7. 人生の引継ぎ

「ふわぁ~~。よく寝たぁ。ってうわ、アンタ何、寝てないの?」

 ラフィは驚いてセレナの方へと飛んできた。


「ああ。色々考えてたら朝になっちゃった」


「へぇ。何か考えることあった?」


「リサが言ってただろ?セレナの人生を引き継ぐか、ここから逃げ出してしまうか」


「ここでダラダラしてるってことは、前者ってことでよさそ~ね?」

 あくびをしながらどうでもよさそうに、ラフィは言った。


「そうしようと思う」


「理由とか聞いた方がよさそう~?」


「無念だったと思うから。セレナさん」


 亮は死んだ。元居た世界と全ての関係性が断たれた。

 当然後悔がある。

 やりたかったことはいっぱいある。

 せめて家族に、友人に、言い残したかったこともある。


 それが突然絶たれてそのことすらも二度と考えることもない。それが死だ。


 亮だけが、奇跡的にこうやって死後を経験している。

 もし、セレナが逆の立場だったら、やはり元居た場所でやり残したことを、同じようにひどく後悔するだろう。


 ならばせめて。


「彼女がやりたかったこと、やれずに終わってしまったことを代わりにやってあげようと思う。自分の人生とか考えるのは、その後でいい」


「へぇ。人間はよくわかんないこと考えるのねえ!他人は他人でしょうに。それで、セレナがやりたかったことって?」


「セレナさんは、このギルド、”ウェイク”を大事にしていた。ウェイクを存続させたい、発展させたいと思ってたみたいだけど、あまり上手くいっていなかったようだね」


 セレナは戦闘能力は非常に高いものの、人望は残念ながらあまりなかったようだ。

 なぜなら、その高圧的な態度で人からの反発を生んでいたからだ。どうしても素直になれない性格のようだった。

 それを本人は自覚していないようだが、亮が客観的にみればわかることだった。


「なるほど!じゃあここを宣伝して、人を増やして、世界征服!って感じ?」


「世界征服はしないけど……まぁ、人が増えて有名になったら嬉しいんじゃないかな」


「なるほど〜。じゃあ私がいるだけで有利って感じね。妖精がついてるギルドなんて、他にないわよ!」


「そういうもんなんだ?」


「そうよ!」


 ラフィの言っていることが本当かはさておき、亮は当面の目標と決意を固めた。

 徹夜したが、すっきりして清々しくさえ感じた。


「ところで……」

「ん?」


「トイレに行きたいんだけど、どうしたらいいんだろう?」


「ぎゃはは!行くしかないでしょ!自分の身体だからって、あんまりじろじろ見ちゃダメよ~?」


「見るわけないだろっ」


 邪念を払うように必死になりながら、セレナは用を足す。

 この身体は元々生きていたセレナのものだ。知りもしない男に自分の身体を動かされるだけではなく、好き放題されるのはセレナが生きていたら嫌に決まっている。

 何も見ていない、聞こえていない。

 

 これから毎日こんなことが続くと思うと、気が気ではなかった。


 ため息を吐きながらセレナが部屋に戻ると、ほどなくしてノックの音がした。

 そういえば、朝にはギルドのメンバーでミーティングをするのだったか。


「セレナ~、起きてる?ミーティングできそう~?」


 イーコの声だった。迎えに来てくれたようだ。

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