16. 見学だけなら


 宿屋のロビーで話合うセレナたちだったが、話題は情報共有から、そのまま今後のことを話し合う流れになった。


「この先はどうしようか」


「メンバーは減ってしまったが、少人数のギルドなんていくらでもある。少人数向けの依頼をこなしていけばいいだろう」

 スイトはセレナを励ますようにそう言った。


「このエリアには、元々ドラゴンの撃退を遂行するために来た……んだった?多人数向けの依頼だから、前のメンバー人数なら受けられたんだよね」

 記憶を辿りながら、セレナは言った。


「そう、それなんだけど」


 いつにも増して真剣な表情で、イーコは言った。


「せっかく来たんだから、様子だけでも見に行かない?」


 この世界のドラゴンは、最強格の生物だ。厳密には魔物ではあるが、その畏怖ゆえに、神格化されている地域も多い。

 種類も多くいるが、基本的には三人で挑んで勝てるような生物ではない。


「正気か?ドラゴンだぞ」

 実力者のスイトですら、耳を疑う発言だったようだ。


「わかってるって。だから、見るだけ!ルストフロストドラゴン、見てみたかったんだぁ~……」

 イーコの目がキラキラと輝く。

 テイマーのイーコは魔物を手懐けるのが職業ということもあり、魔物そのものへの興味、執着が強い。


「ルストフロストはね、大陸北方にのみ生息していて、だから北東のこの街近辺にも表れたんだけど、本来もっと北の寒い地域にしか姿を現わさないんだよ!だからね、普段だったら一目見るために、冬用の重装備で標高の高い山にまで行かなきゃいけないの!でも今だけなんだよ、こんな暖かいところで見られるのは。ルストフロストは氷竜とも言われていて、氷の息吹を操るだけではなくて、その見た目も氷柱のように美しいんだって!見たいと思わない?!」


「う、うん……」


 早口でまくしたてるイーコに、セレナは気圧された。スイトといい、ここは変わり者しかいないギルドなのではないのか。

 そもそもセレナだって、今や転生した元男だというのに。


「わかったから落ち着いてって。でも、戦ったらヤバいんだよね?」


「やばい、氷の息吹は一瞬にして、目の前の生き物を凍らせて命を奪っちゃうんだよ!!怖いよね!見てみたいなぁ……」


「いや、至近距離で見たら死ぬやつじゃん……」



「面白そうじゃん、行こうよ!」

 ラフィは相変わらず余計なことしか言わない。


「さすがラフィちゃん!行こ行こ!」

「行くぞ行くぞ~!!お~!!!」


 能天気な二人が勝手に話を進めるなか、セレナはスイトの方を困ったように向いた。


「まぁ、距離を取って見るくらいなら問題ないだろう。何かあったら俺が守ってやる」


 そう言ったスイトに安心感を覚えながらも、なんかちょっと気持ち悪いな、と失礼なことを思うセレナであった。


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