蛇ではなく鬼が出た


「ん、そろそろ着くぞー―――ほれ、ウィルテューム森林名物!そこそこ大きい湖だ」


「……ぜってぇ、いま思い付いて適当こいただけだろ…聞いたことねぇぞ、んなもん」


「その通り!……だがまぁ、魔物や動物がよく訪れる場所ではある。そいつらにとっては名所だろ?」


「……はぁ…うし、サリメル草探すぞっ、おまえら!」


「うっす!」

「…ん」



 渾身のボケをスルーされた……しくしく。

 まぁ、それはどうでもいいとして……そんなに気合い入れなくてもすぐに見つかると思うぞ。水辺にワッサワッサと生えてるからな。



「……あった!……サリメル草。消炎効果、沈痛効果あり。果実の食用、可……うん、間違いない」


「うぉぉっ!でかしたっすよ、セソー!」


「よかったな……礼を言うぜ、おっさん。助かった」


「おうともさ!……ってか、特徴から探してる訳じゃなかったんだな。もしかして、セソが"鑑定"持ちか?」


「……そう。覚えなくても、見ればわかる。セソは"見通す者"、だ」


「ま、そういうこった……まさか、草って呼ぶくせに、低木のような植物だなんてな。そりゃ浅いとこにない訳だ」


「まぁなー……その代わりに水場の近くならいっぱいあるぞ。別にこの湖の所じゃなくたって、滝坪とか川の周辺とかにも生えてるしよ。俺たちの居たとこから一番近いのがここってだけでな」


「低木って分かってりゃ、水辺まではアテがついてただろうな……こればっかりはケチって資料室使わんかった俺の落ち度だ」


「銀貨1枚かかるし、申請通るのに時間も必要だからなぁ……ま、見つかったからいいじゃん!結果オーライよ」


「……おっさんの善意がなけりゃ、再度こいつらに試験を合格してもらう必要があったけどな。いらん負担をかけさせるところだった」



 んー、まぁ一回試験を合格してるなら再度受けても大丈夫だとは思うけどな。鑑定持ちのパーティーなら筆記の方も楽々クリアできるだろうし。薬草の効能とか魔物の特徴とかを経験則じゃなくて言葉で認識できるんだぜ。



「けど、あれだなぁ……セソが鑑定持ってたなら、道中で説明した採集方法とか使用用途とかは余計なお節介だったろ?すまんね」


「…セソの鑑定スキルは熟練度がまだそんなに高くない。見れるのは名前と僅かな情報だけ……余計なお節介ではなかった」


「…だとよ。俺たちがこいつの鑑定に頼りきりな所も、熟練させる点が大きいんだよ。既知よりも未知を鑑定して、それを仲間に共有することで効率良く鍛えられるかんな……今回はそれが裏目に出たわけだが」



 なるほどな……このパーティー、総合が鉄級評価にしては珍しく考えて活動してるんだな。こりゃあ、将来は良い銀級パーティーになりそうだ。

 この調子なら、いつかはアレックスみたいに金縁ついてもおかしくないな―――平均年齢が二十歳ってのもいいね。若者の今後に期待大ってな。



「そういえば、アレギはどこに行ったんだ?さっきまでは、俺たちの反対側まで行って採ってたはずなんだが…」


「あぁ?……たしかにいねぇな……ったくよぉ、どうせ採ってる間に奥まで行っちまったとかだろうな……迷惑かけやがって」


「……ん、アレギは"お調子者"、だ」



 目的のものは採れたみたいだし、早いとこ帰り道まで案内したいんだがな……今日はまだ何も狩れてないんで、時間に余裕がほしいんだわ。

 仕方ない、マップでサーチかけますかね―――ん?……あ、やっべ……なんか引き連れてきてるわ。



「――いぃぃっ!た、助けてくれぇぇっ!オーガっ!オーガが来てるっすよぉぉっ!」


「はぁ?……はぁぁあっ?に、逃げるぞ、おまえらぁぁっ!」


「待 て っ!」


「――っ、なんでだよっ!オーガだぞっ!俺たちはまだ死ぬ気じゃねぇっ!いくら今日の礼だって、さすがに戦わねぇぞっ!」


「俺だって危険度星4のやつと戦う気はない……が、オーガの習性に背中を向けて逃げる獲物を追うってのがあるんだわ……下手に逃げるのは悪手だぜ」



 こいつらは素だと人間と同程度かちょっと早い程度の速力なんだが、魔法を使うとその倍以上に足が早くなる。今、アレギが逃げれてるのもギフトの剣術にある"身体強化"のスキルを使ってるからだ。それで、素の状態のオーガと付かず離れずの距離。

 ここで、魔法を使われたらアレギが終るワケだが……オーガは知性も高い魔物でね。おそらく、アレギの身体強化が時間で解けるまで、素の状態で追い回すだろうな。魔力の温存、ただその一点のためだけに。


