12. 人質
角笛の音が響き渡った。
そして異変が起こった。
地響きがして、足元が揺れ始めた。
そして洞窟から、カチャカチャと奇妙な音がする。
「まずい、どうしよう、逃げなきゃ。ねぇもう諦めよ?一緒に逃げよう!」
ヒメカは狼狽して、スイトにそう言った。
「何を……危ない!」
何かを察知したスイトが、ヒメカを思わず突き飛ばした。
目を疑う光景だったが、ついさっきまでヒメカが立っていた場所に、白骨、人の骨と思われる腕の部分が、地面から生えてきていた。
それだけではなく、周囲のものを掴もうとして、何かを探すように動いている。
「うひぇ……何だありゃ」
セレナが驚きながら周囲を見渡すと、周りの地面から同じように幾つもの手や足が生えてきていた。
そしてさらに驚くべきことに、洞窟の奥の方から、何体もの人骨が、ぞろぞろと不安定な動きで歩き、外へと出てきた。
「スイト!あっち!めちゃくちゃ来てる!」
「スケルトンだ!角笛の効果なのか……?」
「スイトさん!」
スイトに突き飛ばされたヒメカが、敵に掴まって喉に刃物を突き付けられていた。
「ヒメカさん……すまない!」
スケルトンから守るためとはいえ、護衛対象から離れてしまったのは失敗だ。
ヒメカは男に引き摺られながらだんだんと遠ざかって行く。
「さぁて”絶対攻守の大盾”さん。どうするよ?相手が何人までなら絶対防御できるのかね?」
ブレッドがニヤニヤとしながらセレナへと剣を構える。
「さぁね……試してみようか」
そうは言ったがセレナは強がっていた。
転生してからの初陣にしては、あまりにも不利な状況だ。
地面から生えてくるスケルトンの腕に注意していると、その隙にブロンがナイフで斬りかかって来る。
「オラァ!」
ガキィン!と大盾で防御すると、すかさず反対側からブレッドが剣で突きを仕掛けてくる。
「ふっ……!」
こちらはセレナも剣でいなす。すばやく動いた反動で、肺から空気が押し出される。
そして一歩退いた脚を、スケルトンの足が掴む。
「うわぁ!気持ち悪い!」
素直に叫ぶとそれを引きはがし、セレナはさらに後退する。
ブレッドとブロンは攻撃の手を緩めず、周りのスケルトンの攻撃にも注意しながら、セレナは防御に徹せざるを得なかった。
スイトは洞窟に近い位置にいたこともあり、すぐに大量のスケルトンに囲まれていた。
実力者ということもあり、大勢に囲まれても戦い抜くことはできていたが、如何せん数が多く、十五体はいるスケルトンに対して警戒しながら防御に徹していた。
「おい、お前!これが見えてねえのか?」
ヒメカを人質に取った男が、スイトへと叫んだ。
「抵抗せずに大人しくやられろっていうんだよ。この女の首にナイフを突き立てて欲しくないなら、そこでぼーっと突っ立って殺されろ」
「スイトさん!」
何とか抜け出そうとするヒメカだったが、より一層ナイフを首の近くへと近づけられ、動けなくなった。
皮膚が少し切れてしまい、白い首筋からは微かに血が流れ出ている。
「動いてはダメだ、ヒメカ」
そう言うと、スイトは、その場に自らの剣を投げ捨てた。
「スイトさん?!何考えてるの!!戦って!」
分厚い鎧に身を包んではいるものの、無傷では済まない。
スケルトンたちは容赦なく、スイトへと剣を振り下ろした。
ガン!ガン!ギィン!と金属同士がぶつかる音がする。
それほど知能がないのか、スケルトンたちはスイトの頭や、鎧のない部分をあえて狙うことはしていないが、それも時間の問題だろう。
腕や脚、頬から血が流れる。
白骨の腕で攻撃されるだけでも、硬い骨からダメージを受けていく。
「くっ……うぐ……」
しかしスイトは小さく呻くばかりで、歯を食いしばって攻撃に耐える。
「スイトさん!死んじゃう!戦って!!」
しかしスイトはヒメカの方を見るばかりだ。
「これが、運命なら……君のために死ぬために生まれたのなら……俺は後悔しない」
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