22. 氷の世界

 にらみ合うセレナとコルトのもとに、小さな光が飛び入って来た。


「あんたたち、何やってるの!こんなことやってる場合じゃないでしょ!」


 妖精のラフィだ。

 随分前に先走ってドラゴンの方へ向かってから、セレナとはぐれていた。


「ここがやばい場所ってこと、わかってないみたいね!みんなバカ!あんたのなかまも、ほとんどやられちゃったわよ!」


 コルトを差して、ラフィは怒鳴る。


「お友達?」


 コルトは困惑したように、セレナに問う。


「まぁね。君のお友達は大変そうだけど、こんなところで戦ってていいわけ?」


「ああ。あいつらは今回手を組んだだけで、俺は一匹狼だからね」


 その時、いつになく真剣な表情でドラゴンのいる方を向いたラフィに、セレナは気づいた。


 何かがまずい。


 大きな咆哮が聞こえ、青白い光が当たりをつつみ、微かな冷気を感じた。


「やばい。やばいやばい!!!セレナ!!!」


 ラフィが叫ぶ。



 セレナは背筋が凍るような悪寒を感じた。

 コルトの仲間の一人が、腕を凍らされて死にかけていた光景が脳裏をよぎる。

 

「え?」


 次の瞬間にはセレナは、勢いよく駆け出し、呆気に取られている目の前のコルトを引っ張って、一緒に岩陰に伏せた。




 視界が真っ青に包まれた。



 青白い光と強風が吹きすさび、岩陰以外の全ての地面、いや空間が、冷気に包まれて、みるみるうちに霜がおり、凍り付いて行く。


 強風の轟音が鳴り響き、それ以外の何も音がないかのように埋め尽くされる。


 岩の間に微かに生えていた小さな木や雑草も、瞬く間に真っ白に染まり、強風にしならず、あっさりと折れて飛ばされていく。


「うわぁ……!」


 セレナが素っ頓狂な声で怯えている間にも、その死の風は吹き続け、だんだんと岩の陰の地面にも白い氷が広がって来る。

 凍り付いた世界がその領地を広げるかのようだ。


 セレナとコルトは座ったまま、岩に背をこすり付けるほど必死でずりずりと下がっていく。

 ラフィはセレナの肩で震えている。


 一瞬で一帯は極寒の地のようになり、身体が芯まで冷える寒さに覆われる。




 しばらくすると風は止み、静寂だけが辺りを包んでいた。


 セレナもコルトも声を発せられず、目を見合わせては、辺りを見回すだけだ。


 まるで吹雪いた後かのように、変わってしまった景色が広がっている。


「おいおい……何が起きたんだよ……」


 コルトが呆然と立ち上がる。

 セレナも続いて岩陰から出る。


「腕を怪我してた仲間がやられたのはこれのせいじゃなかったの?」


「いやこんなのは……初めて見た」


 後ろを振りかえると、スイトが同じように岩陰から立ち上がっていた。

 今まで戦っていた相手がぐったりとしており、スイトに雑に片手で抱えられていた。


「その、何というか、一時休戦というこうか」


 コルトは様変わりした周囲を見回しながら、セレナにそう言った。

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