第2話

 俺は素早く起き上がった。


 体長3メートルほどのスライムが俺を狙う。

 普通のスライムに比べて明らかに大きい。


「まずい!うわあああ!来た来た!こっち来たああああ!」


 全力で逃げた。




 そして入り口付近に来ると黒服マッチョが入り口の魔法陣を守っている。


「塩!塩を出してくれ!」

「ストレージに入っている」

「今取り出す余裕がない!塩を出してくれ」


 黒服が塩を取り出すと俺はそれをぶんどって袋をぶちまけながらボススライムに投げつけた。

 ボススライムがひるんで逃げていく。

 いや、黒服がいたから逃げたのか?


 スライムはナメクジのようなものだ。

 だが、水場で塩を洗い落として水分補給をしたらまた戻って来るだろう。


「はあ、はあ、危なかった。カナタ、物資を追加で貰う事は出来るよな?」

カナタ『出来ますよ』


「塩を10トン欲しい。後で金の請求とかは無しにして欲しい。マジで!このままじゃ休憩できずに死ぬ。うまく帰る事が出来ても借金しかないとかそういうのはやめて欲しい!マジでえええええええ!!!」

カナタ『分かりました。用意しますし後からカゲオ君に料金を負担する事はありません。少しだけ離席しますね』


 カナタが離席してから俺は黒服と交渉をしてみた。


「いつここから出られる?」

「答えられない」

「ずっと1階にいてもいいのか?」

「自分で考えて判断してくれ」


「休日を取りたいんだけど」

「答えられない」

「会社員って有給があるんだよな?俺働いているようなものだし有給が欲しい」

「答えられない。しつこい様ならまた鞭で追い回す」

「塩が来ないときつい!早く塩を持って来てくれ!今塩待ちで動けない!」


『必死すぎるwwwwww』

『そりゃそうよ。命がかかってるんだ』

『見ていておもろい』

『頑張って!応援してるよ!』

『言い回しを変えてダンジョンから出してくれしか言っていない気がする』


 俺は色々聞いたがほとんど答えて貰えなかった。




【カナタ視点】


 一旦接続を切ると黒服の1人が塩の手配の為車から降りた。

 残った黒服が声をかけてくる。


「俺達は既婚者だ。カゲオに欲情したりはしないぜ」

「ええ、そう言ってカゲオ君を脅しておかないと中々車から出ないと思ったので」

「ならパンツを見せるのもやめておく事だな。俺達にも見える」

「そうですが、このままだと他の子に取られますから。最初の印象は大事です。ただでさえ無理矢理ここに連れて来ましたから、私まで怖がられたくはないので」


「そろそろ戻って貰うぜ。貴重な予言者が攫われちゃ俺達に責任問題だ。もう、しばらくカゲオとは直接会えない。我儘はお終いだ」

「ええ、分かっています」

「安心しな。リモートならカゲオと何度でも会話が出来る」


「分かっています」

「カナタ、お前は一目ぼれするようなタイプじゃないだろ?……カゲオとの未来で何を見た?いや、悪かった」

「いえ、そろそろ帰りましょう」


 私は護衛の2人と一緒に帰還した。





【カゲオ視点】


 俺はダンジョンの行き止まりを拠点にして塩を撒いた。

 というか敷き詰めた。

 そして通路に塩袋のバリケードを作った。


「これでスライムが来ても生き残る事が出来る」


『おい、こいつ頭がいいぞ』

『いや、ビビりすぎだろ』

『しゃあない。才能がないならこれくらいがちょうどいい』

『ノービスは珍しいからな。ある意味レアだ』


「死にたくない。死にたくないのだ!何でもするだろ普通だ!」


『2回言った』

『大事だよね』

『ここはセーフゾーンじゃないから丸1日もすれば塩はダンジョンに吸収されるよ?』


「良いんだ、まずは安心しながら食べて眠りたい」


「さてっと、物資をチェックする」


『見たい!見せてくれ』

『物資チェックにわくわくする』


 俺はストレージから支給された物資を出した。


 フルーツに缶詰め、ご飯のパックにパン、野菜や肉、魚、お菓子まである。

 でも、料理がめんどい。

 カセットコンロに鍋をセットして生活魔法で水を補充する。

 そしてご飯とカレーのパックを鍋に入れて湯せんする。


 その隙に他の物資をチェックする。


「毛布と、ベンチ、か?」


『ベンチとして使ってもいいし、その上に毛布で眠る事も出来る。キャンプでよくあるやつだな』


「おお!サンキュー」


『てか普通寝袋じゃね?』

