収穫祭で親子デート
レイラ「おーっ、やっぱりリオってこう、幼い感じの服装も似合うけど……うんっ、そっちでも可愛いねっ!ちょっと大人な雰囲気もあるしさっ」
リオ「そう、でしょうか。でも、幼い服装が似合うよりかは全然いいですね……精神的に。あ、いつも服を借りてばっかりでごめんなさい……」
レイラ「いいよいいよー、気にしないでってばー。んふ~、可愛いものはボクにとって目の保養になるんだからねっ!それに、全部お下がりだしさ…新品じゃなくて、こっちの方こそごめんなさいっ、だよー?」
リオ「ぜ、ぜんぜんそんなことないですよっ!……素敵なお洋服、ありがとうございます。それでは、僕は先輩の所に行ってきますねっ!」
レイラ「おー!楽しんでね~っ。
―――にっしっし……恋にはやっぱり好敵手がいないとねっ…アリーは奥手だし……攻めるなら、リオが自覚してない今の内だぞ~?」
―――◇◆◇―――
あ"ぁ~……人が多い……ここはスクランブル交差点かっての…いやまぁ、東京住みじゃなかったんで、あそこがどれくらい混んでるのかは知らんけど。そう思うくらいには、人で街の通りが溢れてるってことだ。
なんか、ここ数年でワーデルスの収穫祭に参加する人々が増えてきてるんだよな。アリーの参戦で戦争が早期に決着するからか?それがどう影響して増加につながるのか結局わからんな。
でも、観光に訪れた冒険者が増えてるってよりかは、この街に住む人が増えたって感じではある。出店とかが増えてるしよ。
「こりゃ、街道警備の衛兵さんたちも大変だな。お疲れさまだね、ほんと」
人々であふれかえった道のりを、いつもより苦労しながら進んでいく。
祭りでテンション爆上げしてるせいか、今日ばかりはモーセばりの人割りができないんだわ。普通に肩とかぶつかる。なんならスリとかあるしな。気を張りながら歩くのがこんなにも疲れるなんて…。
「あ、せんぱーいっ!こっちです!こっちっ」
「ん?その声はリオか。ちと待ってろ、いまそっちに―――」
街道をまっすぐ進んだところにある中央広場的な場所はかなり混むということで、比較的人の少ない静世亭の前で待ち合わせをしてたんだが……どこだ、あいつ?声はするんだが、近くにいないぞ?
「もう!目の前できょろきょろしてどうしたんですか、先輩?」
「んおっ!……お、おー、リオか…いや、ちょっと雰囲気がいつもと違ってな。気づかなかっただけだ」
「えーっ…本当ですか?また、背が小さくて見えなかったとか言ってからかわないでくださいよ?」
「いや、さすがにもうそんなことは言わねえよ。ほんとに認識が食い違ってただけだわ。幼い雰囲気が急に大人びてたら、だれだって脳がバグるもんだぜ…まったくよ。いっちょ前におめかしまでしやがってさ」
最近のばしてるらしい髪をいつもはそのまま下ろしてるのに、今日に限っては後ろで束ねてるんだぜ?この時点で、普段のリオと結びつかねぇよ。その上、ロリータファッションがベルトのついたドレス?ワンピース?……まぁそんな感じの服装で色も茶色っぽく、全体的にシックにまとまってるんだわ―――ほんとに男だよな?こいつ……ってか、なんでナチュラルに女装してんだ?!最近怪しくは思ってたが…つ、ついに、そういう趣味に目覚めちまったのか…?
「えっ!…あはは~、ほんとにお化粧は軽くなんですけど…先輩って目聡いですよね!……ど、どうでしょうか、レイラさんに教わってはいますが…ちゃんと、できてるでしょうか?」
「ん、んー……まぁ、いいんじゃないか?いつもの方も充分可愛いが、そういうのも似合ってると思うぞ。可愛いよりも綺麗って感じではあるがな。それに、大人っぽい色気なんかもそっちの方があると思うぜ」
「そ、そうですか……えへっ、ありがとうございます」
あーあー…照れなのか恥ずかしさなのか、顔を赤くしちゃってまぁ……こいつのそういうところがほんと、可愛んだよなぁ。ちょいと不安そうにしてたんで、自信を持たせるべく軽く褒めただけでこうだぞ?