 オーガの知性が有る故に慎重となる性格がアレギサンターの命を延ばしてるんだが……魔法を使われたらアーザー達の命もなくなるんだわ。

 ここで逃げた途端に、魔法を使ってアレギがやられ、すぐさま俺たちに追い付いて戦闘開始になる。逃げが最悪の一手になるのは間違いない。



「じゃあ!どうするってんだよっ!俺たちの持つスキルにオーガを傷つけられるモノなんてねぇかんなっ」


「んなこと、知ってるっての……とりあえず、俺の後ろに入ってくれ。アレギが俺たちに合流したら、そいつも後ろで待機だ。

 とりあえず、勝手に逃げるのだけは無しでよろしく頼むぜー?」


「お、おう……」

「……わかった。今日は勝手に逃げない」



 さて、と。森の奥まで来たとはいえ、オーガの本来の棲みかは山をもうちょっと登った所なんだよな。ここまで降りてくるのはなかなか珍しい。それも、湖の近くになんて。

 こいつらは泳げないんで水辺を嫌う性質があるのよ。流れの速い川とか水深のある湖とかは特に。だから、ここに居ることがイレギュラーなんだわ。つまり、何か理由があるはずなのよ。



「う、うわぁぁぁっ!み、みんなっ!早く逃げるっすよっ!」


「待て!ここで待機だっ!おっさんっ」


「あいよ……ははーん、なるほどね。だからこんなところまで―――アレギ、その手いっぱいに抱えたサリメル草……全て俺の前方に放り投げろ」


「えっ…?」


「とりあえず、おっさんの言う通りにしろっ!」


「う、うっす!」



 ドサッとなかなか重い音をたてて俺の3歩先にサリメル草が落ちた。


 何も、オーガとにらめっこする状況を変えるため、障害物としてそこに放った訳じゃあない。ってか、こんなもんせいぜい足がチクチクするくらいで障害物とまではならんわな。



「ほれ、これはお前さんのもんだろ?返してやるよ。悪かったな」



 手を上に上げて一歩下がりつつ、目だけはオーガから離さないで待つ。

 しばらく膠着した状況が続いたが、オーガがゆっくりと、一歩ずつ距離を詰め始めた。


 それでも待ち続けることしばらく、ヤツが遂にサリメル草へたどり着き、そのぶっとい腕で束を抱えた。

 その瞬間、オーガは魔法を使ってすぐさまその場を離脱し、あっという間に森の中へと消えていった。



「……ふぅ……あー、緊張した…」


「す、すげぇ……あのオーガを何もせずに撃退しやがった…」

「……た、助かったっすよ」

「……"鬼が恐れし者"だ」


「まぁ、オーガはこと闘いにおいては慎重……いや、臆病とも言えるほどでな。こっちから行動を起こして実力が図られない分には、オーガの方も仕掛けてはこないんだわ」



 もちろん例外の個体もいるし、気が立っている時はそうとも限らない。

 今回は怒らせてたんでちょっとマズイかとは思ったが、所々に傷を負っていたんでな。そういう性格がデフォルトなオーガなら、多少怒っててもイケるって踏んだのよ。



「ま、アレギがたぶんオーガの作業場……あー、縄張りに踏み込んでサリメル草を採ってきたのが原因だろうな。既に指定された量は確保できてるんだろ?」


「あ、あぁ……もう十分だ」


「うし!んじゃまぁ、色々あったけど戻るかー。お前さん達と会った地点まで送れば、後は自力で帰れるよな?」


「もちろんだ……今度、ギルドで酒奢らせてくれ」


「あー……そんなら、酒じゃなくて煮豆で頼むわ。俺、そっちの方が好きだしよ」


「ハハっ、そうかよ――今日は本当に助かった。命の恩人だ、おっさんは。もし、何かあったら頼ってくれ……力になれるかは分からんが、精一杯のことはするかんな!」

「マジであざますっ!俺もうなんでもしちゃうっす!」

「……命のお礼は必ずする」


「おいおい、そんなに大げさにしなくてもいいんだがなぁ……まぁ、覚えておくわ。いつか頼ったときは、よろしくな」


「おうっ!」

「うっす!」

「…んっ!」


「んじゃ、帰るぞー!……あ、早速頼っていいか?オーガのことをギルドに伝えといて欲しいんだわ。俺、もう少し森を探索する予定だからさ」


「それくらい全然頼みごとに入んねぇよ!冒険者の義務じゃねぇかっ」



 おー、偉い偉い。ちゃんと義務だって理解してるんだな。いやぁ、最近の冒険者は報連相がしっかりしてない奴等が多くてねぇ……って副ギルマスが去年辺り嘆いてたぜ。

 あのときは俺も報告してないことがありすぎて、心にグサッときたっけな…。





―――◇◆◇―――


[サリメル草]

山の低地帯にある水辺によく生えている低木。白紫色の小さな実が多数結実し、葉や果実には消炎効果や僅かな沈痛作用がある。そのため、薬草として扱われている。

また、実を集めて造った果実酒には疲労回復の効果があると謂われ、高額で取り引きされている。


Tips:はるか昔、生命の酒と呼ばれる琥珀色の飲み物があった。賢帝と呼ばれた男は長寿のためにこれを常飲していた。ある日、部下の失態に激怒した際、突然糸が切れるように亡くなった。御年、四十の事である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る