兵站部隊第六班、始動!


 今回の緊急依頼の内容だが、一言でいうならば兵站だ。

 食糧や消耗品を馬車の荷台へ積み、ワーデルスからビエト子爵領にある各砦へと運び込まなければならない。

 そして、届け終えたら再び馬車を引いて来た道を戻り、また積み荷仕事が始まる。

 戦争期間中にこの一連を何往復も行うのが、俺たち銅級以下の冒険者に課せられた仕事だ。


 内容としては単純作業な肉体労働なんだが、かなりキツイ仕事ではある。

 だって考えても見ろ。各砦に在中している兵士達にプラスして前線へ送る分の食糧と消耗品を運ぶんだぞ?武器とか鎧、整備道具とかも消耗品だからな?荷台に載せるだけでもう身体がボロボロよ。

 道もワーデルスからビエト子爵領まで多少整備されているが……そこから砦までの道は険道といっていい程に悪路だ。なにせ、一年に一回使うだけの場所だもの。お金かけてまで道の整備はしないわな。

 それに、抜かれたときのことを考慮すれば悪路の方がいいってなる。


 そんな、おっさんには厳しい仕事の詰め合わせのような緊急依頼だが……実はこれ、一度も受けないでいるとペナルティとしてランクの降格処分が下されてしまう。

 まぁ、何回も往復するんで、全部に参加しないと依頼失敗……なんてことはないんだけどな。全体の7割程度参加して、無事に届けられていれば達成とみなされるそうだ。大学の単位取得みたいな感じだな。


 なので、俺は初回しか参加しない。一度でも参加すれば、ペナルティはいつもの罰金になるんでね。

 夏日に重労働を数週間もやりたくねぇよ……これが嫌だからってサボったり、すっぽかしたりする奴もいるが、そういう奴ほどランクが低いんで無い金を払わなければいけないという別の地獄に落ちる。

 俺みたいに、ちゃんと稼いで罰金を支払うのはあんまりいないんだよな……もちろん、銅級以下での話だが。


 ちなみに、この仕事を経験した冒険者ほど銀級の昇格を貪欲に狙うようになる。銅級までの冒険者に振り分けられる依頼だもんな、これ。

 俺からしたら戦場で殺し合う方がキツい仕事だと思うけどね。どっちがいいのかなんて、個人の価値観によって違うんだろうけどさ。



「あ"ぁぁ……あつい……とける…」



 そんなわけで、絶賛荷積み中な俺だが。

 ひと班あたり20台もの馬車に物資を詰め込まなきゃいけないんでね。今日中に荷詰めをして明日の早朝にはワーデルスを発つという、かなりタイトなスケジュールとなっている。

 早朝に出たからといって、ビエト子爵領に着くまでに二日はかかるんだがな。

 

 まぁ、この辺の予定は兵士たちが預かって管理しているんで、俺たちができることは決められた時間までに終わらせること。ただ、それだけだ。



「お、おい!そこのブロンズ!もっとテキパキと動かんかっ。このままでは日が沈むまでに終わらんぞ!」



 もちろん、監督する兵士もいる。というか、この方たちがいないと兵站素人な俺らは何もできないんだわ。

 積み荷だってただ適当に載せればよいわけじゃないし、荷台にどれくらい載せられるかも俺たちは知らんしな。

 どの箱に何が入ってるかも兵士たちが管理しているんで、真面目に監督兵の指示にしたがって行動しないと、運搬中に積み荷が崩れて大惨事が起こる。



「おいっ、聞いているのか!」


「あ"ぁ?……俺のことっすか?」


「ひっ……あ、当たり前だろうがっ!お前以外の他に誰がいるんだ!」



 いやまぁな。たしかにこの場には俺しかいないわ。ったく、受注するだけしてすっぽかす奴がいるからこうなるんだわ。

 といってもまぁ……顔合わせする時はいたんで、いま来てない理由は十中八九俺の存在なんだろうけどよ?



「はぁ……怒鳴るのはいいっすけど、真面目に作業してる人を怒るのは違くないっすかね?」


「だ、だが事実だ!予定時刻よりも遅れているっ」


「仕方ないっしょ……班員がいないんすもん」


「そ、それでもっ、兵站部隊の第六班隊長はお前だろうっ?班員がいない責任はお前にあるっ!」


「それはまぁ……ごもっともで」



 これだから責任を背負う立場ってのは嫌いなんだ。誰だよ、俺をリーダーに据えた奴は。どうみても不向きだろ。

 

 まぁ、でもここでうだうだ考えてても仕方ないんだよな。予定時刻を過ぎてこのままじゃ今日中積み荷作業が終わらないのも事実だし。

 責任って立場で言うなら、この監督兵も俺たちの責任を背負ってるわけだしな。きっと、俺たちの仕事の不備はこいつが怒られることになるんだろう。見事な縦社会よな。



「たしかに班員ほったらかしにしてるのは隊長としてダメっすわ……んじゃ、一旦大声出すんで耳を付けてくださいよ」


「お、おい。な、何をする気だ?」



 こちとら、マップでお前さんらの場所は把握済みなんだよなぁ!へっへっへっ、そこの路地曲がったところでいったい何してんのかなぁ…?三人で固まっちゃってさぁ…。

 この距離ならそこまで大きくしなくていいか……範囲は【/say】で十分そうだな。



「入力完了っと……おーい!そこの路地の物陰でこそこそしてる班員たち~?今すぐ俺の手伝いをしないと……魂を呪っちまうぞー?」


「ひっ、ひぃぃっ!す、すまねぇ!すぐにやるから、許してくれっ!」

「や、やっぱり逆らうべきじゃなかったんだよ……ご、ごめんなさいぃ!」

「お、恐ろしい……“魂を緊縛せし者”だ…」



 お、出てきた出てきた。

 こいつら顔合わせした時にも感じたが……どっかで見たことある顔なんだよな…。



「お、お前っ!……最初からこうしておけば良かっただろうが…!」


「いやぁ……仕事よりも恐怖を優先するとは思わなくって」



 それに、時間に間に合わず依頼を失敗したとて俺は構わないんだわ。まぁ、罰金の額は上がるだろうし貢献度にかなりの減点が入るだろうが……不参加ではないんで降格ペナルティにはならないしよ。こんなこと、絶対に口にはできないけどな…。



「と、ところで、魂を呪うってのは……ほ、本当なのか?」


「……さて!遅れた時間を取り戻すためにも精一杯仕事しろよー、お前ら。じゃないと、呪っちゃうぞ?」


『は、はいぃっ!』



 監督兵さんの質問には黙秘権を使わさせてもらうぜ……恐怖の根源は未知にあり!ってな。



――さて、と。班メンバー来たことだし!ふざけるのはここまでにして、真面目に働きますかね。

 

 とは思うものの……俺、一人のときも真面目に働いてたよな…?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る