4. 普段見ないタイプの妖精

 リサは、亮が落ち着くのを待ってから、こう告げた。


「あなたが第二の人生を送らざるを得なくなったこと、責任は私にあります。セレナさんの死への罪も。しかし、セレナさんの仲間は、あなたをセレナさんとして見るでしょう」


 亮が記憶を思い返すと、セレナは小規模ではあるものの、ギルドという冒険者仲間を束ねる、マスターをしていたようだ。


 ギルドの名前は”ウェイク”。セレナの先代が結成し、付けた名前だ。


「あなたがどういう人生を送るかは、あなたの自由です。セレナの生活を引き継いでもいいし、全てを投げ出して新しい自分の人生を生きても、構いません」


「私はどちらを選んでも、あなたを手助けします。まずはこれを」


 そう言うと、リサはパチン!と指を鳴らした。


 すると突然、光り輝く小瓶が現れた。


 正確に言えば、輝いているのは小瓶の中にいるモノだった。


 ビンにすっぽり入ったそれは、人の手で胴を掴めそうなほどの人形にも見えたが、光を発している。

 そして自ら動いている。ドンドンと両手で内側から瓶を叩いている。


「これは妖精です。普段見かけるものとは少し違うと思いますが……」

「残念ながら妖精を見るのは生まれて初めてだよ」


「まぁ!そうでした」


 リサがコルク栓を抜くと、中からすぐに妖精は飛び出してきた。

 体は金色に輝き、小さな布製のドレスを身につけている。金髪をポニーテールにしており、背中には蝶のような羽根が付いている。


「リッサ!あんたどういうつもりよ!こんなに長く反省部屋に閉じ込めるだなんて!」

「今回のは度がすぎます。あなたのせいで迷宮で魔力も使い果たしましたし、死にかけたんですよ?この機会がなければ、あと半年は反省部屋でしたからね」


「は、半年?正気……?」

 妖精は大袈裟にガタガタと震え始めた。


「この子はラフィ。いたずらっ子ですが、そこらの魔法使いよりは、強い魔力を持っています。あなたについて行かせます。きっと役に立ちますよ!」


 今までのやり取りからそうは思えないが、リサは胸を張ってそう言った。


「はあぁ〜〜?!なんでそうなるのよ何も聞いてないわよふざけんじゃないわよ!!!!」


 ラフィと呼ばれた妖精は大声でそう叫んだ。


「何でこんな奴と……って、あれ?」


 何かに気づいたようにラフィはふと止まると、じーっと亮、つまりはセレナの方を見つめた。


 そして突然腹を抱えて大笑いし始めた。


「ギャハハ!!何コイツ!外見と中身が全然ちぐはぐじゃない!何何?!なんでこうなってんの?!バカみたい!」


 亮は呆気に取られていたが、あまりに大笑いされるので、少し苛々しながら、無言でラフィを指差してリサの方を見た。


しかしラフィはひとしきり笑って勝手に落ち着き、話し始めた。


「はー……あー笑った!おっけー、いいよ!ついて行ったげる!」


「は?」


 どうしてそうなるのかさっぱりわからない亮は再び呆然とする。


「こんな面白いことないでしょ!あんたについていけば、面白いことだらけなのは確実!だからついて行ってあげる!よろこべ〜?」


「リサさん、コイツ、ウザいんですけど?」


 あまり物をはっきり言わない亮も、この時ばかりは本音が出た。


「ま、まぁまぁ。もし何かピンチになれば、頼りになるし、ラフィと私は魔法で連絡も取れるから、ピンチになったらラフィに言ってくれればってことで!」


「ウザい?ウザい?私が?ギャハハ!」


 何が面白いのかわからないが、ラフィは宙で笑い転げている。


 リサは仕切り直すように突然両手をパチン!と合わせた。

「さて。私はここでお暇しなくては。騒がしくしていたので、セレナさんの仲間が来てしまったようです」


 リサはそう言うと、扉の方へ目配せした。

 そして傍のリュックと、大きな杖を持ち上げると、ベッド脇から部屋の広いところへ移動した。


「では、良き旅路を!」


「え、ちょっと待っ」


 亮の制止も聞かず、リサは杖を掲げると、リサの周りを緑色の竜巻が取り囲んだ。


「うわっ!?」

 亮が驚いていると、やがて竜巻は徐々に小さくなっていった。

 そしてそれが消える頃には、その中心にいたはずのリサも、一緒に消えていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る