2nd stage 完璧な殺害計画
殺意が沸いたが、ギリギリのところで那須は踏みとどまった。
どうせやるなら、完璧な殺害計画を立てて
人が殺されたとき、真っ先に疑われるのは身近にいる人物である。
畠山の場合、親はすでに亡くなっていて恋人はいない。性格に難があるので友人も少ない。真っ先に疑われるのは、長年コンビを組んできた那須である。
したがって那須は、金品を狙った強盗殺人に偽装して畠山を殺すことに決めた。
長年コンビを組んできたから、畠山がどれくらい金を蓄えているかは知っている。しかし彼は意外と用心深く、大切なものはみな自室の金庫にしまっていたはずだ。さすがに暗証番号まではわからない。
ならば、金の盾を盗むのはどうだろうか。「ナスバタケチャンネル」という名が刻まれた盾はこの世に二つしかない。貴重で価値があるに違いない。盗んだ後はオークションで値を吊り上げて売り飛ばしてしまおう。たちの悪い押し込み強盗の仕業に見せかけるために。
凶器は、その場にある物を適当に使って残した方がよいかもしれない。あらかじめ用意すると購入履歴が残ってしまうからだ。キッチンに包丁くらいあるだろう。それを使えばよい。
しかし殺すからには、自分が無実である証明をしなくてはならない。いわゆるアリバイ作りである。
那須は「生配信」と題して、あらかじめ撮影しておいたゲームの実況動画を配信するという手法を考えた。殺害時刻にリアルタイムでプレーしているように装うことで、自分が自宅にいたことを証明する。生配信の最初と最後こそ自宅でパソコンを操作する必要があるものの、事前に収録したものを流すだけなので途中で抜けることができる。その間に畠山の家に行って、殺して、帰ってくればよい。簡単なミッションである。
那須は、現実社会でもゲームの中でも、考えるよりも先に行動するスタイルで生きてきた。しかし、畠山を殺害するために、生まれて初めて綿密に計画を立てている。那須は初めての経験を楽しんでいた。
畠山の大きな一軒家とは対照的に、那須が暮らしていたのは小さなマンションの一室である。そこを自宅兼スタジオとして使っていた。
犯行予定日の前日19時、那須は生配信に偽装するための動画を撮影し始めた。
実況するのは、十八番のゾンビサバイバルゲームだった。撮影は順調に進んだ。
「事前に収録した映像ではないか」と疑われてしまってはまずい。そこで、実況のところどころで「あっ、こんなにたくさん投げ銭くれてありがとうございます」と口先だけの感謝を述べて、あたかも投げ銭に反応しているように見せかけた。
それでも怪しむ人がいるかもしれないので、もう一つ仕掛けを施す。開始30分のところで、高額の投げ銭に驚く演技を入れた。
「10万円!? ただ遊んでるだけの動画に10万も払ってくれるなんて、ありがたいです。本当にどうも、ありがとうございます」
発言したからには、実際にその額が投じられなければおかしい。よって、あらかじめファンに成りすましたアカウントを作っておき、当日、30分たったところで10万円を投入する。そうすれば本当に生配信をおこなっているかのように見えるはずだ。
問題は犯行中にそれができるのか。那須は少し悩んだが、まあなんとかなるだろうといって思考を停止させた。
「それじゃ、お疲れさまでした! バイバイ!」
1時間ぶんの実況動画を撮り終え、那須はへとへとに疲れていた。あとは、明日の夜に地震とか突発的なことでも起こらない限り、うまくいくはずだ。自分自身にそういい聞かせながら、那須は眠りについた。
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