地に足ついたヒヨコたち 後編
「ふ、ふぅ……おっさん、もう限界……バタッ」
「あらまぁ……お疲れ様です、レオン様。毎回遊んでくださって、ありがとうございます」
「レオンさん、これどうぞ!ただの水ですが…」
「ん。ありがとな、イオ――ぷはぁ、水が五臓六腑に染み渡るぜ……しっかしまぁ、子供たちはまだまだ元気そうだねぇ。おっさんにはアレについていく体力がもうないよ……トホホ」
「本当にお疲れ様です。ふふ、あの子達も楽しくって一時的に気分が浮わついてるだけですよ。たぶん、レオンさんが帰った後、すぐに疲れて寝ちゃうと思います。
それに、みんなの元気さに半日も付き合えるんですから、レオンさんはまだまだ若いですよ?」
「そうかい、そうかい。ま、楽しんでくれたなら何よりだわな」
若いといってくれるのは嬉しいが……こちとらまだ現役冒険者なのよ。その体力を半日で尽きさせる子供たちの元気さってのは、んー!なかなか恐ろしいぜ。
「結局、日もすっかり暮れちまってるみたいだし。もう帰るわ」
「はい。こんな遅くまでありがとうございます。この辺りは暗いので、帰り道は十分気を付けてくださいね?」
「おいおい、別に酔っぱらってる訳じゃねぇから大丈夫だぜ?シスターみたいな綺麗な女性でもねぇんだから、夜道に気を付ける要素なんてどこにもねぇよ」
「でも、レオンさんって変なところで抜けてるじゃないですか……石とかに躓いて転んだりしそうですよね」
「ふふっ、簡単に想像できてしまいました。たしかにちょっと、おっちょこちょいなのがレオン様ですね。そんなところも可愛らしいのですが」
「なんだとぉ?俺にはドジっ子属性も天然属性もついてないやいっ!確かに何もないところで転けることはたまにあるが……俺は認めんっ、認めんぞぉ!」
「あはは、石に躓く以前の問題なんですね……」
「うるっせ――次がいつになるか分からんが……冬前に一回は寄るわ。そんときはまたよろしくな、シスター」
「いえいえ、こちらの方がお世話になってるくらいですよ。ぜひまた来て下さいね。みんなも待ってますので」
「次来るときには自分はもういないと思うので……皆をよろしくお願いします」
「よろしくされずとも、ここにいる子は皆しっかりしてんだから心配いらねぇよ。長年一緒に過ごしてきた家族なんだから、そんくらい知ってんだろ?
ひとまず、イオは薬師としての仕事に専念しやがれってんだ。俺はまだまだ冒険者やるつもりだからな。いつかお前さんの店にお世話になるかもしれねぇな?」
「っ!……はいっ、ありがとうございます!」
あーあー、何でそんなことで泣くのかねぇ……一生の別れでもないし、なんなら同じ街にいるからいつでも会えるだろうが。年取ると涙腺緩むから、感動の涙はあまり見たくないんだわ。
「んー、後は隅っこで泣きつかれて寝てるあいつ……色々と世話してやってくれや」
「もちろんです……ごめんなさい。本当なら私が叱って前を向いていけるようにしなければ……いけなかったのですが…」
「いい、いい。気にすんな。シスターはここの子らにとって甘えられる存在でないとな。それに、シスターの説教はそんなに迫力無さそうだし」
「そ、そんなことはないんじゃないかなぁ……?」
あ、もしかして俺。地雷踏んだのか?……よし、ここは知らんぷりをして、水でも飲んでよう。こういうときは、触らぬ何とかに祟りなしって言うもんな。
「――イオ君?何か言いました?」
「ひぃっ…なんでもないですごめんなさいっ!
――ライリーの調きょ…んんっ、お世話は自分達に任せてください!あと一年しか彼に猶予がないので、どこまで学べるかは彼次第にはなりますが――立派なレオンさん信者に仕立ててみせますので!」
「ブフッ……な、なに変なこと言ってんだっ?!ビックリしすぎて水吹いちまっただろうが!
なんだよ?レオン信者って。きっしょい宗教を勝手に作るんじゃないっ、まったくもう!本格的に教会連中から目をつけられるのは嫌だぞ、俺は」
ってかさっきこいつ、調教っていいかけてなかったか?まぁ確かに、みんながみんな俺に懐くのはちょっとおかしいかなとは思ってたよ?人間生きてりゃ絶対に嫌いなタイプの人ってでてくるからな。
え、なに?洗脳まがいなことしてたの?こいつら……いや、ふつうに怖いわ!
「あはは!さすがに冗談ですって。でも、皆がレオンさんを慕う気持ちは本物ですよ?
文字の読み書きに、敬語や礼儀作法。これだけでそれなりの仕事に就けるのに、各分野の職業について詳細に記した本まで置いてくれて…。
おかげで自分達の将来の選択肢がかなり広くなったんですよ?きっとこんな環境で過ごせるのは、お金持ちの家以外にありません」
「そうですね。ここは教会と国が後ろにあるので、泥棒さんも入らないですし。こんなにも学ぶことに恵まれた場所は、有権者の子供たちが通う学校以外にないと思いますよ?」
うわぁ……めっちゃ尊敬の眼差しを向けられてるんだが。こちとら褒められ慣れてないもんで、背中が超ムズムズするぜ。
それに、俺からするとまるっきり純粋な善意って訳じゃないからなぁ…うーん、なんとも。本ってインベントリにスタックできないんで、嵩張るんだよな……枠潰されるのは勘弁だぜ。
「ま、まぁ、有効に使ってくれてるようで何よりだ。んじゃ、またな!」
「はいっ、またいつか!」
「ええ、また会いに来てくださいね」
『またね~!!』
自分が不利な状況にあるときは、即逃げる。これかなり大事よ。
って思ったよりも外暗いなぁ、おい。夏入りしたからもうちょっと明るいもんだと思ってたが……まぁ、まだ梅雨が明けたばっかだもんな。
「梅雨明け特有の空に雲がほとんどない快晴っ!
そういや、この世界でも様々な星が見えるんだよなぁ。知ってる星座が一つも見当たらねぇや!当たり前か。
それでも……いやぁ、綺麗な夜空だァっと、あヤベっ――ぶへえっ!」
い…いってぇ……あっ、鼻血まで出てきやがった。くそぉ、誰だよこんなところに―――ってなんもねぇし!
え?俺、自分の足に蹴躓いて転んだの?うーわ、ダッサっ!自分の足に引っ掛かるとか、ダッサいわぁ…。
いや、俺…かっこわる……泣きたくなってきたんだが……年取ると涙腺緩くなるんだよ、マジで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます