地に足ついたヒヨコたち 中編


「おーい!みんなー!今日はレオンさんが来てくれたよー!」


 あーあー、イオのやつあんなに張り切ってまぁ……テンションが伝播して、一気に子供たちがこっち目掛けて駆けて来てるじゃん……そんなに群がると転んだとき危ないだろうが。


 え、なになに?刺繍を見てほしいって?おー、可愛くできてるじゃん。

 あ?剣の練習だ?そんなちっこい体格じゃなんもできないだろうが。まずはよく食べてよく寝る。んでもって体力をつけな。

 え?本がどうしたって?あ?衛兵?狩り?―――



「ちょっと待ていっ、お前ら!何十人も一斉に話しかけるんじゃねぇっ!俺は聖徳太子じゃないんだぞ。あと、服を引っ張るな……握るな。伸びるし変なシワができるだろうが」



 よーしよし。だいぶ静かになってくれたな。言えばわかってくれるんだよ、言えばな……この年にしちゃ十分できた奴等だぜ。



「まず!俺は日が暮れるまではここにいる。だが、一人一人と対応してちゃあ、時間が足らないのはわかるな?……よし、偉いぞ。だからこそ、お前らには班を作ってほしいんだ。各個人のしたいこと、内容が近しいもの同士でな。そしたら、班ごとに俺が遊んでやる。


 さあっ!時間は有限だぞ。行動開始っ!」



 おー……相変わらず誘い待ちみたいな子が誰もいねえのはすごいな。みんながみんな、積極的に行動してやがる。こりゃ、班決めも思ったより時間かからなさそうだ。この隙にシスターと話しときたいんだが…。


 ここに派遣されるのは教会所属の人だが、児童養護施設なんでな。珍しく偏見がない……というよりか、ここで育った奴が教会に所属して派遣されている。

 まぁ、子供が捨てられる理由なんて古今東西変わらんわな。忌み子鬼の子は根っからの信者にとって荷が重いだろうさ。



「お久しぶりです、レオン様。変わらず子供たちから人気ですね、ふふっ」


「よっ、久しぶりだなシスター・フィオナ。人気っていうよりか……子供たちからしたら珍しいおもちゃなんだろうよ」


「そんなことないでしょう。みんな、自分の成果をお師匠様に褒めてほしいのですよ。私もそうでしたし」


「だぁれが、お師匠様だ。こんなにたくさんの面倒を見るなんて無理無理……あー、今回もこれ置いてくぜ?自書なんて原本だけありゃ充分なんでな」


「いつもありがとうございます。今年も子供たちが安定して職を持てているんです……助かります」


「俺はなんもしてねぇよ。何を成せるかなんてあいつらの頑張り次第だろ?」


「……ふふっ…レオン様はいつもそう言うんですから」


「うるっせ……んで、あの隅っこで俺や子供らに熱い視線を飛ばしてる奴は?前来たときにはいなかったと思うが、新しい子か?」


「ええ……梅雨真っ只中のときに、森の入り口近くで倒れていたところをアレックスさんが……隣から逃げてきたそうです。ライリーという名前で呼んでいます」



 なるほどな。たしかに梅雨時は人を撒くにはいい機会ではあるか。その分、森を越えるのが難しいんだが……五体満足で入り口まで抜けられたのは奇跡か、それとも誰かに守ってもらっていたか。

 ――ふむ、13才か。同年代の平均よりか体格はいい方だけど……ま、後者だろうな。ありふれた茶髪に茶目ってことは特に身分の高い家でもないだろうし。


 あ、目が合っちまった。



「おい!おっさん!てめえは冒険者なんだろ?」


「……おー、初めましてにしちゃ随分な態度だな?」


「はっ、初めましてはナメられねぇのが大事だって知らねえのかよ。そんなんだから一生銅級のままなんだろ!俺の父ちゃんは銀級も殺してんだぜ」



 なんだこいつ?初対面でメンチ切るっていつの時代の輩だよ。喧嘩を売りたいのか、お父さんを自慢したいんだか。せめて、言動に一貫性をもって話しかけてほしいんだが?


 それに銀級殺しねぇ……冒険者と敵対して殺しても問題ない立場。むしろ自慢できるってなるなら、お父さんは傭兵か兵士かのどっちかだろうな。隣国には冒険者ギルドの代わりに傭兵組合ってのがあると聞くし、傭兵の可能性が高そうではある。



「はぁ……で?お前さんは何が言いたいんだ?親父の自慢はわかったが、お前さんの功績じゃないだろ」


「ふんっ……俺はな、冒険者になって父ちゃんを嵌めた奴等を全員ぶっ殺すって決めてるんだ!」


「あっそ。じゃ、保証人見つけて勝手に頑張っとけ」


「…はぁっ?……てめえはここにいる奴等にいろいろ指導してんだろ?なら、俺にも冒険者としてのコツとか教えてくれよ!こいつらは勉強できても、冒険者について書かれた本がないんじゃ、俺はどうしようもないじゃんか!」



