9. 真実の愛とか


「マスター、少し付き合ってくれるか」


 三人が抜けて、残りもたった三人となったギルド、”ウェイク”。


 セレナはしばらく、ただ打ちひしがれることしかできなかったが、そんな時スイトがそう声をかけてきた。


 何もしていないままでも仕方が無いので、この街の冒険者組合にいこうというのだ。


 セレナは興味もあったので、スイトについていくことにした。


 セレナ達が滞在していた街は、それほど大きな規模ではなかったが、他の街と同じく魔物を防ぐ外壁にしっかりと囲まれている。


 それなりの規模の街なので、冒険者組合の拠点も置かれている。

 冒険者組合とは、国、都市、村や個人からの依頼を冒険者に斡旋し、その手数料で運営されている冒険者のための組合だ。


 この世界ではまだ未開拓な場所も多く、未知の生物も溢れている。

 その為一般の人間では太刀打ちできなかったり、国家単位では動きづらいような困りごとを埋めるために、冒険者という、いわばなんでも屋が多く存在している。


 セレナは道すがら、記憶を思い出すように、確かめるようにスイトといろいろな話をした。


「あの~……スイトの旅の目的、ってさ」


「ああ。理想の相手を探す旅だ」


 スイトの旅の目的は、一生を添い遂げる相手を探すことだ。

 過去に何があったのかわからないが、明らかにそのことに執着している。


「理想の相手かぁ。何かイメージとかあるの?こんな人がいいとか」

「さっぱりだ。だが、真実の愛を探している」


「し、真実の愛ぃ……?」


 口に出すだけでこっぱずかしくなるような言葉を、真顔でスイトは言う。

 スイトが何を求めているのかわからないが、見た目は特級にいいのでスイトを好く女性は多く寄ってきそうなものだ。




 レンガ造りの立派な建物の、大きな扉をくぐると、椅子と机が多く置いてあって、幾人もの冒険者たちが席についてにぎやかにしていた。

 正面奥には、受付のようなカウンターがあり、女性の受付員達が立っていた。


「あそこで依頼を受注できるのか」


「そうだな。脇にある掲示板から今募集している依頼があるので、相談する前にある程度目星をつけておいてもいいが……」


 スイトとそんな話をしていると、突然周りがざわついたのに二人とも気づいた。


「おい待て!お前ふざけんじゃねーぞ!」


 見ると、男二人が女冒険者に襲い掛かっていた。

 そして見る間に、女性の冒険者はセレナたちの方へと逃げてきて、スイトの後ろにひょこりと隠れてしまった。


「む?」

「ス、スイト、何巻き込まれれているんだ」

「いやそう言われてもだな」


「たすけてくださぁ~い。こわ~い暴漢たちに襲われてるんですぅ~」


 スイトの後ろに隠れた女性は、冒険者に似つかわしくない、フリルのついた露出の多めな軽装をしていた。唯一腰に装備されているダガーだけが、かろうじて彼女を冒険者だと判断できる材料だった。


「おいてめぇ、そいつをさっさと引き渡しな。てめぇには関係ねーだろ」

「そうだぞ!その女ぁ俺たちの報酬を持ち逃げしやがったんだ。よくもここに顔出せたもんだ」


 男たちの言い分を聞いてスイトは女性の方を振り向いた。


「違いますぅ~。急に襲い掛かってきて、こわぁい~!」

 あくまでそう言い張る女だったが、セレナにはさっぱり信頼できなかった。


「ねぇスイト、こいつの言うこと信じるの?」


「真偽はわからんが、話合いで解決すべきではないか?」

「それもそうだけど……」


 そう話していると、後ろを向いて話しているのを隙と捉えたのか、男二人が殴りかかってきた。

 セレナが反射的に腰の剣に手をかけると、スイトはぐっとセレナのその手を押さえた。


「スイト……?」


「マスター、正気か?組合の建物内で武器を抜いたら、二度と組合を利用できないぞ」

「そ、そうか」


 セレナの記憶を思い起こせばもちろんそうなのだが、咄嗟のことであるほど、他人の記憶ということもあり、判断ができなかった。


「どりゃあ!」

 武器さえ抜かなければ大した話にはならないのか、殴りかかってきた男の拳を、軽々とスイトは受け止める。

 そして男の腕を捻ると、そのまま蹴り飛ばし、もう一人の男へと勢いよくぶつけた。

「ぐあっ!」


 そして諦めずに立ち上がろうとした男の、その顔面を容赦なくぶん殴った。



 男はぐったりと地面に横たわって、動かなくなった。


「ス、スイト?!やり過ぎじゃあないかな?!」

 驚き、思わずセレナもそう叫んだ。


 抵抗し辛い体勢をした男への強烈な一発は、もう一人の男を恐怖させるのに十分だったのか、残された男は座り込んだまま、スイトを睨みつけた。



「そこまでだ。あんたら、二度とここに足を踏み入れられなくなりたいのかい?」


 受付の奥の扉から、眼帯を付けた大柄の女性が入ってきた。ここの組合の支部長のようだ。

 それを証明するように、彼女だけは平気で巨大な大剣を抜いて、肩に担いでいた。

 スイトは両手を上げ、無抵抗を示す。セレナもそれにならった。


「今日は帰んな」


 組合長にそう言われるままに、二人は冒険者組合の建物を出た。

 いや、正確には三人だ。


「スイトさんとセレナさんって言うんですね!素敵な名前っ!私はヒメカって言うの。ほんと~にありがと!」

 ヒメカと名乗った女性は、相変わらずスイトにべったりとくっついて腕を組んでおり、離れない。

 パーマがかった金髪のその女性は、頭にも花飾りのようなアクセサリーを付けており、動くたびにゆらゆらと揺れた。


「ね、絶対また会おうね!仲良くしようねぇ~!!またねっ!!」

 ヒメカはセレナに対してもボディタッチを欠かさず、手をぎゅっと握ってブンブンと振った。


 そしてヒメカの後ろ姿を見送りながら、スイトがぽつりと言った。


「どう思う?もしや、あれは運命だろうか」


「いや、悪いことは言わん、やめとけ」

 ほとんど本能で、セレナはそう言った。

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