11 人物の、くせがスゴい


 東洋美術では人体美の追求はいまいち、というお話をしてきました。


 では、どんな人物を描くのか?

 それは、総じて「くせがスゴい!」人たちです。

 彼らを美しいと感じる人がいたら、相当マニアックです。(人の趣味嗜好を否定はしませんけどね)


 まず筆頭が、「蝦蟇がま鉄拐てっかい

 これは道教の仙人です。

 蝦蟇は、ガマガエルを背に負ぶった不気味愉快な姿。たぶん、昔の忍者ドラマなんかの蝦蟇仙人(怪人?)はここから来ています。


 似たコンビで、「寒山かんざん拾得じっとく

 (「拾得しゅうとく」ではありません)

 こちらは禅僧で、にたぁっと気味のわるい笑顔を振りまいてくれます。

 奇矯な振る舞いをする坊さんだったようです。


 この四人、いずれも美形からは程遠い。


 ほかには「達磨だるま大師」とかその弟子「慧可えか」。慧可は、達磨さんの弟子になるため自ら片腕を切り落とします。なんでそこまでしますかね?

 まあ先の四人ほどではないですが、美貌や人体美をこの人たちで表現しようとは思わない素材ですね。


 それから、「西王母せいおうぼ

 やっと美形が出てきましたが、中国の『山海せんがい経』に紹介されている、女神というかまあ妖女みたいなもんです。

 楊貴妃や小野小町、遊郭の名妓に市井の美女などを描く美人図もあるのですが、くせのスゴい面々を前にしては、あんまり印象に残らないというのが正直なところ。


 あるいは、おじいさんと子供たちがたくさん描かれる、「郭子儀かくしぎ

 唐代の名臣で、安史の乱の制圧に多大な功あったこの人を、「くせがスゴい」というと失礼かも。

 子だくさんでも有名で、それにあやかろう(子づくりではありませんよ。子孫繁栄です)という吉祥図の画題によくなります。

 豪商・三井家が所蔵していた『郭子儀祝賀図』は、まさに、子々孫々まで一家繁栄するように、との願いを込めた吉祥図ですね。

(三井家は応挙のパトロンででもあったのか、彼の畢生の大作、『雪松図屏風』も所蔵しています)



 とりあえず、変なおじさん二人組が出てきたら、「蝦蟇・鉄拐」か「寒山・拾得」を疑ってみてください。

(余談ですが、寒山・拾得は、森鴎外の小説にも出てきます)



 * * *


(参考)顔輝筆『蝦蟇鉄拐図』

    伝・顔輝筆『寒山拾得図』

    雪舟筆『慧可断臂だんぴ図』

    曽我蕭白筆『群仙図屏風』

    円山応挙筆『郭子儀祝賀図』『郭子儀図襖』『雪松図屏風』

 

 ※ 顔輝は中国の画家ですが、早くからその絵が日本に伝わっています。


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