5 文人画 素朴と見るか、気取りと見るか


 日本で文人画といえば、与謝蕪村がまず浮かびます。

 池大雅もその仲間です。


 彼らの作風は「南画」とも呼ばれます。


 「南画」に対置するものは「北画」だろうと考えるところですが、日本ではそんなのは耳にしませんね。

 中国絵画では、「南宗画」と「北宗画」として対置されています。厳密に区別できるわけでもないですが、単純化して大まかな特徴を挙げると、

 北宗画は、職業画工が、精緻な線で、険峻な風景を描く。

 南宗画は、文人が、ふわっとした線・面で、おだやかな風景を描く。

 (文人……教養高い文化人・指導者で、絵は余技として嗜む)


 言ってみれば南宗画は、素朴で、ヘタウマで、味のある絵、です。


 不思議と中国では、専門画工の描く絵より、素人文人の描く絵を尊ぶところがあります。

 おそらくその根底には、

「絵画は単に目に映るものを写しとるだけでなく、その本質・精髄を写し表現するべきものだ」というような思想があって、

「それは深い精神修養と高い見識を持った士大夫であればこそ、実現できる」みたいな信念があるのだと思います。


 なんだかエリート風を吹かせまくった発想で、庶民からすると蹴っ飛ばしてやりたくなりますね。


 この思想を表す言葉として、「詩書画三絶」というのがあります。

 詩・書・画の3分野揃って秀でた者をめる発想で、裏を返すと、「手先が器用で絵だけ上手でも、そんな奴たいしたことねーよ」という意識があるわけです。


 ……まあこの鼻高々なエリート意識云々は別にしても、芸術に精神性を求める思想は日本美術にも継承されています。

 また、素朴を愛する審美観は特に日本人に合ったようで、南画の嗜好や、茶道・華道、能、俳諧、その他あらゆる芸術・工芸にこの精神は行き渡っているように思います。近代に入ってからの民藝運動にも、その一端を見てもよいかもしれません。

(本来、茶や能のストイックな姿勢はむしろ北宗画の嗜好に近そうです。にもかかわらず、素朴をそこかしこに感じるところに、日本芸術の特質が表れているような気がします)



※ 日本では、雪舟は北宗画の系譜にあると言えそうです。むろん、雪舟の絵が南画に劣るなんてことは断じてありません。(そもそも、どちらが上かという話でもありませんしね)



 * * *


(参考)与謝蕪村筆『夜色楼台図』

    与謝蕪村・池大雅筆『十便十宜図』

    雪舟『秋冬山水図』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る