20. 蹂躙

 セレナたちは急ぎ足でドラゴンのいるであろう、高台の方へと進む。


「他のギルドが既に討伐をしていないといいけど……」

 イーコが心配そうに言う。


 魔狼のマオは、男を一人連れ去って以来、姿を現さない。


 魔法や怒号の音が、近づいてくる。


 セレナたちが岩陰から警戒しながら覗くと、岩場の開けた場所で、数人が、戦っているのが見えた。


 その中央で、青白い光を発しているものがあった。

 よくみるとそれは鱗が反射する光であり、その体表は青みがかった白色だ。

 巨体は数メートルはあると思われ、巨大な羽根を広げながら、威嚇するように咆哮している。


「あれがルフトフロストドラゴンだよ」


 うっとりとしたような顔で、イーコが呟いた。


「あれが、ドラゴン……」


 ビリビリと響く咆哮の音に気圧されながら、セレナは目が離せなかった。


 ドラゴンに斬りかかった男が、鱗に傷一つつけられずにたじろいでいる。


 するとドラゴンは巨体には想像もつかないような速さで身をひるがえしたかと思うと、男がその回転に合わせるように吹き飛んだ。

 目にも追えないほどだったが、その長い尻尾が身体の回転に合わせて鞭のようにしなって叩き付けられ、男の身体を軽々と飛ばしたのだ。


「うがぁっ……」


 遠くからでも確かに、男の悲鳴が聞こえてきた。

 


「気を付けてね……できるだけ物陰に隠れて進んで」

 イーコが真剣な表情でセレナにそう言うと、ドラゴンの方へと進んで行く。


「一目見るだけって話だったよね?ねえ!」

 セレナがスイトにそう言ったが、スイトは諦めたかのように眉を上げて首を振ると、イーコの後に続いた。


「おい、お前ら何だ!」


 一人の男が叫ぶと、ドラゴンを取り囲んでいた男たちの数人が、セレナたちの方を睨んだ。


「まさか、あの狼をけしかけたのはお前らか!?」


 見ると、命からがら逃げだしたのか、再び傷だらけになった男が、仲間に介抱されていた。

 容体はイーコが片腕を治療したときよりひどく、身体じゅうが血だらけになっていた。


「うっわぁ……やっぱりおっかないな……」

 何をされたか想像して、ぞっとしたセレナが呟く。


 他ギルドの男たちは、マオをけしかけたのがセレナたちだと思い、敵意をむき出しにしている。

 岩陰に隠れていた、短刀を構えた男が一人、セレナに斬りかかる。


 セレナがそれを認識すると、魔法盾が男との間に割って入り、不意を突かれた男は、大盾にぶつかってよろめいた。


「誤解だってば」


 聞く耳を持たず、ドラゴンから遠巻きに包囲していた数人はセレナたちに攻撃を始めた。


 するとイーコは勢いよく駆け出し、ドラゴンを囲んでいる数人のいる方へと向かった。


「イーコ?!」


 スイトも飛んでくる弓矢を咄嗟に大剣で防ぎ、その場を動くことができない。


「何が何だか……」


 短剣の男と対峙しながら、セレナはこの先のことを考える。

 元はといえば、他ギルドの人たちを助けてドラゴンを討伐するか、撤退を手伝うかという話だったはずだ。

 しかし、人を襲った……復讐を果たしたマオをけしかけたわけではないが、止められなかったのも事実だ。

 その結果他ギルドから誤解され、敵対することになってしまった。


「どうしてこうなるんだよ!」


 セレナはそう叫びながら、やけくそになって剣を構えた。

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