 まぁ、意図的に冒険者のノウハウを記した本は置いていかないからな。そりゃないだろうさ。

 というか、保証人うんぬんはまんまスルーかい。いや、そもそも冒険者ギルドのシステムを知らんのかこいつ。受付に聞けば懇切丁寧に教えてくれるんだがな…。

 


「あいにくと、お前さんの期待には答えられそうにないな。知っての通り、俺は銅級冒険者なんでね。それも十年以上昇格してないときた」


「ちっ……雑魚じゃんか」


「まあな……自分の食いぶちを稼ぐ手段もない奴はそんな俺よりも下になるが」


「なっ、てんめぇ!そんなんまだ成人してねぇんだから、仕方ねえだろうがっ。ここにいる奴等もバカにしてんのかよ!」


「おいおい、俺は誰とは言ってないぜ?……それに、ここにいる他の奴等は既に稼ぎ方ってのを理解してる。いったん冷静になって周りを見やがれってんだ」



 ほうら、班決めを中断してまでこいつを睨んでら。そりゃあ、ここにいる皆からしたら、こいつの言葉はさぞバカにされたように聞こえるだろうさ。

 きっと親に甘やかされて育ったんだろうな。もちろん、それが悪いことと言うつもりはないぞ?ただ、与えられる環境に慣れちまってんだろなって思うだけよ。



「それに、だ。お前さんの復讐相手が傭兵か兵士なのかはしらんが、それを理由に冒険者になるのはやめとけ」


「な、なんでだよ……」


「冒険者が緊急依頼で戦争の現場に出るのが銀級から。それも、信頼のあるパーティーやクランにしか重要な場所は任されねえ。理由は冒険者も一時的に軍の指揮下に入るからだ。


 さて、復讐したいって理由で明らかに単独行動を起こしそうな奴が採用されると思うか?

 そもそも、お前さんの意思についてきてくれる同士を見つけられるかもわからん。最低条件が銀級評価かつパーティーだぞ?」


「……クソがっ」


「はぁ、まず……だな?そんな自分の想いを易々と口にするな。お前さんの吐いた言葉が全部軽く聞こえるんだわ。それに、自分の不甲斐なさを言い訳で隠すな。


 お前さんの親がどうなったかなんて興味ないが……森ん中を逃げる途中で死んだなら、それは間違いなくお前さんの力不足も原因だろうが」


「なっ……!」



 図星…か。案の定、森を抜ける途中で魔物にやられたか。よくあるパターンだな。

 だが、銀級冒険者と同レベルなら梅雨時でも問題なく生き残れる場所だぞライリー。アレックスがいい例だ。


 ふぅ……残念ながら俺はお前さんの思うような、良識のあるできた大人じゃないんでね――容赦なく、現実ってのを突きつけるぞ?



「さっきお前さんが自慢してたよな。銀級冒険者をやれる実力があったんだろ?それでも魔物相手に逃げることもできず、遅れまで取ったんなら……多少天候の有無はあれどまぁ、足引っ張ったのはお前さんの存在だわな。

 結果そうなったのも、お前さんがまだ子供だったから仕方ないっちゃないが、な?」


「……と、父ちゃんをバカにするなっ!」


「おいおい、父ちゃんはバカにしてねぇよ。俺がバカにしてるのはお前さんだよ、ライリー。

 それに、効率よく隣国の奴をやりたいんなら兵士に志願しろってんだ。この街の軍のお仕事について書かれた本なら数冊あるだろうが。


 そもそもな?一冊でもここに置いてある本を手に取ったのか?ギルドに行って話を聞いたりしてきたのか?……おんぶにだっこしてくれた親はもうお前にはいないってことを自覚しやがれ。

 ここに来た時点で、もう自分の足で地面に立たなきゃいけねぇんだよアホが」



 なにも、隣国相手に復讐したいって想いを抱えた子供はお前さんだけじゃねえんだよ。そんな奴等の頑張りを見届けてきた俺からすると、こいつは甘ちゃんも甘ちゃんだ。

 それに、俺は絶対こいつらに冒険者への道は勧めないって決めている。こんなんロクな職業じゃねえぞ。



 …ったく、こんなんで泣くくらいなら、端から虚勢なんか張るんじゃねえよ。壁作られたら周りの子も接しにくいだろうが。



「……よし!俺が駄弁ってる間に班決めは終わったかー?」


『はーい!!』


「うっし!それじゃあ順番に見てやるから、一番早くに準備できたところから始めるぞ!さぁ、早いもん勝ちだ」



 おー、動き出しはどこも上々だ……って、刺繍組はもう準備できたのか?あー、手作りの鞄に一式用意してたのね。あい、わかった。なら一番目はここだな。んじゃ、さっそく見せてみな。前回渡したお手本の刺繍のポイントは―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る