第18話

【カナタ視点】


 キューブのアラートで飛び起き、パソコンの画面を開くと黒服から連絡があった。


 ミミックハウスが消えて大穴が発生しているらしい。

 すでに黒服が動き出し、地下の捜索が始まっている。


 スマホの着信が鳴り続けるが無視してダンジョンの様子を最優先で確認した。

 カゲオ君が鬼と闘うイメージが浮かんだ。

 予言で死ぬ未来は見えていない。


 でも、予言は断片の情報しか出てこない。

 予言が絶対ともいえない。

 胃から熱い物がせりあがってきて汗がダラダラと流れる。


 ゴンゴンゴン!


「カナタさん!いますよね!緊急会議です!」

「今カゲオ君が大変なんです!」

「その件も含めての会議ですよお!」


「でも!カゲオ君が!」

「いいんですかあ?会議に出ないとまずいですよ」


「待って!もう少し待ってください!」

「会議に出れば予言者の話が聞けるかもですよ?何か見えた人もいるかもです」

「行きます」

「早くしてください!みんな待ってますよ」




【会議室】


 会議室に入ると、いつもの予言者と、国のトップ数名が集まっていた。


 私は席に向かいながら口を開いた。


「カゲオ君は無事ですか?」


 先輩の予言者がゆっくりと答えた。


「無事よ、その件から進めていいかしら?この子はカゲオ君の無事を伝えないと話を聞かないと思うわ」

「うむ、それでいい、イメージを再生する」


 自然と会議が始まる。


 カゲオ君が地下に落ちて、そしてたくさんのファントムとゴブリンのような魔物に囲まれた。


「カゲオ君!」

「大丈夫よ、これは過去の予知映像で今も生きていると思うわ」


 カゲオ君がすべての魔物を倒した。

 でも次はもっと大きい鬼が100体ほど出てきた。

 それも問題無く倒す。


 次は巨大な鬼が現れてそれすら簡単に倒した。

 でも、次の赤鬼の映像でカゲオ君が斬られた。


「カゲオ君!」

「大丈夫よ、これも勝つから」


 そう言って予言者の先輩に後ろから抱き着かれ口を塞がれた。


「黙って見なさい。倒した後が大事よ、あなたの予言と重なるわ」


 その後小さな名声で言った。


「あなたのエッチな予言と重なるのよ。ほら」


 場面がスキップされてカゲオ君が赤鬼を倒した。

 その瞬間、カゲオ君の耳が尖って、八重歯が伸び、背が伸びた。

 顔つきが変わりさらにハンサムになっていく。


「以上が予知イメージだ。見ての通りだ。カナタ君の予言と同じでバンパイアだ」

「……はい」


「これにより予言の未来が絞られ、次の予言がやりやすくなった。予言者にカゲオ君の映像を見せる事で予言の精度も上がるだろう。だがまだ予言データが少なすぎる。その為に呼んだ。予言者の勘はよく当たる。そこで予言者で決を採る。まずは彼をどうするかだ」


 予言者全員が頷いた。


「1つ目、カゲオ君をこのままダンジョンに閉じ込めたままの方がいいか、それともいったん出した方がいいかの2択だ。なお、第三の選択肢があれば遠慮なく言って欲しい」


「……無いか。カゲオ君を出した方がいいと思う者は挙手を!」


 全員が手を上げた。


 これは予言者による採決だ。

 予言者は無意識化でも予言を行っている、あるいは元々直感力が優れていると様々な仮説がある。

 ただ1つ言える事は予言者の勘はよく当たる。



「……ダンジョンから出した方がいいでほぼ決まったか、では次に……」


 こうして何度も採決が行われた。

 そして、私は彼と会えることになった。


 私はすぐに着替えてダンジョンに向かった。




【カナタが出て行った後の会議室】


「カナタ君は、カゲオ君と会った方がいい、だが1度だけの再会で後は引きはがす、か」

「ええ、カナタはカゲオ君に恋をしています。カゲオ君の事を考えれば考えるほど、カゲオ君の予言が出やすくなります。カナタには更に恋をして貰う必要があります」


「恋、か。人を道具のように利用しなければ国を守れんとはな。恋とは、脳の異常状態だ」

「ええ、カナタには恋に狂ってもらいます。それが日本の為、そして、カナタの為にもなる。そう思います」


「しかし、一度飴を渡してからまた引きはがす。あまりにも酷だな」

「ええ、ですが、終わりよければすべてよしです。カナタの予言でカゲオ君の生存率は上がる、そう思います。ふふ、それにもう、決断しているのでしょう?あなたの目的は『最大多数の最大幸福』ですもの」


「そうだな、バブルから続く利権構造で日本は食い物にされた。最大多数の最大幸福と逆の事をやり続け、日本は衰退した。これ以上負の遺産を先送りにし続けるわけにはいかない。カゲオ君の人権を奪ってでもな」


 総理は大きなため息をついて、会議室を後にした。




【カゲオ視点】


 俺はホノカから離れ、飛びながら上を目指した。


「戻って来た!ダンジョン1階に戻って来た!」


 着地して羽を消す。


 するとそこには黒服と、カナタがいた。


「なんで?ここにいる?」


 カナタは泣きながら俺に抱きついた。


「ううう、ごめんなさい!苦しい思いをさせてごめんなさい!」

「ぐうう、はな、れて、くれ」


「そんな……そう、ですよね、カゲオ君を不幸にした私には会いたくないですよね」


「違う、バンパイアになって、カナタを、襲ってしまいそうになる。性欲が抑えられないんだ。はあ、はあ、はあ、はあ」

「大丈夫だよ。カゲオは私が慰めるから」


 ホノカが俺に抱きついた。


「やめ!まずい!」

「すぐにベッドに行こう、ミミックハウスを出すよ」


 ホノカが囁いた。


「おほん!カゲオをホテルに送る。英雄法を適用して最速で連れて行く」


「え?え?カゲオ君?あの、話したいことが」

「カナタ、離れろ!カゲオを犯罪者にする気か!?今カゲオがお前を襲えば厄介な事になる!」

「で、でも!」


 俺はマッチョに連れられてホノカと別々にホテルに送られた。

 カナタと会えたことは覚えている。

 でも、意識がもうろうとしてはっきりとしたことはあまり覚えていない。


 この時、ダンジョンから出た事を素直に喜べなかった。


 狂いそうになる性欲に抗い、俺はただ、必死だった。

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