第5話
そのとき、美優の奇声が教室中に
「キエエエエエエ~」
私が美優を見ると・・・左ひざを大きく折り曲げて、腰を落として、反対の右足を制服のフレアスカートから真っ直ぐに床に突き出している。そして、左手を頭の上に突き上げて、その手のひらを天井に向けていた。右手は右足に沿わすように真っ直ぐに前に伸ばして、手のひらを前方に向けている。なんとも不思議な格好をしているのだ。
何なの? あの格好は?
結奈の声が聞こえた。
「あれはカンフーの決めポーズよ」
すると、床に倒れていた教師の豊田の口から笑い声が洩れて、教室中に大きく響いたのだ。
「ははははは。・・・決めポーズはまだ早いぞ。池島」
そう言うと、豊田はゆっくりと床から立ち上がり、衣服の埃を払って、美優と向き合った。
「優等生で、おしとやかな池島が、まさかカンフーをやるとは思わなかったよ。実は、オレも学生のときに空手をやっていたんだ。さっきは油断していたので、やられたが、今度は負けないぞ。・・・勝負だ、池島」
そう言いながら、豊田は両手を身体の前に出して、空手の構えをした。
美優が妖しく笑った。
「あら、豊田先生。それって、カンガルーの真似ですかぁ? はっははは。先生、そんな構えで、私に勝てると思っていらっしゃるの? 冗談は先生のオモロイ顔だけにしてくださらない?」
そう言うと、美優はだらりと両手を下にたらした。美優が言葉と無防備な構えで、豊田を挑発しているのだ。豊田の顔が見る見る真っ赤になった。
「おのれ、池島。・・・これでもくらえ!」
豊田はそう言うと、美優に背中を向け、右足を上げて左足を軸に一回転した。空中に上げた豊田の右足のかかとが、美優の顔に向けて一直線に飛んだ。
結奈の声が聞こえた。
「後ろ回し蹴りよ。空手の上級
後ろ回し蹴り? 豊田先生、生徒のかよわい女の子になんてことをするの?
豊田の後ろ回し蹴りのものすごい勢いに、思わず私は美優を凝視してしまった。
キャー! 美優が危ない!
豊田の右足のかかとが、美優の顔に当たると思った瞬間、美優の姿が消えた。
えっ? 美優は?
豊田の右足が美優のいた空間を通過して、後ろにあった教壇の壁に当たった。ガーンというものすごい音がして、木でできた教壇の側面に大きな穴が空いた。木の屑が小さな粉になって、教壇の周りに飛び散った。私の眼に、教室の窓から差し込んでくる光の中で、木の屑が小さな埃となって浮遊しているのが見えた。
美優は? どこ?
私が顔を上げると・・・美優の身体は豊田の上空に跳んでいた。
私は眼を疑った。美優は私と同じで運動はまるでダメなのだ。そんな美優が、あんなに高く飛び上がれるなんて・・・
豊田の上空で美優の身体が180度横向きに反転した。美優と豊田は、お互い向き合っていたが、美優が横向きに反転したので、美優の背中と豊田の正面が向き合う形になった。
美優の身体がそのまま上昇していって・・・美優の頭が教室の天井に達すると・・・今度は、美優の身体が豊田の上に落ちてきた。
落下の風圧で、美優の制服のフレアスカートが、まるで花が咲くように大きく開いた。美優の白い素足の上に紫色の『絶対に履いてはならないパンティ』があるのが、私の眼に映った。
白い素足に紫のレースのパンティ・・・なんとも
クラスメートたちから、美優の紫のパンティに「オー」というどよめきが起こった。
そのままの姿勢で、美優が豊田の真上に落下していった。
すると、豊田が美優を見上げた。豊田には美優の制服の背中が見えているはずだ。そして、豊田が教室の床にスッとしゃがみこんだ。美優の頭上からの攻撃に備えたのだ。
制服のフレアスカートが花開いた格好のまま、美優が落下していって・・・美優の両足が教室の床に着地した。
トンという軽い音がした。
次の瞬間、美優の制服のフレアスカートがゆっくりと閉じていって、しゃがんでいる豊田の身体を頭から押し包んだ。
一連の美優の動きが、まるでスローモーションの映像を見るように、私の眼に焼き付いた。
側面に穴が空いた教壇の横に、美優が立っている。美優の背中側で豊田がしゃがんでいる。豊田の身体は美優の閉じた制服のフレアスカートの中にあった。美優が豊田に背中を向けて立っているので、スカートの中の豊田の顔の前には、ちょうど美優のお尻があるはずだ。
教室の中を一瞬の静寂が支配した。
すると、ボゴーンという巨大な音が教室の中に響き渡った。教室の壁と床が揺れた。
えっ、今のは何? 地震なの?
私は思わず椅子から立ち上がりかけた。
驚いた私が前を見ると・・・美優のフレアスカートが大きく膨らんで、スカートのすそが波を打つようにひらひらと揺れていた。
美優の声がした。
「先生。これが、私の必殺技よ。如何かしら?」
すると、結奈が立ち上がりかけた私を手で制したのよ。私の耳に結奈の声が聞こえた。
「オナラよ。美優が豊田先生の顔に向けて、特大のオナラをぶっ放したのよ」
床にしゃがんでいる豊田の身体が揺れた。そして、ゆっくりと後ろに倒れていった。美優のフレアスカートの裾から、豊田の顔が出てきた。眼を大きく見開いて、口から泡を吹いている。豊田はそのまま、後ろにゆっくりと倒れていって・・・背中から教室の床に倒れてしまった。
ドーンという音がして・・・床の埃が舞った。
床に伸びてしまった豊田の横で、美優がボクシングのチャンピオンがやるように、両手を上げてガッツポーズをとった。美優の声がした。
「オナラァァ~。いっぱぁつぅぅぅ」
教室の中が静寂から歓声に変わった。
ワーという大歓声と拍手が教室の中に大きく湧き上がったのだ。何人かの男子が立ち上がって拍手をしている。一人の男子から「ブラボー」という叫び声が飛んだ。
再び、結奈の声がした。
「杏。今よ。美優を助けなきゃ」
私と結奈は席を立って、美優の元に駆けつけた。美優が私たちを見て、茫然として言った。
「杏と結奈ね。私、どうしたのかしら?」
私と結奈は、美優を授業中で誰もいない女子トイレに連れて行った。女子トイレに入ると、美優は完全に意識が戻ったようだ。美優が顔を真っ赤にして言った。両手で顔を覆っている。
「いやだわ、私。豊田先生にあんなことをするなんて・・・」
結奈が言った。
「美優。あなた、豊田先生の顔に特大のオナラをぶっ放したのよ」
美優が手で顔を隠したままで答える。
「みんな、覚えているわ。カンフーで豊田先生と戦ったことも、オナラのことも・・・でも、それを頭では分かっているんだけど・・・身体がまったく言うことを
今度は私が聞いた。
「それで、美優。今は大丈夫なの?」
美優が大きく頷いた。
「ええ、もう大丈夫みたい。さっきは意識はあるのに、身体が何かに支配されてたみたいだったけど・・・もう、私の意識で身体が動くわ」
結奈が美優の肩に手を置いて、うんうんと大きく頷きながら言った。
「私のときと同じね・・・きっと、『絶対に履いてはならないパンティ』に支配されると、頭で状況を理解していても、身体がまったく別の行動を取ってしまうのよ」
そのとき、2時限目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。女子たちがトイレに大挙して押し寄せてくるので、私たちはやむなく女子トイレから教室に戻った。私たちはなんだか茫然としちゃって・・・休憩時間には全く話が弾まなかった。
しかし、私は頭を抱えてしまった。1時限目の国語の現代文では結奈が時代劇のセリフを口にした。2時限目の化学では美優がカンフーとオナラで教師の豊田と戦った。すると・・・次の3時限目は私なのかなぁ・・・イヤだなあ。
3時限目は現代社会の授業だった。現代社会の教師は、
野際が教壇に立った。教壇の側面には、さっきの美優と豊田の『対決』で大きな穴が空いているのだが、穴は教室の入り口とは反対側なので、野際は気がつかないようだった。
野際が教壇から言った。
「今日は『社会における女性の立場』について、みんなで討論しましょう。まず、いつものように、最初に誰かに自分の意見を言ってもらいます。では、『社会における女性の立場』について、自分の意見を話せる人はいますか?」
私が「はいっ」って手を上げた。
えっ・・・何で私が?・・・私が一番驚いてしまった。
野際が笑って、私を指さした。
「えっ、
私の身体が勝手に立ち上がって、教壇のところまで勝手に歩いて行った。教壇に立って、クラスメートたちを見わたすと、私の口から勝手に声が出た。
「私は『社会における女性の立場』を向上させるために、最も重要なことは、女性が立ってオシッコ、すなわち、立ちションをすることだと思います」
