10 自画自賛 と他賛
自画自賛という言葉がありますね。
否定的な意味に(それもかなり侮蔑的に)使われますが、その出元となった絵画の事情から考えると、そこまで悪くないんじゃない? と思わないでもありません。
画に賛をつけるというのは、画に相応しい詩や文言を、空いた場所に書きこむことです。必ずしも、その絵を賞賛しているわけではないのです。
とはいってもたしかに、自分の絵に詩をつけるのは自己陶酔的……そこまで言わないにしてもまあ説明過剰で、「絵師なら言葉ではなく絵ですべてを表現しなさいよ」と言われれば、そうかもしれませんね。
一方で、他賛ならいいのか、というと、ちょっと困った話もあります。
しょうもない詩や跋文を後から書きこまれると、せっかくの作品がだいなし!なんてことがあるかもしれません。
その手のことで悪名高いのが、清の乾隆帝です。
政治面では、清の黄金時代を現出させた名君であるらしいのですが、「皇帝たるもの芸術のよき理解者かつ保護者でなくてはならぬ!」という使命感が強かったのか、歴代王朝が貯めに貯めた偉大なコレクションを、片っぱしから見ていきます。
まあ、それはいいのです。
そこまではよいのですが……、「俺は見たぜ!」という証に、そこらじゅうにべったべったとハンコを捺していきます。中国の名品を見てるとしょっちゅうそのハンコに出くわして、もう笑ってしまうほどです。
東洋絵画において余白はただの空白ではないので、ほんとは笑いごとで済まないんですけどね。
空いたスペースに無理やり賛を入れることもあったそうです。(私は実物は見ていないので、真偽は不明)
一応乾隆帝のために言っておくと、このハンコテロ、乾隆帝だけがやったわけではありません。名品には複数のハンコが捺されていることがよくあります。
おいおい……って思うところもありますが、ハンコで真っ赤になっていれば則ち名品である、と分かりやすく示してくれる、いい目印かもしれません。
乾隆帝の印章のパターンは幾つかあります。中国の名品を見に行くときは、印章パターンを覚えておいて、乾隆帝のハンコテロの痕を探すのも、面白いかもしれません。
* * *
(参考)乾隆帝のハンコの入った作品名をぱっと思い出せないので、、
興味のある方は、「乾隆帝 印章」ぐらいで検索してみてください。
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