酒に魅入られた者たち
収穫祭が無事成功に終わって迎えた翌日。俺は街での清掃活動を行っていた。
というのも、街の道が汚すぎるんだわ。自分で出したゴミくらいは自分の手で持ち帰れってんだ。
それでも、大通りや露店が出ていた通りなんかはまだいい方で……路地裏や酒場前の道の隅っことかには、吐瀉物やらなんやらが放置されている。さすがにこれを掃除するのは嫌なんで、参加してる衛兵とか水魔法持ちに任せるが…。
「まぁ、これもある意味では毎年恒例の行事だよな」
「うっ……そ、そうですね……んぅっ…頭が…」
「はぁ……新しくゲロを追加すんじゃねぇぞ?ってか、そこまでしてついて来なくてもよかったろ」
ほんと、何で後を追ってきたんだか……しかも、ろくに清掃の手伝いもしないしよ。まぁ、それどころじゃないって感じなんだろうが。
これでも一応、ギルドの依頼だからな?そのまま何もしなけりゃ、失敗判定食らうぞ?
今回の祭りに参加しに来た余所の冒険者も、ここのギルドで街の清掃依頼を受けるのは暗黙の了解となっている。
清掃依頼の金銭的な報酬は石級なみに少ないが、その分貢献度は多いらしい。それでも、あまり受け得な依頼ではないが……まぁ、きれいにトイレを使いましょうみたいな感覚だな。ワーデルスで騒がせて貰ったお礼として街を綺麗にして帰ります、的な。
逆に、どこの街でもそうだが、祭り終わりの清掃依頼を受けずにさっさと帰る奴は同業者から白い目で見られるぞ。特に、護衛依頼を受けて各地によく訪れる冒険者なんかがそこに居た日には、清掃に参加しなかったことを噂の形で行く先々に広めていくしな。
まっ、とりあえず参加しとけって話だ。これは、リオが冒険者を始めるにあたって、まず始めに教えた暗黙ルールの一つでもあるのよ。
「んで……ゴミを言われた通りひとまとめにはしたが、これをどうするんだ?」
「うぅ……ありがとう、ございます……"
「あぁ、あぁ!わかったからっ。ひとまず無理してまで喋るな。な?闇魔法の分解でゴミを消してくれるってことだろ?おっけ、助かる!ありがとな。だから、ひとまずここで、ゆっくりしてろ。ゴミ集めてくるからよ」
「…ぁい……」
そういえば、分解も闇魔法で取れるスキルだったな。リオが使えたのは知らなかったが、これなら指定された範囲の清掃も早く終わりそうだ。いちいち袋にまとめる必要もないしな……懸念があるとすれば、一角にゴミを寄せるだけの俺に貢献度が加算されるのかって点だが……ま、どっちでもいいか。依頼失敗なんていまに始まったことじゃないしよ。こういうボランティアは参加する姿勢が大事なんだわ……サボってるわけじゃないからな?
よぉし!日が沈むまでには終わらすぞー。明日もこれをしなくていいってのは、その分採取でお金を稼げるってことだ。頑張るぜ!
ところで、闇魔法って生活のいろんな場面で魔道具として使われてるが……同じ"闇"って呼ぶくせになんで魔法の方は忌避されてないんだろうな?あれか、神様が授けたギフトだから大丈夫だ、的な考えなのか?
いやまぁ、知り合いに聞けば教えてくれる程度のことではあると思うんだが……自分からこれについて尋ねるって気まずいわ。なんか、まるで俺が黒髪黒目で恐れられることに、本当は心が傷ついてるって思われそうだろ?だから、聞くに聞けないんだよなぁ。
どうでもいいことを考えながら清掃するにはちと範囲が広いので、それ以降は無心となって、ただひたすらにゴミをかき集め続けた。
「―――ふぅ……これで、俺たちに割り当てられた区画は清掃完了したかな。見落としとか、地面にこびりついてるのとかはもう、見回ってくれてる衛兵によろしく頼むしかないけどよ」
「そうですね…先輩、お疲れさまです」
「おう!リオもお疲れさん。お陰さまで今日中に終わることができたぜ。
んじゃあ、ギルドで報告して、解散するかぁ」
「はいっ……あ、そうだ!この後、一緒に夜ご飯食べに行きませんか?レイラがお勧めしてくれた、ワインの美味しい良いところがあるんです!」
「おー!…おぉ?……リオよ。ちょっと最近、お酒飲みすぎじゃないか?……太るぞ?」
「え!…嘘っ……でもレイラは細いですし……はい、しばらくは1日三杯に抑えます…」
それでも、なかなかな量だと思うがな?きっと、あの酒豪に付き合わされてるんだろうなぁ……まぁ、エールをがぶ飲みするような、アルコールを摂取したいのかお前って言いたくなる飲み方じゃないだけマシか…。
ってか、冒険者連中のおっさんの殆どがそんな奴ばっかりだしな。酒の師匠ガチャはまぁ、当たり……ではあるか。レイラだって量は飲むが、ジュース感覚でゴクゴクいくワケじゃないし。あれはただ、飲む時間が長くペース配分が早いだけだ。一定のペースでずっと飲み続ける奴ほど恐ろしくはあるんだが…。
リキュールとかワインとか。味や風味を楽しめるのをちまちまと飲むのが良いんだわ……俺はな。
あー、また近い内に新しい味でも作ってもらおうかなぁ……カシスシリーズはとりあえず揃えたいところだ。
まぁ実際は、森で採れたカシスのようなベリーにオレンジっぽい味のする果物ジュースを蒸留酒で割った、なんちゃってカシスオレンジしか作れてないけどさ。
個人的には、そもそも蒸留酒ってあったんだなと驚いてたんだが……麦の名産地だし、山も森も川もあるからな。もちろん果樹園も存在する。そりゃ、蒸留酒の一つや二つくらい出来るわな。
とはいえ、魔道具を介した貴族事業ではあるようで、平民がなかなかお目にかかれるような代物ではないらしいが……静世亭のマスター、マジで何者だよ…。
「まっ、酒がうまいのは良いことか……あんまし飲めないけどよ…」
「……ちょっと可哀想に思えてきました…」
いいんだよ……途中で頭が痛くなるだけで、そんなに酔いはしないからな。
お前さんみたいに、翌日に引きずらない分よっぽどマシなんだからな。別に羨ましくもなんともないやいっ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます