7 琴棋書画 士大夫の嗜み


 西洋画に比べると、東洋絵画では、人物画の印象は薄いかもしれません。

 ギリシア以来、西洋では人体の美しさを賛美する文化が発達しましたが、東洋ではさほどでもなかった、というのが大きな理由だと思います。


(仏教美術のなかに人体の美がありますが、それはまた別の機会に話します)


 とはいえ人物を描かないわけではなく、逸話や理念・思想を表すシーンの中などに、人物が描かれています。

 そんな絵でよく出てくるのが、「琴棋書画きんきしょが」です。


「琴」は楽器の琴ですが、音楽全般を指すとしても良いと思います。

「棋」は碁のこと。

「書」「画」はいうまでもないですね。


 中国では古来、士大夫たるもの琴棋書画を嗜むべし、とされました。

 そのため、高雅な文人や、隠逸の理想を表現するとき、これらのモチーフが描きこまれることがあります。

 また、ストレートに琴棋書画を主題にしている絵もけっこうあります。



 桃山・江戸初期に多く見られる、竹林の七賢を描いた障壁画や屏風絵。ここにもよく琴棋書画が描き込まれています。なかでも「画」に特に強い思い入れを抱いてしまうことも(自身が画家だけに)あったかもしれません。雲谷等顔の描いた『竹林七賢』ではまさに、七賢のひとりが絵を描いている真っ最中です。


※ 竹林の七賢とは、中国で魏末晋初の頃、隠逸して清談したと言われる文人たち。実在の人物だが、七賢としての伝説はちょっと眉唾もの。詩人として名高い人や、音楽の名手と知られた人もいました。ただし、絵に関する逸話は……私は知りません。あと、酒飲みとしても有名なので、酒が描かれることも。


 世が騒然としていた戦乱の時代に、「竹林の七賢」「琴棋書画」の名品が多く描かれているのが興味深いですね。天下取りや権力争いから離れていたいという願いや、自分はそこから超然としているぞという気概を表しているのかもしれません。(注文主の、です。でも、画家自身の想いも反映されているかも)



 絵の中に琴や碁盤などが描かれていたら、「そういう理想を示したいんだな」と思っておけば、そう外してはいないと思います。(琴は袋にくるんで従者が担いでいたり、画も軸を丸めていたりして、ぱっと見でわかりにくいこともあります)



 * * *


(参考)狩野永徳筆『琴棋書画図』

    海北友松筆『琴棋書画図屏風』

    雲谷等顔筆『竹林七賢』

    作者不詳『彦根屏風』


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