頼りたいor頼られたい


 腰だめに構えた下段から胴を薙ぐようにして振るった大鎌の刃が、トードフィンの喉元を切り裂く。

 一瞬を置いて溢れだした鮮血から身を引くようにして、大鎌を自身の背後まで振り抜き後方へ飛び退いた。



「うわっ、っと、とぉ……ふぃー、危ない危ない。あとちょいで頭から血をかぶる羽目になってたな、こりゃ」


「お疲れさまです、先輩!……依頼の指定場所だと、今ので最後になるんですかね?」


「たぶんな。しっかしよぉ…全部で14体ってちと多くねぇ?梅雨終わったんだから、川のなかに帰っとけってんだ、まったく」


「あはは、まぁまだ森の中の湿度は高いですし…居心地が良かったんですよ、きっと」


「カエルならそれで納得できるが……こいつら、一応魚の仲間なんだぜ?」



 人とおんなじ位の大きさしたカエルに、背ビレと尾ヒレを付けた見た目の魔物ではあるんだが……これでも分類はまさかの魚。

 初見の時に両生類じゃねぇのは嘘だろ、って思わずつっこみをいれるくらいには驚愕したっけな。


 ちなみに、こいつは毒があって食えないそうだ。麻痺毒なんでいいやと思って食ったことはあるが……意外と旨かったぞ。三時間くらい体が動かなかったが。



「ってか、そっちは弓で倒したのか。どれも目ん玉貫通してるみたいだし……腕上がったなぁ」


「えへへ……実は短剣だと滑っちゃいまして。中々切れなかったんです。なので弓に切り替えました……今では飛び立った鳥を狙って、撃ち落とすこともできるんですよ?」


「おー!そりゃすごいな……焼き鳥が食べ放題だ」


「今度、また一緒にばーべきゅーしましょうね!あの頃とは違って、今なら僕もお酒が飲めますし」


「そうだな。時間が合えばまたやるか……ほれ、日が落ちるまであんま時間ないんだから。さっさとこいつらの証明部位を剥ぎ取ってくぞ」



 こいつらの討伐証明部位は背ビレの先端部分。他に換金できる部位としては、こいつの舌とか皮があるんだが……舌はかなり長いし、皮は剥ぎ取りが面倒なんでな。今日はスルーだ。


 それにラカスブルーメとゴブリンがそこそこ数いたもんで、証明部位だけでも背負い袋がいっぱいになりそうなのよ。



「よし、終わったな……んじゃ帰るぞ~」


「はいっ!今日も楽しかったですね、先輩!」


「おっさんには2日続けて連続狩猟を楽しむほどの体力はもうないのよ。あー、早く帰って身体綺麗にして寝たいわ……まぁ、リオのおかげで肩の力を抜けた、てのはあるかもな」


「えへへ……僕は豊穣の灯りに所属しましたけど、いつでも頼ってくださいね?先輩第一なのは変わらないので!」


「…ばーか。俺よりもパーティーメンバーのことを優先しやがれ。互いに命を預け合う仲間なんだぞ?

 俺のことは気にしなくたっていいさ。これでもリオより2倍近く生きてる。一人でも問題ないっつーの。


 そんなことより、足を動かせってんだ。ギルドに達成報告しなきゃいけねぇんだぞ?その間に屋台が閉まっちまったらどうするんだ。串焼き奢るに奢れないだろうが!」


「あははっ……そうですね。じゃあ全力で駆け抜けちゃいましょう!どっちが先に門に着くか競争ですっ。よーい、どーん!」


「へ?あっ、待て!こらっ。リオーっ!」



 くっそ、あいつ足が早ぇんだよ……っつーか、こちとら背負い袋に大鎌まで持ってんだわ!不利にも程があるだろ、おいっ。



「こ、こなくそぉ!待てやごらぁ!こんなもん、いいハンデだ。しっかりと背中はまだ捉えてっからなぁっ?」


「え、ぜんぜん体力あるじゃないですかっ!

 ――待ちませんよーっ。ちゃんと僕はここに居ますからねー!先輩の手で捕まえてみてくださいっ」




 

―――結局、日が暮れる前に門へとたどり着いたが……どっちも息が絶え絶えで、守衛に余計な心配をかける結果に終わった。


 なお、串焼きは無事に買えたのでよしとする。





―――◇◆◇―――


【トードフィン】

分類:魚類系魔物(中型)

危険度:☆☆☆

[主な特徴]

カエルに背鰭と尾鰭が付いた見た目の魚類系魔物。普段は川や湖に生息しているため主食は魚。水魔法を用いて、空気中の水分を体表に取り込み陸地での行動を可能にする。そのため、湿度の高い場所でしか活動できない。

また、体液に麻痺毒の成分が含まれるため、長い舌による素早い攻撃には注意が必要。

なお、水中では麻痺毒を含む唾液が水に流されるため、捕食のために得た進化ではないと考えられている。

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