔真っ赤にしてたけど?」

「………別に、たったそれだけだろ?それ以外何もねぇよ。譲ってた相手があいつだってことも今日初めて知った。そんなんだ。なのにたったそんだけで好きになるっておかしくね?何も知らねぇだろ。



 今まではただ電車で席を譲るだけだった。

 妄想力が豊かって、自分で言ってたぐらいだ。だからそれだけで色んな妄想をして、勝手に俺を作ってたんだろ。都合よく。自分の理想とする俺を。



 そりゃ自分の理想なら好きになるって。



 でももうその理想は崩れたはずだ。この顔のアザも見えただろうし。



「俺、お前のそういうとこ、好きじゃないわ」

「………は?」



 高良が纏う圧倒的存在感の空気が、ビリって揺れた気がした。

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