第2話
美優が袋の説明書きを見ながら、首をひねった。
「おかしいわねえ・・・説明書きが一部途中で消えているのよ。でも、消えていないところに書かれているのはね・・・何だと思う?」
美優が話を切って、結奈と私の顔を交互に見た。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。もう、美優ったら、もったいぶらないで早く言ってよぉ・・気になるじゃないのぉ・・
美優に私の心の声が聞こえたみたい。美優は私にニッコリ笑って、話を続けた。
「あのね、ここに書かれている説明によるとね・・・このパンティを履いたら、『自分が思ってもいない行動』を取ってしまうんだってさ。この説明では、作ったこともない替え歌を歌ったり、見たこともない映画のセリフを口にしたり、知らないダンスを踊ったり、好きでもない人にキスしたり・・とにかく、そういう『自分が思ってもいない行動』を取るそうよ」
私は飛び上がってしまった。
え~、ウソでしょう! パンティを履いたら『自分が思ってもいない行動』を取るなんて・・そんな話は聞いたこともないわ。そんなの魔法じゃん。しかも、好きでもない人にキスするなんて・・そんなのイヤよぉ。でも『自分が思ってもいない行動』って、パンティを履いてる間、ずっと続くのかしら?
思いがけない話に、私の頭にいろんな思いや疑問が一度に浮かんできて・・私は混乱しちゃった。
思わず、私は美優に聞いたのよ。つい、私の思いと質問がごっちゃになってしまった。
「ええ~。そんなのイヤよ。好きでもない人にキスするなんて・・美優、それで、その『思ってもいない行動』って、パンティを履くと同時に始まるの? そして、ずっと続くの?」
美優が首を振った。
「いえ、そうではないみたい。この説明によると・・パンティを履くと、『思ってもいない行動』が、あるタイミングで始まって、いつかは終わるって書いてあるわ。でも、始まるタイミングは履いてる本人でも分からないみたいね。それに、終わるタイミングも・・『いつかは』ってことは・・いつまで続くか、本人でも分からないわけね」
私は美優の言ったことを復唱してみた。
「じゃあ、『思ってもいない行動』って、パンティを履くと同時に始まるわけでもなくて・・そのパンティを履いてる本人もいつ始まるか分からないのね。それで『思ってもいない行動』が終わるときも、本人にはいつ終わるのか分からないのね」
何だか変な話よねえ・・
すると、結奈が手を叩いたのよ。
「わあ~、面白そう。ねぇ、このパンティを買って、3人で履いてみようよ」
私は結奈をにらんだ。もう、この子は何を言い出すやら・・
それで、私は結奈を叱ったのよ。
「ダメよ、結奈。これを履いたら、『思ってもいない行動』を取っちゃうのよ。結奈、あなた、好きでもない人にキスしてもいいの?」
結奈は明るく笑った。
「平気よ、そんなの。どうせ、いつかは、元に戻るんでしょ。元に戻ったら、あれ、本気じゃなかったのって言えばいいだけじゃん。それに、杏、パンティを履いたら『思ってもいない行動』を取ってしまうなんてことが本当にあるわけないでしょう。そんなの嘘っぱちに決まってるじゃない」
私は肩をすくめた。
「まあ、あきれた子ねえ。もしホントだったら、どうするのよ? 『自分が思ってもいない行動』を取ってしまうのよ」
すると、私と結奈を仲裁するように、美優が笑いながら言ったのよ。
「結奈、杏。これって『自分が思ってもいない行動』なのよ。だったら、悪いことばかりじゃないのよ。つまり、普通なら解けない数学のテストの問題が簡単に解けたり、鉄棒が苦手な子が急に逆上がりが出来るようになったり、好きな人にすんなり告白出来たり・・そんなこともあるわけじゃないの。パンティを履いても、『悪いこと』ばかりじゃなくて、きっと『いいこと』もあるわよ」
結奈が、我が意を得たりとばかりに美優に賛成した。
「そうよ、杏。美優の言う通りよ。あなた、今度の学年末試験で満点を取ってみたいと思わないの? 私、一度でいいから、美優みたいに満点を取ってみたいわ」
美優が結奈を見て笑った。
「私だって、結奈みたいに体育のマット運動で、きれいに側転を決めてみたいわ。それにさあ・・・ここに『絶対に履いてはならないパンティ』なんて書いてあると、逆に絶対に履いてみたくなるじゃない。結奈、杏、そう思わない?」
結奈がすぐに答えた。
