精霊の住まう秘境
規定通り罰金を支払い、無事に緊急依頼から降りることができた。やっぱりいろいろと言われたが、俺はやりたくないんだ!初日で勘弁してくれや。
「はぁ……それで、レオンさんは今年もウィルテューム山で野営ですか?」
「ああ、そのつもりだ。すぐに許可もらえるんなら、今日にでも行こうかなって思ってるぜ」
オルシア王国のワーデルス領と隣国アーパルとを隔てるようにして聳え立つ山、ウィルテューム。形としては円錐形に近く、頂上が雲で隠れていて見えない。実物の富士山を見たことがないから何とも言えないが、標高は同じくらいありそうだ。いや、もっとあるのか?……うむ、わからん。
でもその高さのわりには、俺たちのいる街ってこの山の麓に位置してるのに傾斜をほとんど感じないのよ。成層火山なのかね……噴火の災害記録とかが探しても無かったんで、火山として生きてるのか死んでるのかはわからないんだよなぁ。
どうでも良いが……火災や地震の避難訓練はなんとなくで覚えていても、噴火災害の避難訓練はほとんど記憶にないんだよな。たしかにやった筈なんだが、なにをしてたのかが思い出せないのは俺だけか?
「野営許可なら私でもすぐに出せますが……ウィルテュームは国境上にあるため、オルシアの明確な所有領土ではありません。
こちら側の麓や中腹手前辺りならまだしも、それ以外の場所となると……ギルドはもちろんのこと、王国の力も関与はできません。何か起こっても自己責任ですからね?」
「わかってるよ。どっちにも属さない無主地だからこそ過ごしやすいんだわ。ま、勝手にあちらさんへ亡命することだけはないって約束しとくぜ」
「約束ですからね。では、野営許可の書類を作成してきます……確認ですが、期間は今年もひと月程で良いんですよね?」
「おう、それでよろしく。んじゃまた、ひと月後に顔出すわ。元気でな~」
「そちらこそ、お元気で。魔物も程よく討伐していただけると助かります」
「りょーかいっ。いつもの迷惑を相殺する程度には無償の奉仕をさせてもらうぜー」
「かなり期待できますね、それは」
受付から書類作成のため裏へと入っていく背中に声が届いたのを確認してから、俺もギルドを出る。
これで俺がワーデルスから離れて森を彷徨い歩いていても、登録した期間中は行方不明扱いされない。
野営許可はいわば、冒険者という職務における外出届みたいなもんだ。それにしては不在の時間が長すぎるが……まぁ、そんな認識で俺はいる。理由や野営する場所等々、複合的な要因から認められないことも多々あるしな。
許可をもぎ取るには、日頃の行いとギルドからの信用度がかなり重要になってくるってわけだ。俺みたいな清廉潔白な男は一ギルド職員の独断でもオッケーが出るのさ!……ただし、ギルド職員はソフィア嬢とする…。
「許可も降りたことだし、さっさと向かいますか」
戦争の雰囲気が嫌だから山に籠る……っていう理由は間違いではないんだが、俺の目的はそれだけじゃない。いや、まぁ、3割……半分はそれが理由だけどな?ソロキャンは娯楽として好きだしよ。
俺がこの世界に降り立った場所は、ウィルテュームの山腹に位置するとある洞窟の奥だった。
転移直後は気が動転してひたすら光のある方へ走ったんで、俺が誕生した場所なんて気にも留めていなかった。それに、しばらくは生きていくことに必死で忘れていたんだが、いざ落ち着いてくるとどうやって俺がこの世界にやって来たのか気になったんだよな。
それで、俺がリスポーンしたところを調査する目的で山に籠るようになったのが始まりだ。
いやぁ、マップが自動で通った場所を記録する仕様で助かったぜ。これがなかったら、たぶんたどり着けてなかったわ。それくらいに隠れたところに出来てる洞窟なんだよな。
俺が沸いた場所以外にも洞窟はあるし、どこ見渡しても似たような風景なもんで、よく迷う。傾斜なんかも、単純に上り坂が登り道の正規ルートって訳じゃないっぽいんだよな。
そんなことからこの山、別名で精霊の隠れ里なんて呼ばれている。名前からわかる通り、主にアーパルでの呼び名だな。
これがつけられた背景に、精霊の存在を誰も見たことがないというのがあるそうで。そこから派生して、精霊は人目に触れないところに住まう。見た相手を精霊の世界に連れ去ってしまう。なんて言い伝えが広まったそうだ。
きっと、ウィルテュームで遭難して帰らぬ人となったケースがあまりにも多いんだろうな。
なもんで、マップを使えるとはいえ中腹までの道のりを全て歩きで登りたくはない。迷いやすいってのもそうだが、そんな秘境のような洞窟へとたどり着く間に、道らしい道なんか一つもないからな。足場も視界も悪いしで、到着するころにはソロキャンを楽しむどころじゃなくなってるだろうよ。
だから、テレポートで直接飛んでいくわけなんだが……許可を取ったからには街を出た記録と目撃情報がないと大問題なんだわ。残念ながら、使うのは森に入ってからだな。
「それに、ソフィア嬢からのお願いもあることだし。1日くらいは狩りながら歩くとしますかね」
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