第4話
親に捨てられて、ずっと育ててくれてたばあちゃんとじいちゃんが死んで、俺は田舎のじいちゃんちから親が住むこっちの都会に有無を言わさず連れて来られた。
わざわざ俺用に借りたマンションに突っ込まれた。
親の家はこの1LDKのマンションからより、高校からのが近いらしい。
じいちゃんの葬式とか、俺の無理矢理な引っ越しとか住民票の移動とか中学の転校、色々面倒を見てくれた、やってくれた母親の秘書ってやつが言っていた。
………何て名前だったっけ。秘書さん。多分30代真ん中から後半ぐらいの男。スーツ着てメガネかけてて、いかにも有能そうな。自分は第2秘書ですって言ってた気がする。
へぇ、そんな秘書が何人もいるぐらいすげぇんだ、俺のハハオヤって。
自分が生んだ子どもを、アザ持ちってだけで捨てたくせにな。
なんて、ぼんやりする頭でぼんやり思った。
俺にこのアザがなければ、もしかしたら結構な金持ちのぼっちゃんだったりするのかもな。
問答無用で引っ越しと転校を決められて、マンションに置く家具や必要なものは全部買うよう指示されていますって、じいちゃんちで言われて、俺はそれを断った。
何でもかんでも勝手に決めてんじゃねぇ。
我慢の限界で、秘書さんにキレた。
じいちゃんが死んだばっかだってのに何だよ。何なんだよ、マジで。
未成年じゃなきゃ絶対行かねぇ。自分を捨てた親の言うことなんか聞きたくねぇ。でも未成年だから未成年の間だけ行ってやる。養われてやるよ。それでいいんだろ。
うちん中のやつはじいちゃんちのを持って行く。新しいのなんか要らねぇ。持って行かせろ。
じいちゃんちがどうなるのかは知らない。どっちみち俺みたいなガキには何もできない。
ならせめて、うちの中のものは持って行きたかった。じいちゃんとばあちゃんの形見に。思い出に。
俺の意見なんてどうせ通らないだろうと思ってたのに、あっさり許可はおりた。
あー、でも、全部は無理ですよって余計な一言と共に。
俺への哀れみの感情が、秘書さんの表情に出てた気がした。
だからここは………俺がひとりで住むマンションは、全部馴染みのあるじいちゃんちのもの。
家具だけじゃなくて、調理器具、食器、洗濯機や冷蔵庫、電子レンジなんかの電化製品まで。
だから。
だから余計に、ここに居ると寂しくなる。
家族もいねぇ、友だちもいねぇ、自分が動かなきゃ冷蔵庫の音しか聞こえない静かな部屋。そこにひとり。
小さい頃からずっと使ってた物たちが変わらずあるのに、使うのは俺だけ。俺ひとりだけ。
学校から帰って自分で昼飯を作って食って、ごろんって転がった部屋。
そういえば、また明日ねなんて、こっち来て初めて言われたかも。
学校で、しかも結構な大音量での公開告白。してきたのはナゾのふわふわ頭。わたあめな男。
俺のことなんか、何も知らないくせに。
どうせコレを見たら、二度と近づいて来ないくせに。
明日………行きたくねぇな。学校。
また揶揄いと見下しの毎日が始まるのか。
腕で顔を覆って、俺ははあってため息を吐いた。
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