尋問は犯罪者へのインタビュー ~橘刑事との対決~

いぬた

ユ〇チューバー殺人事件

1st stage この場でお前をキルしてやる

「昨日の19時30分ごろ、あなたはどこにいらっしゃいましたか?」


 ドラマでよくあるセリフだが、まさか本当にそのまま聞かれるとは思わなかった。


「家にいました」

「それを証明できる人はいますか?」


 またありがちな質問。あまりにも予想通りのことをいってくるので、思わず吹き出してしまいそうになった。が、平然を装って答える。


「その時間はちょうどユ〇チューブでゲーム実況をしていました。生でね。視聴者5000人が証人です」


 どうだ、これ以上完璧なアリバイがあるか、と那須正輝なすまさきは心の中でドヤ顔を浮かべていた。刑事に尋問されることなんてめったにない。せっかくだから、もう少し挑発してやろう。那須はゲーム感覚で刑事との対決を楽しもうとしていた。





 那須はもともと、畠山はたけやまという男と「ナスバタケチャンネル」というコンビを組んでいた。好戦的で時に狂気を感じさせる那須と頭脳派の畠山、対照的なコンビが協力してゲームに取り組むというチャンネルだ。二人のチームワークの良さが売りだった。


 チャンネル登録者数はじわじわと伸び、4年目でついに100万人を超えた。が、半年しないうちに、二人は方針の違いを理由に解散してしまった。


 その後、二人はそれぞれ個人のチャンネルを開設したのだが――

 畠山は、持ち前の頭脳とルックスで80万人ほどの登録者を集めていた。一方で那須の人気は低迷し、登録者数は10万まで落ち込んでしまった。





 ある日の夜、那須は畠山の家に向かった。


 畠山は親が遺した一軒家に一人で住んでいる。二階建て、地下付きで、一人で住むにはもったいないくらいだった。


 近隣住民に目撃されてしまうリスクがあるので、お互いの家を訪れる際はいつも変装していくと決めている。那須はコスプレ感覚で楽しんでいた。住まいがバレてしまうのはユ〇チューバーの彼らにとって致命傷になり得るので、配達員や点検業者に成りすますのは非常に有効な対策となった。


 ご立派な門の前に立ち、インターホンを押す。この日は宅配業者に成りすましてみた。


「はい?」

「お届け物です」

「どうぞ」


 畠山は声ですぐに那須だとわかり、遠隔で門扉を開錠した。那須は家の玄関へ向かう。


 リビングに案内されると、ラックの上に雑に置かれた金の盾が目に入った。チャンネル登録者数が100万を超えるともらえる記念品で、ご丁寧に「ナスバタケチャンネル」と昔のチャンネル名まで深く刻まれている。ちなみに、盾は一人ずつに贈られてくるので、那須の家にも飾ってある。


 畠山の金の盾はひどくホコリをかぶっていた。畠山が嫌味たっぷりにいう。


「過去の栄光だな」

「この盾は貴重な物だから、大事にしておいた方がいいぜ」


 那須はホコリを振り払ってみせた。


「で、突然来ていったい何の用?」

「忠告しに来た。いい加減、悪あがきはやめたらどうだ?」

「悪あがき? 何が?」


 畠山は“私は無実です”といわんばかりの憎たらしい顔をした。


「俺の評判を下げようとしてるだろ?」


 実は、畠山は那須に嫌がらせを行っていたのである。


 畠山はゲーム実況以外の動画も載せるようになった。那須との思い出エピソードを語ったり、秘密話を暴露したりするようになったのだ。再生回数を稼ぐために、那須のファンが自身のチャンネルへ流れるように仕向けたのである。


 ありもしない話をでっちあげて、やりたい放題だ。調子に乗りやがって、黙って見過ごすわけにはいかない。那須にとっては決して好ましい状況ではなかった。


「なに、評判を下げた? 君の評判はもともと低いよ」

「ふざけんな。今すぐやめろ」


 畠山は面倒くさそうに「はいはい」とあしらった。


「そうやっていえば俺が引き下がると思ってるのか? 舐めやがって。訴えてやる」


 那須の目は本気だった。


「訴える? 何の罪になるのか、いってみてよ」


 畠山が小馬鹿にしたような物言いで答えると、那須は畠山を鋭く睨み付けた。ゲームで強敵を倒せなかったときと同じ目をしている。同時に、法律を少しでも勉強していれば言い返せたのにと悔やんだ。


「いえないでしょ? たとえどんな手段を用いても、君は僕を止められないよ」


 畠山の「手段」の中には、殺人は入っていないようだ。なんならこの場でお前をキルころしてやる、那須は心の中でそう叫んだ。

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