7th stage 刑事とゲームで遊んでみた
「餅田くん。これは何?」
橘刑事は画面の下の方を指さした。
「ああ、チャット欄です。ここに感想とか書き込めるんですよ」
「これ、なんて書いてあるの?」
餅田は動画を一時停止して、コメントを確認した。
「『コラボお願いします』です」
広報の餅田は「コラボお願いします!」というコメントを繰り返し送信していたのだった。いわゆるチャット欄の荒らし行為と同等の悪戯である。
何という奴だと那須は思った。
しかし同時に合点がいった。殺人現場で生配信を見たとき、チャット欄のコメントがいつにも増して高速で流れていた理由が分かったからだ。
「ちゃんと送信できてるのかなと思って、何度も投稿しちゃいました」
餅田は無邪気に笑ってみせた。
那須は、不思議と餅田には怒りが沸かなかった。橘刑事と違って彼は自分のファンだといってくれたし、それに彼には愛嬌がある。なぜか憎めなかった。
「那須さん、餅田くんの荒らし行為をご存知でしたか?」
知らなかった、といえば怪しまれるだろう。ここはとりあえず知っていたふりをするかしかない。
「もちろん。迷惑だと思いましたよ」
「なぜ注意しなかったんですか?」
「え? ああ、あまりにも悪質なので無視することにしたんです」
「なるほど」
那須は、橘刑事の指摘をうまく交わせたと思った。しかし彼の攻撃は止まらない。
「いま、投げ銭がありましたね?」
橘刑事が次に疑ったのは、10万円の投げ銭だった。無論、那須の自作自演によるものである。
「びっくりしましたよ~ あまりにも高額だったので」
餅田がいう。
「俺も驚きました。たぶん、今までで一番高いんじゃないかな?」
那須がいうと、橘刑事は微笑んだ。
「チャット欄のコメントが文字も読めないほど高速で流れていたにも関わらず、投げ銭に反応できたのはどうしてですか?」
鋭い指摘だが、これは簡単に言い逃れができる。
「投げ銭は、別で通知が来るんですよ」
那須はドヤ顔でいった。橘刑事は「そうですか」といってしぼんでしまった。ゲームで敵がスタミナを使い果たしているのと同じように思えた。
「那須さんを疑うなんてどうかしてますよ。だって生配信してたんだから、犯行のしようがない!」
広報の餅田がいう。よくぞいってくれた。
「刑事さん。俺の粗を探すためにわざわざ夜に押しかけたんですか。失礼千万だなあ」
那須も追及した。
橘刑事は完全に委縮していた。
「いえいえ、あくまでも餅田くんの件が本題です」
そうだ、本題はコラボの依頼だった。
「改めて、コラボ、受けていただけないでしょうか」
頼み込む餅田を前に、那須は悩んだ。橘刑事との接点が増えるのは嫌だが、この餅田という広報の男は俺のことを無実だと信じきっている。うまく利用できるかもしれない。
「コラボ、お受けしますよ」
「やった~!」
「ただし条件が二つあります」
那須はニヤリと笑って続けた。
「一つ目は報酬です。出演料はがぁっっっつり、いただきますよ?」
餅田は一気に不安そうな顔をした。
「え~ 予算内でおさまるかな~」
「それともう一つ。コラボするからには、こちらの動画にも出てもらおう」
「え!? 那須さんの動画に出させてもらえるんですか?」
餅田は飛び跳ねるように喜んだが、水をさす。
「あなたじゃないよ。刑事さん、あんただ」
那須は橘刑事を指さした。
「わたしですか?」
橘刑事は目を丸くしていた。
那須はさっそくパソコンで十八番のゾンビサバイバルゲームを起動した。
同時にビデオカメラで録画を開始して、挨拶をする。
「はいどうも。今日は現役の刑事さんと実況していきます」
「もうまわっていますか?」
「ええ。あ、協力モードでプレーするので、これ持ってください」
橘刑事にコントローラーを渡して、早口で操作方法を説明した。
「もう一度説明していただけますか、理解できませんでした」
「あ、もうスタートです」
大量のゾンビが襲ってくるので、プレイヤーは銃を使って倒さなければならない。
那須はコントローラーを器用に使いこなして、将棋倒しのようにゾンビを倒していった。橘刑事は案の定、下手くそだった。
「どうやって撃つんですか」
「Aボタンですよ。ほら早く押さないと」
橘刑事がゾンビたちに囲われている。那須はざまあみろと思い、笑いが込み上げてきた。
「まったく下手すぎるよ。今殺すから待ってて」
橘刑事のまわりのゾンビたちを銃で撃つと、綺麗にヒットして倒れた。
が、一発の銃弾が刑事の胸を貫通する。刹那、刑事もゾンビと一緒に倒れ込んだ。
「あれ? 死んじゃいました?」
「ゲームオーバーって出ています」
「あああああ、ごめんなさいね。俺が殺しました。はっはっはっはっは!」
那須はわざとらしく謝ると大笑いして、刑事をとことん蔑んだ。
このステージは、那須の圧勝だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます