同行者


 ギルドを出てから暫く。俺は順調に高級住宅地もとい、貴族街へと足を運んでいる。もうすぐ太陽が真上にくることから、どれだけ街が大きいかが解るというもの。


 こりゃ、ケチらずに馬車を利用すれば良かったか?だがなぁ、貴族街に向かうやつって一般的な馬車よりも数倍高いんだ。


 この世界はいわゆる金属貨幣が用いられている。よくある、金貨・銀貨・銅貨だな。貨幣の発行は魔導具を用いて作られるそうだ。この魔導具の起動は王族にしかできないようで、貨幣の信頼性はまぁ高い。この国の王制が続く限りは。


 ちなみに俺が払ったペナルティ代は金貨3枚。銅級の平均的な月収が銀貨60枚程度だとすると、銀貨100枚で金貨となるこの罰金の重さが伝わるはずだ。



「ふぅ……ようやく貴族街の門が見えてきた」



 相変わらず大きな門だこと。この辺まで来ると、あたり一帯のお店もそこそこ立派な建物になってくる。庶民の中でも富裕層は存在するからな。



「あれ…?もしかして先輩じゃないですか?!」



 だからこそ、この辺には鉄や石のような生活がかつかつなやつらはいないはずなんだが……気のせいか。


 冒険者連中に俺が貴族街に屋敷を持っていることはまだ――一人を除いてバレていない……バレてないんだ!



「って、いやいや…スルーしないで下さいよぉ!そんな髪色と目の色してるのって、少なくともこの街には先輩しかいないんですからね?」


「……はぁ…髪色に関してはリオもそんなに変わらんだろう…」


「えへへ、そうでした!お揃いですもんね、僕たち」



 丁度今から5年前か。転がり込むようにして冒険者ギルドで登録していった少年のリオ。当時は12歳と登録可能な年齢ではあったが、保護者も身元を保証してくれる人もいなかった。


 こうした場合はギルド側が平均収入と信頼性を鑑みて、3年の間保証人となってくれる人物を推薦する。長期の護衛依頼とすると理解しやすいか。

 更には、保証人となっている期間で対象の子の冒険者ランクを幾つか上げられれば、依頼達成時の成功報酬は大きくなる。


 その他にも受けるだけで様々な恩恵があるんだが……まぁ、誰も受けなかったんだよな。ってことで、しゃーなしで銅級の俺にまでお鉢が回ってきた。


 本来冒険者に明確な先輩も後輩もないんだが、こいつが俺の事を先輩と呼ぶのもそれが理由だったりする。

 まー、こいつ……最初はかなり反抗的な態度しかとらなくってな。手の焼ける子供だったよほんと。



「んーで、何でお前さんがこんなところにいるんだ?鉄級の稼ぎで買えるものなんてこの辺にはないぞ」


「えっと…それはそうなんですけど……ほら!今日が僕を拾ってくれた日、じゃないですか。だから、お世話になったお礼として何か見つかれば、なぁ…と」


「ばーか。お前さんがわざわざそんなことする必要ねぇよ。そもそもあれはギルドからの依頼だ。ちゃんと2年前に報酬は貰ってる」


「で、でも……僕にとっては大事な記念日なんです――あはは、ごめんなさい。迷惑、でしたよね」


「……あぁ、いい迷惑だな」


「…ですよね………」


「どこに少ない身銭切らせてもらったプレゼントで喜べる保護者がいるんだか……あー、そういうのは俺よりも稼いでからにしろよな」


「………えっ?」


「記念日だって言うなら、俺がリオに何かしてやらねぇと、だな。さ、着いてこい。すごいものを体験させてやる」



 ここでこの時間までうろうろしてたってことは、通常の依頼や緊急依頼も受けてないんだろうな。1日贈り物探しで潰すつもりだったのかよこいつ。



「…はいっ!すっごく楽しみです!ありがとうございますっ…」



 あーあー、スッゴい目をキラキラさせてやがる。比喩でもなく実際に輝かせてしまったのはちと反省か。

 しっかし、今日に限ってこいつと……しかも貴族街に行く途中で会うなんて、なぁ……去年は特に何もなかったはずなんだが。


 まぁ、俺だけで入るにはかなり広い風呂場だ。1人くらい同行者が増えてもいいだろう。

 


 ………食事の方も少し多めに用意してもらうか。俺もこの世界の住民と比べれば細い体つきとはいえ、こいつはそもそもが小さい。日本人の平均身長な俺に対して目測10センチは軽く下回ってるぞ。

 シンプルに栄養不足と……幼少期の諸々と現状の環境が尾を引いてるな。はぁ、どうやら世界が違っても差別っていうのはあるらしい。

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