5. とがった二人
ドタドタと足音が近づいてきたと思ったら、ノックも聞こえないままにバタンとドアが開いた。
「うわっ」
ベッドから上半身を起こしているセレナに対して身体を気遣う様子もなく、走って来た勢いそのままに、一人の少女が抱き着いた。
「セレナ~~~!!よかったよ~~!」
そう叫びながら泣きついて来たのは、テイマーのイーコだ。短めの金髪で、活発な性格なイーコは、鞭を武器として使う一方、動物を手懐ける魔法も得意だ。
「イーコ……マスターは怪我をしているんだぞ」
後から入室してきた高級そうな甲冑を身に着けている男は、スイトだ。訪れる村で必ずファンができるほどには見た目がよく、女性のように長い黒髪はよく手入れされている。
前衛を務めるスイトは、ギルドマスターのセレナのことをマスターと呼んでいる。名前で呼んでいる親し気なイーコとは対照的だ。
「セレナ~~生きててよかった~!セレナがいないと私生きていけないよぉ~」
イーコは本当に気遣いなくぐらぐらとセレナの身体を揺らした。
「ま、まぁまぁ……」
亮は記憶でイーコ達のことを知っているが、もちろん実際に付き合ってきたのは以前生きていたセレナであり、亮としては初対面だ。
話では聞いている人、程の相手にどう接していいかもわからず、ただ戸惑う。
「マスター、ひとまずよかった。俺も君がいないと、色々困るからな」
「お、おう、ありがとう」
亮がぎくしゃくと礼を述べると、突然イーコが突然叫んだ。
「っギャァ!!!!!」
イーコはベッドから飛び落ちると、空中を指を差す。
「よーっすう。今さら気づいたか!人間ども!」
妖精のラフィが、イーコの少し上の宙に浮き、腰に手を当ててふんぞり返っていた。
「なななんですかコイツ!セレナ!」
「あ、あ~、なんかリサさんが助けてくれたお礼にって……」
「え、えぇ~?妖精じゃん……ちゃんと言うこと聞くの?」
「聞くわけなかろうが!お前らが私の言うことを聞くのさ!はーっはっは!」
再び高笑いを始めたラフィだったが、スイトはおもむろに近づくと、むんずとラフィの胴体を引っ掴んだ。
「ひゃ!待て待て!ラフィはレディぞ!待てまて!」
抵抗を無視して、無言でラフィを間近でじろじろと見つめるスイトは、何を考えているのかわからない。
「妖精か……さすがに無いな……」
そしてそう言うと、スイトはぽいっとラフィを投げ捨てた。
ラフィは落ちかけたがふわりと再び飛び、宙に浮いた。
「おまっ!マジか!可憐なラフィちゃんに何がっかりして……あまつさえ投げ捨ててんねん!」
ラフィはカンカンになって抗議したが、スイトは気にもかけずに腕を組んで元の立ち位置へと戻った。
今度はイーコがラフィに興味深々で、捕まえようと近づいた。
「ラフィちゃんって言うんだ!見せて見せて~!かわいいねえ!」
「ええいやめい!気軽に触るな!セレナ助けろ!この人間ども、まともじゃないぞ!」
ひとしきりラフィを追いかけまわして捕獲を諦めたイーコは、再びセレナに向き直り話し始めた。
「はー疲れた!あ!そいえばファーガ達が、セレナの目が覚めたなら、明日ミーティングしたいって言ってたよ、朝大丈夫そ?」
「大丈夫だよ」
そう答えたセレナに対して、イーコは頭に疑問符を浮かべた。
「……何?」
「いやいや、なんだか元気ないなぁって」
「そうかな……」
「セレナだったらいつもは『構わんが』みたいな何ていうの?偉そうな感じじゃん?」
それを面と向かって言うイーコもイーコだが、亮が記憶を思い起こせば、確かにセレナの物言いは常に高圧的だった。
「あ、あぁ、気にするな。少し疲れている」
取り繕うようにそう言い、誤魔化すセレナに、イーコもそれ以上は追及しなかった。
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