8. はじめまして、さようなら
セレナが今まで居た場所は、宿屋の一部屋だった。
セレナ以外は、男性陣、女性陣で別れて一部屋ずつ借りていたようだ。
宿屋のロビーはそのまま食事ができる場所になっており、メンバーは全員そこに集まっていた。
ウェイクのメンバーは、イーコ、スイトの他に3人。
格闘家のファーガに、踊り子のルメリア、魔術師のアルフォードだ。
それぞれが席に着いたが、誰も話したりせず異様な雰囲気だ。
「えーっと、それじゃあ始めまーす……始めよう……?始めるっ……!」
セレナが普通に始めようとしたところ、やはり口調が明らかに違うのか、みんなが怪訝な顔になったので、何度も言い直した。
「その前にちょっといいか?」
「はい、なんでしょ……じゃない。ああ、なんだ?」
質問してきた格闘家のファーガは軽装の鎧に、普段は鉄に覆われたナックルを装備して戦う。
するどい眼光に赤髪はツンツンと威嚇するように立っており、それほど大柄ではないが筋肉で身体はがっしりとしている。
「俺たちは、このギルドを抜ける」
「は……?」
セレナは頭が真っ白になった。
「俺と、ルメリア、アルフォードの三人だ」
「ちょっと待った、待ってよ……どうしてそんな?」
もはや取り繕うことも忘れて、セレナは問いかけた。
先ほどこのギルドを存続させようと決意したばかりだというのに、何かの冗談だろうか?
「そうやって、お前が態度を変えて、色々考えてるのは知ってる。俺たちも、先代からギルドマスターがお前に代わってから、それを信じてやってきたさ。他のやつらが抜けてもな」
「十人以上、抜けて行ってもね」
いつものように扇情的な衣装を着たルメリアは、セレナの方を見ずに、机を眺めながらそう言った。
十人とは、今残っているメンバーより前に、次々に抜けて行った、既にここにいない元メンバーのことだ。
「けど、もう無理だ。わかるだろ?この前の件もあって、お前も死にかけた。こんなことがこの先続くと思うと、俺達はお前に命を預けらんねえ」
「……」
セレナは、何か言おうと頭を働かせたが、何も言葉が出てこなかった。
「もう話し合いの段階は終わったろ。今まで何度もやってきたけど、無駄だった。だから、さよならだ。縁があったら、またどっかで会おうぜ」
そう言うと、ファーガは席を立った。
「ちょちょちょ、待ってよ!みんな本気なの?!」
イーコが追いすがるが、ファーガに続き、ルメリアとアルフォードも席を立った。
スイトはただ腕を組んで席に座ったままだ。
立ち去っていく二人を追いかけて、呆気にとられるセレナを通り過ぎるとき、アルフォードは一度立ち止まった。
「わ、悪いね」
ただ一言そう言った。
アルフォードは元々、コミュニケーションが得意なタイプではないが、小声でそう言っただけで立ち去り、残されたのは三人だけになった。
「そんな……」
セレナはただ、力なく椅子に座った。
「仕方のないことだ。いつかこうなるとは思っていたし、昨日の事件はまさにそのきっかけだろうな」
スイトはあくまで冷静に、そう言った。
「そんなぁ!解散しないでよ!?しないよねえ!私このギルドがないと生きていけないよ~!!」
イーコだけが素直に、その場でわんわんと泣いていた。
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