6th stage コラボお願いします!
小さなマンションの小さな部屋。やっぱり自分の部屋が一番落ち着く。
那須は、もう二度とあの橘という刑事には会いたくないと思った。紳士のような素振りを見せておきながら、事件のことになると執拗に迫ってくるのが耐えられなかった。
夜ごはんを食べ終わると、那須はパソコンでユ〇チューブを観賞し始めた。那須の日課である。それはくつろぎの時間ではなく、“競合他社の売れ行き”を観察する時間だった。
その矢先「ピンポーン!」とインターホンが鳴った。「夜遅くに何の用だ」と怒りが沸いたが、必死に感情を押し殺した。
扉の小さな穴を覗くと、そこには昼間に会った橘刑事の姿があった。
「はい?」
「橘です」
「二三、お話を」
「アリバイはもう伝えましたよね?」
那須は嫌々答えた。
「その…… 別件でして」
橘刑事は申し訳なさそうにしていた。
抵抗しても仕方ないので扉を開ける。すると、彼の隣にもう一人男が立っていた。
「コラボお願いします!」
男は深々と頭を下げた。
「はっ?」
「お願いします!」
マンションなので廊下で騒がれても迷惑である。仕方ないが二人とも部屋に入れた。
白いワイシャツに垂れるネームタグには「広報課・
「へえ、警察にも広報ってあるんですね」
「ユ〇チューブもやっています! ぜひ、コラボお願いします!」
餅田は異様にテンションが高かった。橘刑事がいう。
「あの、コラボというのはなんですか?」
那須は面倒くさそうに「よその配信者の動画に出演すること」と説明した。
広報課の餅田は、詐欺被害撲滅運動の一環として、那須に警察のユ〇チューブチャンネルに出演してほしかったのだ。ちょうど橘刑事が那須と接触していたので、そのツテを利用して交渉しようというわけだ。
「すみませんね。どうしても会わせてくれっていうものですから」
橘刑事がいうと、餅田は満面の笑みを浮かべてうなった。
「だぁいファンなんです」
「それはどうも」
那須は冷めた態度をみせたが、餅田の熱は収まらなかった。彼は壁にかけてあった写真をみてとても感動していた。
「これ、畠山さんじゃないですか!」
まだ仲が良かった時代に撮った、畠山とのツーショットである。
さらに餅田は、ショーケースに入っていた金の盾を勝手に取り出して叫んだ。
「うわ~! 『ナスバタケチャンネル』の盾だ!」
「あの、勝手に触るのやめてもらえますか?」
さすがに注意した。すると、餅田が急いで駆け寄ってきた。
「昨日も生配信みてましたよ! 面白かったなあ~」
「きみ、みてたの?」
橘刑事は目を見開いた。
「もちろん! だぁいファンですから!」
「何か違和感はなかった?」
橘刑事が広報の餅田に尋ねる。あからさまに那須のことを疑っているのが見て取れた。
「刑事さん、それはどういう意味ですか?」
那須は不快そうに尋ねた。橘刑事は落ち着いていう。
「形式的な質問です」
「形式的の範疇を越えてますよね」
那須は刑事を鋭く睨んだ。ここで広報の餅田が答える。
「いつも通りのライブでしたよ? チャット欄にも反応してたし。ぼくが送ったコメントには答えてくれなかったけど」
味方ができたと安心し、那須も同調する。
「疑っているようでしたら、『ナッスンチャンネル』で検索してみてみてくださいよ。アーカイブ載ってますから」
これで完全に、「那須・餅田連合軍 V.S. 橘刑事」という構図が出来上がった。那須は優越感に浸っていた。
「橘さん。そんなに那須さんを疑うんだったら、みてみましょうよ」
餅田はスマホを取りだし、昨日の生配信のアーカイブを再生し始めた。
しかしここで、あるミスが露見する。
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