第4話
私と美優は結奈を女子トイレに連れて行ったの。美優は現代文の教師の越後に「結奈を保健室に連れて行きます」と言ったけれど、もちろん、保健室なんかに連れていくわけにはいかないわよね。
今は授業中なので、幸い女子トイレの中には誰もいなかった。トイレの中に入ると、さっそく美優が私に言ったのよ。
「杏。私が、結奈が暴れないように後ろから抱えてるから、その間に、あなたが、結奈の『絶対に履いてはならないパンティ』を脱がせて頂戴」
そう言うと、美優が後ろから結奈を抱きかかえた。結奈は何だかきょとんとした顔で、美優にされるままになっている。美優が私を急かせた。
「杏。早くして・・結奈がまた時代劇のシーンを始めて、暴れ出す前にパンティを脱がさなきゃ・・」
美優の声に私は急いで結奈の制服のスカートの裾をつかんだの。
「結奈。ごめんね」
そう言うと、私は思い切り結奈のスカートをめくり上げたのよ。美優が結奈を後ろから抱きながら、左右の手を結奈の背中から前に回して、両手で私がめくり上げたスカートの裾をつかんでくれた。
私の眼に・・結奈のしなやかな白い素足とピンクのレース柄の『絶対に履いてはならないパンティ』が飛び込んできた。こんなの・・とても、先生や男子には見せられない格好だ。でも、ここは女子トイレの中で・・しかも、私たち3人しかいないから大丈夫よね。結奈はそんな格好にされても茫然として、私を見つめている。
私はそんな結奈をチラリと見て、もう一度言った。
「結奈。パンティを脱がすわよ。ごめんね・・」
そう言って、私は両手で、結奈のピンクの『絶対に履いてはならないパンティ』をつかんで、少しずつ下にずり下げたのよ。
結奈のパンティを膝まで降ろして・・・そこで、私は結奈の足を片足ずつパンティから抜こうとして・・・一旦、結奈のパンティから手を離したのよ。そのときだ。
あれっ?
私は眼を疑った。結奈のピンクのレース柄の『絶対に履いてはならないパンティ』がまるで生き物のように、スルスルと結奈の白い太ももを勝手に上がって行って・・・スポッと結奈のお尻にハマってしまったのよ。
私は混乱してしまった。
うそぉぉ~・・これは何なの? まるで、手品を見ているみたい。パンティが勝手に動くなんて・・・一体、どうして?
美優の声が聞こえた。
「杏。何をしてるの? 早く、結奈のパンティを脱がせなさいよ」
美優は後ろから結奈を抱えているので・・・今の不思議な『絶対に履いてはならないパンティ』の動きが見えなかったのだ。私は美優に言った。
「美優。結奈のパンティを膝まで降ろしたんだけど・・・勝手に動いて、また結奈のお尻に戻ってしまったのよ」
「杏。何をバカなことを言ってるの? パンティが勝手に動くはずがないでしょ」
「私も信じられないのよ・・じゃあ、美優、今度は私が結奈を後ろから抱えてるから、美優が結奈のパンティを脱がせてみて」
今度は、私が美優と入れ替わって、結奈を後ろから抱きかかえた。美優が私がしたのと同じように結奈のスカートをめくり上げた。私が後ろから両手を回して、そのスカートの裾をつかんだ。それを見て、美優が何も言わずに、結奈のパンティを一気に引きずり下ろしたのよ。
私は結奈の身体の横から顔をのぞかせて、結奈の太ももを見ていたの。
すると・・・美優がパンティを膝まで降ろして、手を止めたのだ。美優が首をかしげたの。
「あれっ、おかしいわねえ。どうしても・・パンティが膝から下に降りないわ」
そして、美優がパンティから手を離すと・・・なんと、さっきと同じように、パンティがスルスルと勝手に結奈の太ももを上がって行って・・・またも、結奈のお尻にスポッとおさまってしまったのだ。
それから、私と美優は何度も結奈のパンティを脱がそうとしたのよ。でも、無駄だった。パンティは膝から下にどうやっても降りなくて、手を離すと、勝手に結奈のお尻に戻ってしまうのよ・・・
何回かやっているうちに、結奈の意識が戻ったみたい。結奈の声が聞こえた。
「あれ? 美優、杏。・・何をやってるの?」
私が急いで結奈に言った。
「結奈。あなた、意識が戻ったの? 良かったわ。あなたは、『絶対に履いてはならないパンティ』に操られて、現代文の授業中にテレビや映画の時代劇のセリフを口にしていたのよ」
結奈が頭を振りながら答えた。
「時代劇のセリフを言ったのは・・私も分かっていたのよ。意識では分かっていたんだけど・・身体と口が勝手に動いて・・意識で分かっていても、自分では全くコントロールできなかったのよ」
