◆月の一……③
「蓮介はね、元々はとても活発で明るい子だったのよ」
食事を終えて食器を洗っていると、美陽さんがお皿を拭きながら呟いた。
「今はいないけど、あの子にとっての祖父母、つまりは私にとっての両親がこの家で暮らしていたから、お盆や正月には帰って来てたの。ちょっとやんちゃだったけど、誰とも仲良くなれたから、こっちでも沢山友達を作ってね。親戚の評判も良かったわ」
「そうなんですか」
「ええ。今のあの子からは想像できないでしょ? でも、二年前のある出来事ですっかり変わってしまった」
美陽さんはかちゃかちゃと戸棚に大皿を片付けて、次の食器を拭き始める。
「蓮介は同じクラスの女の子をいじめていたのよ。あの子だけじゃなくって、クラスの大勢でね。結構、陰湿だったみたい。SNSを使ったりして。段々とエスカレートしていって。あのね、私は今でもあの子がそんなことをしたなんて信じられないんだけど」
美陽さんは箸を拭いて引き出しにしまう。
「最後にはその女の子を呼びつけて川に突き落としたらしいの。それがきっかけでいじめのことが明るみに出た。私もその女の子が芙美ちゃんだって分かっていれば、包蓮荘に誘いやしなかったんだけど」
「そうか、それが原因で」
それが原因で芙美子さんは高校の受験が一年遅れてしまったのかもしれない。それが原因で蓮介くんは内向的になったのかもしれない。
「蓮介がやったことは悪いこと。許されるべきではないし、きっと後悔は一生付きまとうことになるわ。でもね」
美陽さんは静かに拭き上げた食器を見つめる。
「でも?」
「私は家族だから。例え蓮介がどれだけ間違っていたのだとしても、あの子のことを肯定してあげたいの。美月君も、蓮介のことを嫌いにならないであげて」
「ぼくは蓮介くんのこと、好きですよ」
「本当? なら、とても嬉しいわ」
切なげに笑って、それじゃあおやすみなさい、と告げて美陽さんは自室に帰って行った。
「ねぇ、ママと何の話してたの?」
入れ替わりで台所に絵美さんが現れた。
「蓮介君の話を、ちょっとね」
「レンねー。昔はもっと骨のあるやつだったのに、すっかり牙をもがれちゃったみたい」
絵美さんはぼくではなく、遠くの方をぼーっと見ているようだった。
「ミッキーはフーミンに包蓮荘に住んで欲しい?」
「そうだね。ぼくとしては芙美子さんが来てくれると嬉しいな」
「わお、相思相愛だ」
「それはどういう意味?」
「フーミンはミッキーのこと好きだと思うから」
「ふふ、そうだと良いけど」
「そっかー、フーミンと一緒に暮らせるといいね」
「でも、それは芙美子さんが決めることだから」
ちょっとママに用があるから、そう言って絵美さんは美陽さんの部屋へと消えていった。おやすみ、明日がきっといい日でありますように。
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