リオの憂鬱

“豊穣の灯り”メンバー

リオの視点です


―――◇◆◇―――



――カランカランと、来客を知らせる鈴の音が静かに響く。



「あっ、アレックスさんじゃないですか!ここに来ることもあるんですね~。いつも、ギルドの酒場で飲んでる姿しか見てないので、ちょっと意外です」


「お、おう……あー、あ?もしかしてリオ……か?!」


「そうですよ!もう、他に誰がいるんですか?レオンさんと一緒な髪の色してるのは僕以外にいませんよ~」


「あ、いや、まぁな?たしかにそうだが……酔ってんのか、いつもと雰囲気が違うしよ?それにお前さんの格好……がな?」


「えー?ぜーんぜん酔ってなんかないですよ?まだまだ飲めますもん」


「自覚ないのはちょいとこわいなぁ……まぁ、酒で失敗するのも経験だが。

 というか、ここの店“静世亭せいせいてい”をレオンのやつに教えたのは俺だぞ?あいつ下戸のくせに、静かに美味い酒が飲みたいとか言うからよ」


「そうだったんですね!先輩って下戸だったんだぁ……ただ弱いだけじゃなかったんですね……んふ、いいこと聞いちゃいました」



 いっつも先輩ってば、水か紅茶しか飲まないんですもん。僕と飲みに行くときも、お酒頼まないですし……ずっと水と一緒におつまみ食べてるんですよ?それでいて先輩は、


『水と合うんだなぁこれが。最先端のツウはこの食べ方なんだぜ?』


とか訳の分からないこと言ってますし。

 

 けど、ここのお店のお酒はいくらでも飲めちゃいますね。先輩が、飲むときは静世亭だって言っていたのにも納得です。

 特にこの……あれ?もうなくなっちゃいました。



「すいません。かしすおれんじ?をもう一杯お願いします。……えへへ、甘いのにさっぱりしていて、とても飲みやすいんです。美味しいですよね、このお酒」


「あー、それなぁ……レオンが自分用に考えたというか、こういう酒しか飲めなかったというか……まぁ、味覚も似てるんだな、お前さんらは」


「えっ!このお酒先輩が考案したんですか?……レオンさんってほんとに何でもできるんですね」


「さすがに、酒精の割合とか使う材料の研究とかはここの店主がやってるけどな。味の方向性とか、作り方みたいなのはレオン案だわ。

 しっかし、まさかリオが1人飲んでるとこに邪魔しちまうとはな。あれだったら俺、別の店に行くぞ?」


「気にしなくて大丈夫ですよ~!むしろ話し相手ができて嬉しいです。さっきまで店主さんに愚痴を聞いてもらってたんですよ?」


「ぐ、愚痴かぁ……もしかして、豊穣の灯り関連か?」


「そうなんですよー!もう、アリーさんってば僕を着せかえ人形にするんですっ。あ、別にいろんな服を着せられることが嫌なわけじゃないんですけど…」


「まぁ、あそこのパーティーが着せてくる服に粗末なもんは無さそうだしな」


「そうなんです!どれも高そうな服ばっかりで、こっちが気後れしちゃいます。それで、最初の頃はアリーさん、『弟ができたみたいでうれしい』と言って親しく接してくれてたのですが……」


「あー。あっこは女所帯だからなぁ……そりゃお前さんのようなちっこくて可愛らしい少年が入れば、そうもなるか……?」


「どうなんでしょう。ただ、何かにつけて僕を甘やかしてきまして。さすがに、金銭的な価値の高そうな贈り物は断ってるんですが……その代わり頭撫でたり、ぎゅーしたりが増えちゃったんですよね……」



 はじめは、どこで使えばいいかわからない綺麗な小物類を贈られたんでした……最近は服と本が渡されるんですけど。

 服は可愛らしい感じのばっかりで、本は……ちょっとえっちな描写のある小説でしたし。物語としては切なくも純愛もので、幸せな終わり方のために読みごたえは良いんですけど………うん、どうしてこのようなものを僕に…?


 贈り物を強く断ろうとしたときに、貢がせて!と瞳孔開きながら迫って来たのは、ちょっと怖かったです。



「おー!でもまぁ、綺麗な姉ちゃんからそういうのされるのは、年頃の男としてはいろいろと辛いわなぁ……」


「?……それで僕の反応が面白いのか、最近は可愛いとか…その、妹扱い……されるんですよね…」


「あちゃぁ……そこで今のお前さんのカッコに繋がるわけかぁ……まぁ、でもだな。綺麗どころの女所帯のパーティーに一人男が入ったら、ガヤがかなりうるさくなるんだわ。だが、今のところそんな話は聞こえないだろ?」


「そうなんですか?たしかに、聞こえてはないですね……むしろ、所属することになったとき、いろんな人から応援されてたように思うのですが……」


「あー、うん。つまり、なんだ……ここの古参じゃない冒険者に、正しくリオを男だと認識してる奴は少ないかもしれんな……」


「えっ………――僕の成長期はこれからですので!きっと声変わりして、アレックスさんのような渋くて低い感じになるんです!」


「あー、うん。がんばれ……」



 せめて、せめて先輩と肩を並べられるくらいには欲しいですっ!あっ、でも…小さい方が後輩っぽさは感じられますよね……。



「むー……レオンさんは大きい僕と今くらいの僕だと、どっちが好ましいと思うのでしょうか…?」


「へぁっ?いや、それは……」


「そもそもです!レオンさんは最近僕に冷たくしすぎですっ。もう僕のことなんてどうでもいいんでしょうか……」


「さすがにそんなこ……」


「でもでもっ、昇格祝いで短剣をくれたんです!見てくださいよ、これっ。装飾のない武骨なものですが、実用性を考慮してくれたんだなって思いませんか!」


「そうだなぁ、長く使え……」


「でも、その後すぐに帰っちゃいまして―――」





――夜が更けるまでアレックスは、酔ったリオの愚痴に付き合わされることとなった。

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