すると、美優が急いで言った。
「結奈。それどころじゃあないのよ。今、杏と二人で、あなたの『絶対に履いてはならないパンティ』を脱がそうとしてるんだけど・・どうしても脱がせることができないのよ。・・・そうだ。結奈。今度は、あなたが自分で脱いでみて。パンティを履いてる人なら、脱ぐことができるのかも知れないわ」
それでね、今度は結奈が自分で制服のスカートをたくし上げて、自分の手で『絶対に履いてはならないパンティ』を降ろしてみたのよ。でも・・・全く同じことだった。パンティは膝までは降りるのだけれど、そこから下には絶対に降りないのよ。そして、膝まで降りると、勝手に太ももを上がって行って、また結奈のお尻におさまってしまったの。
結奈が何度やっても同じだった。結奈が泣きそうな声を出した。
「え~? こんなのイヤよ。これじゃあ、ずっと『絶対に履いてはならないパンティ』を履いてないといけないじゃない? 私、授業中に、また、あんなことを口にするのって、もうイヤよ・・」
私は結衣に同情したのよ。
そりゃ、そうよね。分かるわ。結奈の気持ち・・
すると、美優が思いついたように言ったのよ。
「えっ、でも、これって、結奈だけなの? ひょっとして、私も杏も『絶対に履いてはならないパンティ』を脱ぐことができないの?」
私と美優は急いで、自分たちのスカートをたくし上げて、それぞれの『絶対に履いてはならないパンティ』を脱ごうとしたのよ。でも・・結奈と同じだった。膝までは降りるんだけど、どうしても膝から下に降りなくて・・パンティはまた勝手に私たちのお尻に戻ってしまうのだ。
私は仰天して、思わず叫んじゃったのよ。
「わ~、こんなのイヤよぉ。私たち3人とも、誰も『絶対に履いてはならないパンティ』を脱げないなんて・・・一体どうして、こんなことが起こるのぉ?」
すると、どんなときにも冷静な美優がポンと手を打って言ったのよ。
「そうだ。私、裁縫セットを持ってるから、ハサミがあるわよ。ハサミでパンティを切っちゃいましょう」
美優は急いで教室に戻って、裁縫セットを取ってきた。そして、女子トイレの中で、結奈、美優、私の順にハサミでパンティを切ろうとしたのよ。だけどねぇ・・・一体、このパンティはどんな素材で作られているのか・・・どうしてもパンティの布地がハサミで切れないのよ。
なんてことなの?・・・こんなことが現実にあるの?
私たち3人はトイレの中で茫然となって・・お互いの顔を見まわしちゃった。
そのとき、美優が、学校に持ってきていた『絶対に履いてはならないパンティ』の透明袋をスカートのポケットから取り出したのよ。昨日、ランジェリーショップのワゴンセールで私たちがこの3枚の『絶対に履いてはならないパンティ』を買ったときに、3枚のパンティが入っていた透明の袋だ。そして、美優が袋に書かれている説明書きを見ながら、ポツリと言ったのよ。
「ここに説明書きが消えてる箇所があるんだけど・・・ここに、一度履いたら絶対に脱げないって書いてあったのかもね・・・」
私と結奈は飛び上がった。そして、二人が同時に全く同じことを口にしたのよ。
「そ、そんな・・じゃあ、私たちは一生、この『絶対に履いてはならないパンティ』を履いたままなの?」
だけど、私たちの会話はそれ以上進まなかったの。1時限目の授業が終わるチャイムが学校中に鳴り響いたのだ。休憩時間が始まったので、すぐに何人もの女子生徒たちがこの女子トイレに押し寄せてくるのは間違いない。私たちは急いでトイレから教室に戻ったのよ。
休憩時間は10分間だけだ。私たちは対策を協議したんだけど、対策なんて簡単に見つかるはずがないわよねえ。結論が出る間もなく、2時限目の開始を告げるチャイムが、むなしく教室に響いたのよ。
2時限目は化学の授業なの。化学の教師は、豊田という男性だ。30才になったばかりで、1時限目の現代文の越後よりは、はるかに若い。
豊田が教壇から言った。
「今日は酸化還元と電子のやり取りを学習する。まず、電子を失うことを『酸化』、電子を受け取ることを『還元』と言うんだ。これは絶対に忘れないように、みんな、頭に入れておいてくれ。では、酸化と還元が同時に起こる『酸化還元反応式』の作り方を説明しよう・・・」
そう言って、豊田が黒板に何か書き始めた。
そのときだ。
私の隣の席の美優が突然立ち上がったのだ。そして、奇声を発した。
「アチョォォォ~」
あれっ、美優、どうしたの?
美優の奇声は止まらない。立って奇声を上げながら、両手を前に突き出して、何やら手首をぐるぐると回し出した。
「アチョ、アチョ、アチョォォォ~」
クラスの全員が美優を見た。みんな、優等生で、しかも、おしとやかなお嬢様タイプの美優が授業中に急に立ち上がって、そんな奇声を上げていることが信じられないという顔だ。
美優が両手首を回しながら、すり足で教壇に向かった。豊田が驚いて、チョークを持ったまま振り返った。
「えっ・・どうしたんだ。池島?」
池島は美優の姓だ。美優は豊田の横にやって来ると、ひときわ高い声を張り上げた。
「アッチョォォオオオオ~」
そして、左足を軸にして、右足を大きく回転させて振り上げた。・・・なんと、制服のスカートを履いたままで、特大の回し蹴りを豊田の顔に叩きこんだのだ。
私たちの高校の女子の制服は、ふんわりしたミドル丈のフレアスカートだ。美優のスカートが大きくめくれあがって、紫色の怪しげなレース柄の『絶対に履いてはならないパンティ』が丸見えになった。男子生徒たちから「ヒョォ~」と、そして女子生徒たちから「キャ~」と声が上がる。
豊田が、突然の美優の回し蹴りをまともに顔に食らって、そのまま、教室の壁まで吹っ飛んだ。壁に豊田の身体がぶつかって、ボガーンという大きな音がして、ほこりが宙に舞った。壁にもたれた形で、豊田の身体が静止した。
すると、美優が再びすり足で、豊田に近づいた。今度は両手を前後に交差させるように動かしている。再び、美優の口から奇声が飛んだ。
「アチョ、アチョ、アチョォォォ~」
美優が今度は右足の膝を一旦たたむと、一拍置いて、たたんだ膝を前に向けて一気に伸ばしたのだ。右足が真っすぐに宙を飛んで、豊田の股間にめり込んだ。美優の渾身の前蹴りだ。再び、制服のフレアスカートが大きくひるがえって、美優の白い素足と紫色の『絶対に履いてはならないパンティ』が露わになった。美優の前蹴りを股間に受けた豊田が「ひぇぃぃぃ」と訳の分からない声を上げた。
その声で、美優は右足を豊田の股間から、ゆっくりと床に降ろした。すると、豊田の身体が壁にもたれたまま、少しずつ傾いていって・・・そのまま、ドオンと大きな音を立てて、横向きに床に倒れてしまった。教室の中にいる男子生徒たちはヤンヤの喝采だ。拍手が起こっている。ピューピューと口笛を吹いている生徒もいる。
男子生徒たちの拍手喝采の中で、私と結奈は呆然として、美優のこの一連の不思議な動きを見ていたの。あまりのことに、私たち二人とも言葉が出ないのよ。
まるで、アクション映画のワンシーンのようだ。
えっ、映画?・・ってことは、これって?
豊田の身体が床に倒れて動かなくなると、ようやく私の口から声が出た。
「結奈。これって、きっと・・・『絶対に履いてはならないパンティ』が引き起こした『自分が思ってもいない行動』よね。・・・しかし・・美優は一体何をしているのかしら?」
結奈の声が聞こえた。
「きっと・・ブルース・リーよ」
「えっ、ブルース・リー? ブルース・リーって誰なの?」
結奈が説明した。
「大昔のハリウッドの有名な映画俳優よ。ブルース・リーはカンフーの達人なのよ」
私は首をひねった。カンフーなんて知らないわ。
「カンフー?・・カンフーって何なの?」
「古代からある中国の拳法のことよ。日本の空手みたいなものね」
運動神経抜群の結奈は格闘技ファンでもある。結奈の声が続いた。
「美優がしているのは・・きっと、映画の真似よ。大昔にブルース・リーが主演して、世界中で大ヒットした『燃えよドラゴン』というカンフー映画があってね。きっと美優は、その映画の中のブルース・リーのカンフーの真似をしてるのよ。・・・と言うよりも、『絶対に履いてはならないパンティ』に操られて、ブルース・リーのカンフーの真似をさせられているのよ」
私は床に倒れている豊田の前で、勝ち誇ったように突っ立っている美優を見た。
「でも、結奈・・・私たち、どうしたら、美優のカンフーを止めさせることができるの? 『絶対に履いてはならないパンティ』は絶対に脱げないのよ・・」
結奈も首をひねる。
「そうねえ。早く美優を助けてあげたいんだけど・・一体、どうしたらいいのかなあ? 困ったわねえ・・」
私たちは途方に暮れた。
そのとき、再び、美優の奇声が教室中に
「キエエエエエエ~」
(次回に続く)
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