■蓮の二……③

「あの、最終的な順位はどうやって決めるんですか」


 先ほどの大富豪で二位だった平安寺が質問しているのが聞こえる。


「あら、やる気ね芙美ちゃん」

「い、いやそういうわけじゃ」

「今回は大富豪、七並べ、神経衰弱、セブンブリッジ、ババ抜きの五つの種目で勝敗をつけるわ。各種目の順位で一位に二ポイント、二位に一ポイント、三位はプラマイゼロ、四位にマイナス一ポイント、五位にマイナス二ポイントが与えられるわ。合計得点が高い人が優勝ね。同点だった場合は一位の回数が多かった方が勝ち、それも同じだったら最下位が少なかった方が勝ち、それも同じだったらじゃんけんで決めてもらうわ」

「めちゃくちゃ本格的!」


 平安寺と声が重なる。あ、ごめん、と言うと平安寺はそっぽを向いた。


 四種目目のセブンブリッジを終えて、絵美ちゃんが一位、僅差で野々目さんが二位、美陽さんが三位、平安寺が四位でオレが最下位という状態で、最後のババ抜きが行われた。


「このまま優勝しちゃうよー」

「いえいえ、まだ分からないですから」


 優勝争いは絵美ちゃんか野々目さんかのどちらかに絞られた。意外と二人ともやる気で驚く。別にオレは何位でもいいけど、最下位はなんとなく嫌だな。


「あの、配り終わりました」

「ありがと、フーミン」


 配られたカードを見て、愕然とした。揃いのカードが、ほとんどない。虎の子の九のペアを捨てる。みんなそれなりにカードを捨てていて、平安寺に至っては残りの手札は五枚しかない。


「それじゃ、始めるわよ! 最終戦ね!」


 美陽さんが絵美ちゃんのカードを引いて、ババ抜きが始まる。


「やった、早速揃っちゃったわ」

「うん、それじゃ失礼します」


 美陽さんが手札からペアを捨てた後、残った札から一枚平安寺が取る。


「うん、はい。美月さんどうぞ」

「それでは、これを。あ、揃いました」


 平安寺からカードを抜いた野々目さんもカードを減らした。オレの番だ。野々目さんからカードを引く。


「揃った?」

「い、いえ」


 野々目さんは、それは残念と言って微笑んだ。この人に勝ってみたいと思った。


「いーい、取って?」

「あ、いいよ」


 慌てて手札を絵美ちゃんに向ける。


「あっは、よりどりみどりねー」


 絵美ちゃんは手札大量のオレからカードを抜き取ると、自分の手札を減らした。


「残りよんまーい」

「絵美も早いわねー。はい、芙美ちゃん引いて?」

「じゃあ、これで」


 平安寺は迷った挙句に右端のカードを引こうとする。


「あら、本当にそれでいいの?」

「え? うーん、じゃあこっちで」

「ごめんなさいね!」


 平安寺は美陽さんからカードを引いた後、うげ、とえずいた。


「やった、上りね!」


 ゲームは進行し、美陽さんが一抜けした。気付けば絵美ちゃんも野々目さんも残り一枚だ。


「あ、ぼくも揃いました。ごめんなさい、芙美子さん」


 野々目さんはなぜか平安寺に謝り、二位抜けした。


「じゃーアタシがレンのカードを取るね」


 野々目さんが抜けたので、オレが引く順番が飛ばされてしまった。絵美ちゃんは神妙な顔でオレのカード群を睨みつけると、これ! と言って大仰にカードを引っ張った。


「大当たりー、ちぇ、三番か」


 絵美ちゃんは見事にペアのカードを引き当てて抜けてしまった。ということは。


「最後は芙美ちゃんと蓮介ね! 頑張って、総合ビリがかかってるわよ!」


 いつの間にか居間に用意されたホワイトボードには得点差がきちんと記録されていて、オレと平安寺の点差は一ポイントだった。どちらもマイナスなのだが。


「あっは、フーミンが引いていいんじゃない?」

「は、はい。じゃ、いくよ?」

「お、おう。どうぞ」


 オレの方が手札の枚数は一枚少ない。平安寺は残り五枚だ。そして今、オレから引いたカードが揃ったので、残りは四枚。そういえばずっとジョーカーは回ってこなかったな。


「ほら、引いて」


 平安寺にカードを差し出されて、どれを選ぶか人差し指を交互にする。その向こうにちらりと平安寺の顔が見えて、そして、野々目さんが平安寺に謝った理由が分かった。


「すまん、平安寺」


 オレはハートの九を引き当てて、手札の枚数を減らした。ジョーカーは美陽さんから平安寺の手に渡った後、一度もその手元を離れなかったのだ。


「え、どうして?」


 その後、平安寺がカードを引いて、平安寺の手札は二枚になる。平安寺のカードに対してメトロノームのように指を振ると、平安寺の表情もそれに合わせて変化した。顔に出易いタイプだとみんなが言っていたけど、これほどまでとは思っていなかった。


「ちょ、ちょっと待って、タンマ!」


 平安寺はオレがカードを抜き取る直前に後ろ手にカードを隠した。


「はい、こっから選んで!」


 そして表面を確認せずにカードを座卓の上に裏向きのまま二枚並べた。


「あっは、これなら表情読まれずに済むもんねー」

「賢いです、芙美子さん!」

「あ、ありがとうございます。じゃなくて、どうして教えてくれなかったんですか! 道理でジョーカーがいなくならないと思った!」

「ふふ、ごめんなさい、うふふ。あまりにも、分かりやすかった、ものですから」


 野々目さんはお腹を押さえて笑っていた。どうにもツボに入ったらしい。


「ほら! さっさと選んでよ!」


 平安寺に促されて、カードを引いた。

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