討伐依頼:ラカスブルーメ


 気を取り直して翌日。



「まだまだ稼ぐぞぉっ!えい、えい、おー!」


「え、えいえい、おー…?」



 討伐依頼のいいところは、依頼を複数受けることで一日にそこそこまとまった金額を稼げる点だな。常設依頼は、売れる素材をまとめて持ち帰らなきゃ金になんないんで、荷物の限界がすぐにきちまう。俺が採集しかやってないのも、ここに理由があったりする。持ち帰れる量がどうしても、な。


 だが、討伐依頼は倒した魔物の証明部位の提出で達成の成否を判別されるんで、荷が嵩張らない。大型魔物の証明部位とかは別だが。



「今日受けた依頼は……枯れるまで奇声あげて走り回る花に、年がら年中どこにでもいる緑の小鬼。でっかいカエルもどきの三点セットだな」


「えっと、ラカスブルーメとゴブリンと……最後はトードフィンのことですか?たしかに、言われてみればカエルもどき……でも、普通のカエルの方が可愛いです」


「うっそだぁ。どっちも気持ち悪くねぇか?

 まっ、ゴブリン以外は梅雨時の残党処理って感じだな。昨日倒してきたやつも、梅雨の時期に活性化した魔物だったしよ」


「むぅ、かわいいのに……どれも依頼書に記載された群れの位置が近いですし、今日中に全部終わりそうですね。さすがです、先輩!」


「ふふーん。常設や納品とは違って、討伐依頼は場所をある程度指定してくれてるんだぜ?有効に活用しないとな」


「え、えっと……依頼書の競争率が高いところを、3つも取れたのがすごいという意味で……」


「ふ、ふふーん!俺が進む道はモーセのように人の波が割れていくのさ……おかげさまでゆっくりと依頼書を吟味できたぜ?」


「あっ……ご、ごめんなさい」



 俺が普段、掲示板に貼られた依頼書から受諾しない理由がこれなんだよな。なんか、罪悪感を感じる。

 金ないときは、躊躇いもなく解禁する程度のもんだけどよ。誰しも、魚の小骨が喉に刺さってたら気になるだろ?




「お、うっせえ花の群れが見えてきたし、聞こえてきたな。んー、マンドラゴラよりはうるさくないが……騒々しいとか騒がしいって言葉が似合うな。

 せめて、百合みたいに茎が長い見た目してんだから走るなよ!優雅に歩け」


「そ、そういう魔物なんですから……でも、なんで叫びながら走ってるんでしょう?」


「あー――あれは繁殖のための行動だそうだぞ?叫ぶのは一種の風魔法らしくてな。ああやって走り回りながら、風魔法で種子を広範囲に飛ばしてるんだそうだ」


「そうだったんですか?!生命の神秘ですね…」


「あんな騒がしいのを神秘って認めたくないがな。もうちょっと厳かなやつがいいだろ。

 んじゃ、さっさと倒すぞー。球根が証明部位なんで、そこはあんまし壊さないようにな」


「わかりました!」

 


 まぁ、こいつらの危険度は星2つだし問題ないだろ。せいぜい音の圧で耳がやられないように気を付けるだけだな。

 種も小さくて軽いんで、当たっても大したことないしよ。さすがに目に入ればちょっとは痛いが……失明レベルじゃない。


 しっかし、膝丈程度しかない花の茎部分を狙って切り続けるのはちと腰にくるんだよなぁ……でも、こいつらを放置しとくと後が面倒なことになる。

 ラカスブルーメちゃんを餌にする魔物がいるのよ。普段は標高の高いところにいるんだが……ラカスブルーメが繁殖しすぎるとここまで降りてくるんだわ。


 そいつの討伐のまぁ面倒くさいこと……辺境伯お抱えの騎士団と合同で緊急の討伐依頼が組まれるほどには厄介でね。



 なんで、こいつの討伐依頼の報酬は危険度の低さにしちゃ割高なのよ。梅雨明けの受け得な依頼って訳だな。

 

 ――ただ……



「くっそぅ……武器選択ミスった!去年一昨年と鉈で行ったとき、後の魔物の討伐に苦労したんで今年は大鎌携えてきたんたがな……こいつらちっこいくせに走り回るから、大鎌じゃ刃が当たらん!リオ、まかせた!」


「えっ!……僕も短剣なんでちょっと大変なんですが……」


「大丈夫だ、リオも相応にちっこいだろ?俺は小さいのも良いと思ってるんだ。こういう、タッパがあると困る場面で頼れるからな」


「んえっ!……よ、よーし!僕、がんばってみます!終わったら…頭撫でてくださいねっ」


「ん?いいぜー!おまけに屋台で串焼きの一つくらい奢ってやるぞ――って、めっちゃ群れに突っ込んでやがる……後2件依頼を受けてることを忘れてなきゃいいんだがな。


 まぁ、期限は受注から3日あるんで、明日にずれてもいいっちゃいいけどよ?」




―――◇◆◇―――


【ラカスブルーメ】

分類:植物系魔物(小型)

危険度:☆☆

[主な特徴]

奇声を発しながら、根っこを巧みに使い地面を走り回る植物の魔物。風魔法を用いて、自身の種子を広範囲に飛ばし繁殖する。この時、魔法で発生した風が花茎を通ることで甲高い音が鳴る。音が小さく歩き始めた個体は、数日後には枯れている。

なお、一度走り始めた個体は再び地面に根を下ろすことができない。そのため、種子を全て飛ばし終えてもなお、枯れるまで奔走し続けている。


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