14. 絶対攻守

「っご」


 ガン!!!という音と、奇妙な悲鳴と共に、ヒメカを人質に取っていた男だけが、その空間から一瞬にして消え去った。


 ヒメカは何が起きたのかわからず、後ろを振り向くと、セレナの浮遊大盾によって樹に叩き付けられた男が、盾が離れると同時にずるずると地面に滑り落ちていた。



「セレナさん……」

 驚愕しながら、ヒメカはそう呟く。

 助けてはもらったものの、あまりにえげつない攻撃に思わず立ちすくんだ。


 足元には、男が持っていたナイフだけが空しく転がっている。


「これは護衛の仕事!!!」

 セレナは突然叫んだ。


「ヒメカを守るのが最優先だし、前金は十分に貰いました。残りの報酬をもらうために、ギルドとして、正式にやっている仕事!!」


「……」


 感情的になったセレナに、全員が驚き立ち止まっている。

 しかし言葉が通じないスケルトンだけは、カタカタと音を立てて、セレナへと迫る。


 ゴシャ!


 空から重い大盾がスケルトンに叩き付けられ、硬い骨がバラバラに砕け散る音がした。


 大盾は地面に突き立っており、飛び散った骨がその威力を物語っている。

 間近でみたブレッドが飛び退いて尻餅をつく。

 当たったのが自分だったら……と考えたような表情だ。



 ヒメカが解放されたことで、スイトもついに動けるようになった。


「うおぉぉ!!!!」


 いままでやられっぱなしだった反動か、大剣を叩き付けるように周囲のスケルトンへ振り回す。

 まるで刈り取られた草のように真ん中から折れて、白骨がバラバラになって吹き飛ばされていく。


 一薙ぎで数体のスケルトンが倒され、何十といたスケルトンはみるみる数が減っていく。


 しかしどれだけ数がいるのか、洞窟からは列をなして次々とスケルトンが這いだしてくる。


 それを見たスイトは大剣の先を洞窟の方へと真っすぐ向け、構える。


「”清浄魔法:極大剣!!!”」


 大剣の形がそのまま、黄色い光をまとってとてつもなく長く、鋭く伸び、洞窟の中の方まで突き刺すように進んだ。

 その光に触れたスケルトンは灰になって消え去っていく。


 洞窟の入り口というちょうど狭い場所に集まらざるを得ない状況のところへ魔法を放ったことで、スケルトンたちは一網打尽になった。



「さぁ、どうする?もう諦めてくれないかな」


 セレナは男たちに告げた。形勢は明らかにセレナ達が有利だろう。


「く、くそ。だがわかってねぇ。なぜあの女が、こんな状況なのにこの角笛を取り戻そうとしたかだ」

 いつの間にか角笛を回収したブロンが、そう言った。


「もう分かってるとは思うが、これは”死者の角笛”だ。これを吹けば、周囲の死体を操ることができる。ネクロマンサー、クロエの遺物だ。こいつを吹けば何度でも……」


 その瞬間、一瞬にしてブロンの腕から、角笛が剥ぎ取られた。


「はっ?!」


 知らぬ間に忍び寄った、ヒメカが、角笛をひったくったのだ。

 そしてそのままセレナの後ろへと走り寄ってきた。


「ごめんなさぁ~い。そうそう、価値のある笛なんだよね。だから取りに戻ったの」

「て、てめぇ……」


「あなた達が言ったことは、確かに事実。報酬を奪ったのも、角笛を隠したことも。でも覚えてる?これを見つけた途端、私を縛り上げて、角笛を取り上げたこと」


「くっ……」


「その後されたことも忘れない。でもざぁんねん。縛られたところから抜け出すのは慣れてるの。これでもけっこう、身体が柔らかくってね!」


 どうやら、単純にヒメカが悪者というわけではなさそうだった。

 セレナも少し、事の経緯には意外だった。


「へぇ~。どうやら、私が感じてた罪悪感は、不要みたいだね」


 もやもやが吹き飛んだセレナは、少し楽しくなってきた。


「で、どうする?まだやる?」


「く、くそ!こんなことが許されていいものかよ……必ず、報いは受けさせてやるからな!」


 男たちは、角笛を取られたことで完全に不利となった。

 戦意を喪失したのか、じりじりと後退した。

 そして、そのまま走って逃げていった。


 ヒメカも追いかけようとはしなかったため、セレナとスイトもその場に佇んでいた。


「ふ、ふぅ~……終わった……かな」


 セレナは転生してから初めてまともに戦ったこともあり、その場にへたり込んでしまったのだった。

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