15. 運命だとか

 依頼は個人から受けたものなので、ギルドを介す必要はない。

 街へ戻るとヒメカは約束通り素直に、報酬をセレナ達へと渡した。


「なんだかごめんねぇ?こんなことになるとはおもっていなかったの」


 普段の調子を取り戻したヒメカは、またいつもの甘ったるい喋り方へ戻っていた。

 

「深くは聞かないよ。私たちは仕事を受けただけ」


「ありがと。スイトさんもね」


「ああ。無事で何よりだ。こちらこそすまなかった。君は俺の運命の相手ではなかったのだな」


「あはは、そうかも。そう言っちゃったね。でも、きっとすぐ見つかるよ!」


「そうだといいのだが……」


「その、さ、ちょっとかっこよかったよ、さっきは」


「それは……」


「じゃあ、私、行くね。またどこかで!」


 別れ際はあっけなく、元気に手を振りながらヒメカは去って行った。



「すまなかったな、マスター」

 スイトは二人きりになると、セレナへと謝罪した。


「無駄骨だったようだ。それに、ひどい目にあった」

 スイトはそう言って、自嘲気味に笑う。


「気にするなよ。報酬はしっかりもらったんだ。無駄じゃないだろ」


「そうだな。しかし……いや、なんでもない」


 スイトは、やはり少し残念そうだった。


「落ち込むなよ。運命の相手?いつか見つかるって」


 セレナも、しばらくスイトと過ごして、どういう人間かはわかってきたつもりだ。

 純粋すぎて、抜けているところはあるが、正直な男だ。

 仲良くはできそうだし、ツッコミどころも多いので、あまり構えずに自然体で付き合うことはできそうだ。


 何より、自分が女になったことを忘れて接することができる。


「しかし、考えたのだが……」


「どうした?」


「もしかして、お前が……俺の運命の相手なのでは?」


「……」


 スイトはいたって真剣な表情で、セレナをじっと見つめている。

 セレナはついさっき、自然体で接することができると考えたことを、すぐさま思い直した。


「はぁ?!違うわ!!!スイト……?おいスイト、無言で近づくな。それ以上来るな。やめろ!!」


 セレナはイーコ達の待つ宿屋の方へと、全速力で走り去った。

 無言で走って追いかけてくるスイトに、恐怖を感じながら。


 周囲の人々は、不思議そうな目でセレナたちが駆け抜けていくのを見ているのだった。


 そうして駆け抜けていると、ふとセレナは自分が笑っているのに気付いた。

 しかし一方で冷静にふと思う。

 こうして元の身体と違う人間の精神が、セレナのふりをして、平気で生活していることは、スイト達への裏切りではないのだろうか。

 記憶を共有しているとはいえ、行動は明らかに、以前のセレナとは違うようだ。


 セレナの記憶を引き継いでいて、身体も全く同じで、亮の記憶と精神を持っているというのが今の状態だ。

 これは果たして、亮という別の人間と言えるのだろうか?

 セレナの記憶を引き継いだ時点で、亮は亮ではなくなっているのかもしれない。


 しかし、走りながら息切れしはじめたあたりで難しいことを考えるのは難しくなった。



「おっ!帰って来た!」



 宿屋に戻ると、ロビーにイーコが座っていた。

 セレナとスイトは、ぜぇぜぇと息を整えながら、机や壁に手をついていた。


「ん何?走って来たの?」

 イーコは不思議そうに二人を見ていた。


「イーコはどう思う……マスターこそが俺の、運命なのではと……思ってな……」

 息を切らしながらスイトが言う。


「お~!めずらしいね!相手が女の子とあれば一度はそんなことを言うスイトにしては、マスターにだけには一度もそれを言ったことをなかったのに」


「今日気づいたんだ。意外とそういうものかもしれん」


「そ、そうなんだ」


「ぜ、ぜったい違うッ!」


 セレナはそう抗議しながら椅子に腰かけた。


『いやいや、全然いいと思うわよ?性別なんて気にしないわ!そういう時代でしょ』

「うひゃ!!」

 あまりにも至近距離の耳元で声が聞こえて、セレナは飛び上がった。

 見ると妖精のラフィが、不機嫌そうに脚を組みながら、宙に浮いていた。


「楽しそうなことしてたみたいね。私がいない間に。私がいない間に!!!」


「話しなさい!全部話しなさいよ!どうして起こしてくれなかったのよ~!!!」


 ダダっ子のようにじたばたとするラフィにため息を吐くと、同じように話し始めるのを待っているイーコも含めて、セレナ達は、小さな冒険の話を、二人へと話したのだった。

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