とはいえ、嘘は一切言ってない。実際、似合ってるしな。ちゃんと本音だ……ジェンダーにある程度は理解のある時代に産まれてて良かったぜ、まったく。
まぁでも、リオみたいに褒めたら褒めただけこういう反応を見せてくれるのは、こっちとしても嬉しいのよ。褒めがいがあるんだわ。
「よし!んじゃ、さっそく色々と見て回ろうぜー」
「はいっ!最後はギルドですか?」
「おう、配布されてるクッキーを貰うならあそこがいちばん手堅いからな。今年もソフィア嬢が取り置きしてくれてるだろうし」
あのクッキーマジでうまいんだよなぁ……平民区には珍しく、バターとか砂糖とかがしっかり使われてるやつだしよ。まぁ、アリーのとこではそのレベルのお茶菓子が普通に出てくるらしいが……QOLの高さだけは貴族が羨ましいぜっ!
ぐぬぬ、この悔しさを晴らすべく…今日くらいはパーッと金を使って豪遊してやるんだからなぁっ!
どこの道にも何かしらの屋台や出し物があるためか、人の流れがかなり滞っている。いつもは何もないただの通路ですらそうなっているのだから、街道のような大通りはもっとごった返してるわけで。必然的に俺たちの歩みも遅くなるし、距離もほとんど通学時の電車並みに引っ付くことになる。
「あ”ぁ”……あっちぃ…気温がいつもより涼しくて助かったが、夏日だったらおっさん熱射病で倒れてたぞ…」
「あ、あはは…結構人も多いですしね。あ、先輩っ!あっちで飲み物売ってるみたいですよ!日陰ですし、休憩がてら行きませんか?」
「おっ!でかしたっ、リオ!早速行こうぜー」
ってこれ、飲み物は飲み物だけど……薬草茶じゃねぇか!しかも、この辺で採れるやつの。はたして売れてるんだろうか……いやまぁ、価格はお祭りだということを加味してもだいぶ安めではあるんだがな…。
「ま、いっか…よし、リオ…お前さんからどうぞ」
「えっ?まぁ、はい…のどが渇いていたので飲むつもりでしたし、普通にいただきますけど――ケホッ、コホッ……ううぇ…な、なんですか、これぇ……えぐみが…すごい、です……」
「まぁ、薬草茶だからな……センブリ茶なみの苦さはあると思うぜ。慣れてないとキツいだろうさ」
「も、もっと早く言ってくださいよっ!……はっ、まさか僕を先に行かせたのって…もうっ、先輩のいじわるっ!嫌いになりますよっ」
「ははっ、わるいわるい。ちょっと反応が見たくてな。ほら!俺も飲むから、それでチャラってことで――うっぷ…マジで慣れねぇ……体には間違いなくいいんだがな…」
ほんと、なんでこれを出しものにしようって考えたんだ……祭りの日にこんな苦いものなんて、罰ゲームとかでしか需要ないぞ、たぶん。
「――師匠ーっ!言われた通り、薬草の在庫持ってきましたけど、本当に売れるんですか?」
「わしの自慢の薬草茶じゃぞ?売れるにきまっとる。現に今売れたからな。安心せい」
「師匠?つまらない冗談はやめてくださいよ?そもそも、こんなのが売れたらびっくりするって言ってたのは師匠じゃないですか」
「うるさいわいっ。ほんに売れたから、わしだってびっくりしとるわ。ほれ、そこにお客さんがおるじゃろ」
「えっ、こんなのが本当に?――って、レオンさんじゃないですかっ!」
「なんじゃ、知り合いかい。そんじゃ、わしは新しい薬草茶を入れてくるのでな。しばらく店を閉めといてくれ。話が終わったんなら手伝いに来るんじゃぞ」
「はい!……お久しぶりですっ、レオンさん!梅雨時ぶりですねっ!」
「おぉ、イオか!久しぶり…でもないだろ。まっ、元気そうで何よりだ」
「あははっ、いやー、まさかこんなところで出会うなんて!驚きましたよ~。あっ、その隣の子はだれですか?……もしかして、レオンさんの彼女だったり?」
「いや、こいつはお前も知ってるリ――」
「そうなんです!今日はデートに付き合ってもらってまして…えへへ」
「はぁっ?おまっ、」
「そうだったんですねっ!いやぁ、ついにレオンさんにも春が来たんですね!よかったぁ……お二人の時間を邪魔するのも忍びないので、僕はこの辺で失礼しますね。師匠のお手伝いもありますし……収穫祭をどうぞ、楽しんで!」
あぁ、行っちまった……って、そうじゃねぇ!やっべ、どうすんだよこれっ!