『寝袋から出遅れて魔物に殺される可能性がある。寝袋は駄目だ』


「ちゃんと考えられてるんだな。えーと、装備のスペアに、焚火セット?」


『多分寒さより精神安定の為だ。お菓子も同じ効果だ』

『火を見ると落ち着くよな』


「キャンプセットと食料か。うん、足り無さそうな物は、今の所ないか」


『そろそろ湯せんが終わった』


「おお、あっつ!少し冷ましてから食べる」


『質問タイムいいか?』

『質問タイム希望』


「え?答えられる事はあまりないけどな」


『家族構成は?』


「……家族の事は、やめておこう」


『おい、事前動画を見て察しろ。こいつは2億で親に売られてるんだ。かわいそうだろ』


「笑いをこらえながら言うのマジでやめてくれ。何で知ってるんだ!」


『解析用に家族構成とお前が連れてこっれるまでの動画はアップされている。中々素敵なご両親だな』


「ちょ!ならなんで聞いた!」


『からかわれているだけだ』

『親がやばいのはみんな知ってる』

『好きな異性のタイプは?』


「冒険者のソフィア・セイントが、可愛い」


 ソフィアのおばあちゃんがアメリカ人の為かかなり陽気だ。


『滅茶苦茶人気だぞ』

『お前には無理だな』

『仕方ない、カゲオは人気が無いようね。皆いらないか。仕方がないから私が貰おう』


「俺、何で英雄に選ばれたんだ?」


『さあ、何でだろうな』

『戦闘以外に何かあるのかもな』

『優男に見えてメンタルが強い点はあるかもね。カゲオ、私が慰めてあげよう』


『カゲオ、女ファンが出来て良かったな』

『ふ、出来ても帰れない件』

『カゲオがスナック菓子と炭酸を食らい始めた』


 バリボリ、カシュ!ごくごく!


「あ~、しみるわああ」


『こいつ強いな』

『何で英雄に選ばれたか分かったわ。カゲオなら精神が病まない』

『その前に魔物に殺されそうだけどな』

『よく考えてくれ。カゲオは最初スライムから逃げていただろ?でも今は余裕で倒している。確実に成長している』

『というか、すぐに調子に乗るタイプだと思う』

『それは思った、調子に乗る顔をしている』

『調子乗り顔だな』


 調子乗り顔ってなんだよ!

 俺は無言でカレーを食べた。


「うまいな、寝よ」


『お疲れ』

『また楽しみにしてるぞ』


「キューブ、マナーモード」


 キューブをマナーモードにして眠る。




 ◇



 ピー!ピー!ピー!ピー!ー!ピー!ピー!ピー!

 キューブの警告音で飛び起きた。

 キューブのマナーモードが解除されて配信が再開された。


 100体を超えるスライムが集まって来た。

 スライムが塩袋を積んだバリケードを崩して、そして塩に飛び込み自滅していく。


『待機組の俺即参上!』

『カゲオの最後を見届けてやる』

『死にたくなければ黒光りGムーブを駆使して地べたをはいずり回りながらもがけ』


「はっはっはっはっは!愚か者共があああ!!!俺の経験値となって死んでいくがいい。スライムがゴミのようだあああああああああああ!!!」


『こいつ調子に乗ってる』

『最初は必死で逃げていたのにな』

『もお、カゲオはすぐ調子に乗るんだから。好き』

『お前ら配信の待機組か』

『あたぼーよ』

『スライムが塩にやられて倒れて行く』


『待て!スライムの死骸を渡ってスライムが迫ってきている!』


 スライムがタックルを仕掛けて来た。


「うお!あぶな!」


『素早く奥に下がったなwwwwwww』

『ビビりすぎじゃね?』

『今なら普通に戦っても余裕で勝てるよ?戦えば?』


「戦争とはいかにこちらが消耗せず、相手を消耗させ勝利を手に入れるかがカギとなるのだよ。理想は戦わずして勝つことなり!!」


『こいつ、なんかむかつく。早く追い詰められないかな?』

『まあ待て、今に調子に乗った報いを受ける』

『ざまあが楽しみだぜ』


「そこまで言うならこっちに来ようか。話を聞こう」


『いや、いいっすいいっすwwwwwww』

『よく見ろ!スライムが横壁を登って来る!』

『スライムが更に集まって来たぞ!』

『おいおい!包囲されてね!抜けられなくなるぞ!』


『来た来た来た来たああああああ!』


「あ!ちょ!それありか!」


 スライムの大軍が壁を登って天井に張り付いていく。

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