ええっ、女性の立ちションですって・・・私の顔が真っ赤になった。みんなの前で、私は何を言ってるの? 女の子がこんなことを言うなんて・・・恥ずかしい・・・
私の意志とは無関係に、私の口から引き続いて勝手に声が出た。
「海外では昔から、さまざまな女性用の立小便器が開発されてきました。一番、多いのが・・・」
私はそこで言葉を切ると・・・教室の壁に立てかけてあった雨どいを持ってきた。プラスチック製の半円形で、長さが1mくらいのものだ。教室の外の雨どいが壊れたので、業者の人が修理のために教室の隅においていたものだ。たしか、今度の日曜にそれをつかって修理をすると聞いていた。
私は、その半円形の雨どいの両端を両手で持った。そして、右手を身体の前に、左手を身体の後ろにして、さらに半円形の開口部が上になるようにして、雨どいを自分の足の間に通した。つまり、スカートのまま、雨どいの上にまたがった格好だ。
そして、そのまま両手で、雨どいを持ち上げて・・・なんと、私はスカートを履いたままで、雨どいを自分の股のところまで引き上げたのだ。
もちろん、私の身体が意思とは全く別に、勝手に動いているのだ。
当然、制服のフレアスカートの前後が大きくめくれた。きっと、私の赤い『絶対に履いてはならないパンティ』が露わになっているだろう。
キャー・・・恥ずかしい・・・
野際とクラスのみんなは、何が始まるのかと息を飲んで、私を見つめている。
私の口から、またもや勝手に声が出た。
「昔は、女性は、こんな格好で、雨どいのような形状の立小便器にまたがって、立小便をしていました」
野際の声が飛んだ。
「垣嶋さん、やめなさい。あなた、レディーがそんな格好をして・・・恥ずかしくないの?」
野際を無視して、私の声が勝手に話を続ける。
「しかし、これでは、女性の場合、雨どいからオシッコがこぼれることも多くて・・・最近は、もっと別の形状の女性用立小便器が開発されて市販されています」
私は雨どいを教室の床に置くと、今度はクラスメートの方を向いて立った。
「最新のものは男性用の立小便器の下を大きく広げた形をしています」
私に両手が勝手に動いて・・・私は手で『男性用の立小便器の下を大きく広げた形』を宙に画いた。
私の口から勝手に声が出た。
「最新のものは、こういうふうに使います。まず、小便器にお尻を向けて立ちます。そして、お尻側のスカートをまくり上げます」
私の身体が勝手に動いて、身体を反転させて、お尻をクラスメートの方に向けると・・・なんと、私の両手がお尻側の制服のスカートをまくり上げた。
ええっ・・・なんてことをするの?
再び、私の赤い『絶対に履いてはならないパンティ』が、クラスの全員に向けて露わになった。男子生徒から「おお~」という声と拍手が沸き上がった。女子生徒は息を飲んで、私を見つめている。
私は何をやってるの? キャー・・・恥ずかしい・・・
「そうして、中腰になって・・・お尻をグッと奥に突き出します」
私の身体が勝手に中腰になって・・・赤いレースの『絶対に履いてはならないパンティ』を履いた、お尻をグッとクラスメートの方に向かって突き出した。
「こうして、女性用立小便器の上にお尻を持っていって・・立ってオシッコをするんです」
野際が真っ赤になって、こちらにやってきた。
「垣嶋さん、いい加減にしなさい。レディーがそんな恥ずかしい恰好をするのは止めなさい。あなた、女の子なのよ。お下品にもほどがあるわよ」
私の口から勝手に声が出た。
「先生。今までは市販されている女子用立小便器の説明です。でも、市販品でも不十分なんです」
私の勢いに野際が立ち止まった。一体何が始まるのかと眼を白黒させている。
私の口の声が勝手に続ける。
「それでは、皆さん。私が考えた、すばらしい女子用立小便器をご紹介しましょう」
言ってから、私の顔が見る見る真っ赤になった。
キャー・・・私が考えた女子用立小便器ですって? 何なの、それは? てか、私って、みんなの前でまだ恥ずかしいことをする気なの?
(次回に続く)
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