6th stage コラボお願いします!


 小さなマンションの小さな部屋。やっぱり自分の部屋が一番落ち着く。


 那須は、もう二度とあの橘という刑事には会いたくないと思った。紳士のような素振りを見せておきながら、事件のことになると執拗に迫ってくるのが耐えられなかった。


 夜ごはんを食べ終わると、那須はパソコンでユ〇チューブを観賞し始めた。那須の日課である。それはくつろぎの時間ではなく、“競合他社の売れ行き”を観察する時間だった。


 その矢先「ピンポーン!」とインターホンが鳴った。「夜遅くに何の用だ」と怒りが沸いたが、必死に感情を押し殺した。


 扉の小さな穴を覗くと、そこには昼間に会った橘刑事の姿があった。

「はい?」

「橘です」

「二三、お話を」

「アリバイはもう伝えましたよね?」

 那須は嫌々答えた。


「その…… 別件でして」

 橘刑事は申し訳なさそうにしていた。


 抵抗しても仕方ないので扉を開ける。すると、彼の隣にもう一人男が立っていた。

「コラボお願いします!」

 男は深々と頭を下げた。

「はっ?」

「お願いします!」




 マンションなので廊下で騒がれても迷惑である。仕方ないが二人とも部屋に入れた。


 白いワイシャツに垂れるネームタグには「広報課・餅田康史もちだこうじ」と書いてある。役所の広報の人だと思い込んでいたが、話を聞くと警察署に勤務しているという。童顔で警察っぽくみえないので意外だった。年齢は三十代前半だろうか。


「へえ、警察にも広報ってあるんですね」

「ユ〇チューブもやっています! ぜひ、コラボお願いします!」

 餅田は異様にテンションが高かった。橘刑事がいう。

「あの、コラボというのはなんですか?」


 那須は面倒くさそうに「よその配信者の動画に出演すること」と説明した。


 広報課の餅田は、詐欺被害撲滅運動の一環として、那須に警察のユ〇チューブチャンネルに出演してほしかったのだ。ちょうど橘刑事が那須と接触していたので、そのツテを利用して交渉しようというわけだ。


「すみませんね。どうしても会わせてくれっていうものですから」

 橘刑事がいうと、餅田は満面の笑みを浮かべてうなった。

「だぁいファンなんです」

「それはどうも」


 那須は冷めた態度をみせたが、餅田の熱は収まらなかった。彼は壁にかけてあった写真をみてとても感動していた。

「これ、畠山さんじゃないですか!」


 まだ仲が良かった時代に撮った、畠山とのツーショットである。


 さらに餅田は、ショーケースに入っていた金の盾を勝手に取り出して叫んだ。


「うわ~! 『ナスバタケチャンネル』の盾だ!」


「あの、勝手に触るのやめてもらえますか?」

 さすがに注意した。すると、餅田が急いで駆け寄ってきた。


「昨日も生配信みてましたよ! 面白かったなあ~」


「きみ、みてたの?」

 橘刑事は目を見開いた。


「もちろん! だぁいファンですから!」

「何か違和感はなかった?」

 橘刑事が広報の餅田に尋ねる。あからさまに那須のことを疑っているのが見て取れた。


「刑事さん、それはどういう意味ですか?」

 那須は不快そうに尋ねた。橘刑事は落ち着いていう。

「形式的な質問です」

「形式的の範疇を越えてますよね」

 那須は刑事を鋭く睨んだ。ここで広報の餅田が答える。

「いつも通りのライブでしたよ? チャット欄にも反応してたし。ぼくが送ったコメントには答えてくれなかったけど」


 味方ができたと安心し、那須も同調する。

「疑っているようでしたら、『ナッスンチャンネル』で検索してみてみてくださいよ。アーカイブ載ってますから」


 これで完全に、「那須・餅田連合軍 V.S. 橘刑事」という構図が出来上がった。那須は優越感に浸っていた。


「橘さん。そんなに那須さんを疑うんだったら、みてみましょうよ」

 餅田はスマホを取りだし、昨日の生配信のアーカイブを再生し始めた。


 しかしここで、あるミスが露見する。

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