「思う、思うよ、美優。『絶対に履いてはならないパンティ』なんて書いてあるということは・・・これって、絶対に履けっていうことじゃない。だから、3人で、これを買って履いてみようよ」
私は「そうかなあ」と言って、首をかしげたが・・・正直に言うと、私も履いてみたい気がしたのよ。『絶対に履いてはならない』って言われると、誰でも履いてみたくなるわよねえ。それが人間の心理だもの。
それに、私も結奈の言うように、『自分が思ってもいない行動』なんて、ウソだとは思うのよ。・・・だけど、もしホントだったら・・・やっぱり、買うのは止した方がいいんじゃないのかしら・・・
私が迷っていると、美優が私に言ったのよ。
「杏。心配することは無いわよ。だって・・このパンティを履いたら、『自分が思ってもいない行動』を取ってしまうわけでしょ。ということは・・パンティを履いていないときは、『自分が思ってもいない行動』は取らないわけじゃない。だから、私たち3人がこれを履いて、もし3人の中の誰かが何か変な行動を取ったら、あとの2人がその子をトイレに連れて行って・・その子のパンティを脱がしちゃえばいいのよ。そうしたら、その子の『自分が思ってもいない行動』は終わるわけでしょ」
美優の言葉を聞いて、私の眼からウロコが落ちたのよ。ポロッ・・・
「あっ、そうか」
さすが、優等生の美優だ。頭がいい。美優の言う通りだ。誰かに何かあったら、あとの2人がすぐに、その子のパンティを脱がせばいいんだ。なぁんだ、心配して損しちゃった・・・
結奈がパチンと手を打った。
「そうねえ。・・ということは、このパンティって、私たちみたいに、常に一緒に行動している女の子のグループが履くのが一番いいわけね。そして、このパンティを履くときは、私たちは常に履き替え用の『普通のパンティ』を持って行動すればいいということなのね。・・・さすが、美優ねえ。やっぱ、優等生は違うわ」
すかさず、美優が結奈に言ったのだ。
「そうよ。結奈もこのパンティを履いたら、私みたいに頭がよくなるかもよ」
美優の言葉に、私たち3人は笑い出しちゃった。笑いながら、結奈が言ったのよ。
「なんだか、この『絶対に履いてはならないパンティ』って、私たち仲良し3人組のためにあるみたいね」
結奈の言葉に、私たち3人は・・・私たちが『絶対に履いてはならないパンティ』を買うことが、前々から決まっていたような不思議な感覚になっちゃったのよ・・・
こうして、私たち3人は、結局、その『絶対に履いてはならないパンティ』を買うことにしたのよ。
私たちが『絶対に履いてはならないパンティ』をレジに持っていくと、レジのお姉さんが「あれっ、こんなのあったかしら?」と言って首をかしげた。よく見ると、『絶対に履いてはならないパンティ』には値札が付いていなかったのだ。
私はちょっぴり気になったんだけど・・しかし、レジのお姉さんはそれほど気にするふうでもなく、「まあ、いいでしょう」と言って、他のワゴンセールのショーツと同じ値段で売ってくれた。
それから、私たちは、ショッピングモールの女子トイレに行って、買ったパンティを3人で分けたのよ。『絶対に履いてはならないパンティ』の中身は、ピンク、赤、紫のレース柄のド派手な3枚組みのパンティだ。私たちは、それぞれが好きな色を言って・・・結局、結奈がピンク、美優が紫、私が赤のパンティを取ったの。
そして、結奈と美優が強く主張するので・・・なんと、私たち3人は、それぞれのパンティを明日学校に持っていって、朝、学校のトイレで普通のパンティから履き替えることにしたのだ。
私はさすがに学校で履くのはイヤだったんだけど・・
美優が「杏。これは、私たち3人が一緒のときに履かないといけないのよ。私たち3人が確実に一緒にいるのは、学校でしょ。だから、学校で、このパンティに履き替えるのが一番じゃない」と言うので、納得したのよ。言われたら、その通りよね。お
だけどね・・私は何だか釈然としなかったのよ。これって、『履いてはならない』って言われると『履きたくなる』という人間の心理を利用して・・私たちは、袋の説明書きに、うまく誘導されているような気がしたの。
そして、このときには、明日学校で何が起こるか、私たち3人は知る由もなかったのよ。
(次回に続く)
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