「お、おい?リオ?…怒らねえ……怒らねぇからよぉ、なんであんなことを言ったのか、ちゃあんと理由を聞かせてもらおうか?」
「あ…え、えっと……なんであんなこと言っちゃったんだろう、僕……ごめんなさいっ!ちょっと追いかけて、冗談ですって言ってきます!」
「あっ!おいっ、ちょっと待ていっ!―――」
「さすがに、貴族街近くだと売り物とか出し物が豪華だな」
「はい……そうですね………」
「そういや、リオを俺ん家に誘った日もここでばったり会ったからだったよなぁ……あれからもう半年近くも経つんだな。時間の流れは速いぜ、まったく」
「はい……そう、ですね………」
おいおい、楽しいお祭りだってのに隣の空気が死ぬほど重いんだが……そりゃまぁ、イオが聞く耳持たなかったのは俺も予想外だったけどよ。一応、秘密の恋って形に治まったんだからいいじゃねぇか。あいつの口はちゃんと堅いぞ?
けど、まさか冗談が通じない奴だったとはな……嘘は良くない…いい教訓だぜ。
「だぁーっ!いつまでもうじうじするな!せっかくの祭りなんだぜ?楽しく行こうっ!楽しくっ、な?俺は全然気にしてないからよ。
そうだ!いっそのこと、本当にデートみたいな感じで行くかっ!ほら、手を貸せ、手を。どのみち人でいっぱいなんだ。はぐれるのもなんだから繋ぐぞー」
「えっ、あ、わわっ……あ、ありがとうございます…」
「いい、いい。気にすんな。ほれ、せっかくここまで来たんだから、ちょいとお高い小物類の露店でも冷やかそうぜ」
おおっ、宝石ついてるわりにはだいぶ価格が低めだな。お貴族様がつけてそうな髪飾りとか指輪、ブレスレットなんかがあるぜ。
これはあれか。俗に言う屑石ってやつを使ってんのか。どれも小さいし、形も大きさもバラバラだもんな。よく見りゃ傷がついてたり、中に気泡みたいなものが入ってる宝石もある。
しっかし、こういうのでもちゃんと売れてるんだろうな。品物が置かれているところどころに空白のスペースがある。
この辺の露店はどうもちょっと高そうな服とかバッグ、アクセサリー系でまとまってるみたいだ。それでいてこれだけ通りに人がいるんだから、需要は高いんだろうな。まぁ、こういう機会でもないと平民には手が届きにくいか。
どおりで、ここら辺の人の女性率が高いわけだ。カップルも多いしな……せっかくだし、いつもの面々になんか買ってくか。いや、まてよ……アクセサリーのプレゼントってなんか意味があったよな?こういうときはリオに聞くか。
「おい、リオ…アクセサリーのプレゼントってどう思う?」
「ふぇっ?あ、えっと……僕は、プレゼントなら何でも喜んでもらえるんじゃないかなって…思います」
「何でもって……さすがに限度はあるだろ?それに、アクセサリーとか花とかってなんか意味とかなかったか?」
「そ、そうですね……でも、こういう小物類って、綺麗ですし…愛を感じられるというか…」
そりゃまぁ、身に着けるものだからな。各アクセにはきっとそういった意味が込められてるんだろうが…。
――さっきから、リオの視線がある髪飾りの一点に集中してるんだわ。さっきから受け答えがどこかズレてるのはこれが原因のようだな。
ちゃんと観てみたが、ただの黒真珠がついた銀色の簪だぞ……真珠は魔大陸の魔物産ではあるようだが――あー、そういえば簪そのものがこっちでは珍しいんだっけか。めったに売ってないもんな。こんなもん、どっから仕入れてきたんだか。
「リオー?もうじき昼の鐘が鳴るころだしギルドの方へ向かうぞ。屋台でちょいちょい美味そうなつまみも確保しつつだからな。そろそろ戻り始めねぇと強欲な冒険者どもに取り置き分も食べられちまうぞー?」
「は、はいっ!すぐに戻りましょう!目に毒です、ここはっ」
「っとと…おいおい、手ぇ振りほどいて先行くなっつの……はぁ…迷子になっても知らんぞー」
目に毒ねぇ……まぁ、お前さんが今着てる服とか小物類の方がよっぽど高いとは思うけどな……しゃあねぇ、ちょいと値が張りますが買っちゃいますか。せっかくの祭りだしな。でも一本しかないんで、リオだけにだぞ?…ったく。
付き合ってなくても俺にとっちゃあリオは家族も同然なんだわ。俺は身内に甘いんだぜ?
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