緊急依頼


 冒険者ギルドの中へ入る。が、そんなに人はいないようだ。依頼は朝イチに張り出されるためピークが過ぎている……とはいえ、ちょいと今日は少ないな。

 ひとまず、昨日の事を聞きたいので受付に行くか。



「お疲れ様です、レオンさん。今日も常設依頼ですか?」


「あー、いや。今日は休みにするよ。それよりもちょっと尋ねたいことがあるんだが……昨日の件はどうなった?」


「はい。レオンさんが帰られた後、すぐに緊急性の高いものとして銀級シルバーの方を中心に調査を依頼しました」


「銀級を中心ね……」



 オーク単体で星3つの危険度がある。そいつらが徒党を組んでいる可能性が高いとなれば……まぁ、銅級だけじゃちょっと不安か。


 だが、それにしては今もなお銅のやつらを全然見かけない。鉄や石の子らは仕事でいっぱいいっぱいだから仕方ないとしてもだ。

 辺りを軽く見回しても、俺含めて3人。いつもはこの時間帯でも5倍は軽くいたはずだ。こりゃ、調査でなにか見つかったか?


 

「レオンさんの懸念通り、オークの上位種が統率する集落が発見されました」


「上位種にオークの集落、か……どうりでアレックスのやつらもいないはずだ。だが、銅級の冒険者にも声がかけられたのか?」


「はい。どうやらゴブリンの群れとも共存しているようです」

 

 

 ゴブリンねぇ。こいつもよくあるファンタジー物に出てくる奴って認識で概ね大丈夫だ。危険度は単体で星1つ。ニートな生活を送ってなければ基本的には力負けしないくらいに弱いが、数が脅威となる魔物だ。


 こりゃ、討伐の緊急依頼でも出されたかね。



「あー、もしかして石や鉄の子らにも収集がかかったか」


「そうですね。ただ、銅級や銀級とは異なり自由参加ですが」


「その分、通常報酬にプラスして貢献度が加算されるってか」



 受付嬢はなにも言わないが、苦笑してるってことはまぁ、その通りか。



「というわけで、銅級のレオンさんにも参加してもらいたいわけですが……」


「あー、今回もパスでよろしく」


「はぁ……ですよね。再三申しますが、緊急依頼の収集を拒否される場合ペナルティがありますがよろしいのですね?」



 緊急依頼には内容の危険度によるが参加に強制力がある。この時、参加を拒否することでペナルティが発生する。これは銅級からの規約なんだがな。

 内容は基本的には罰金だけでいい。が、もちろん評価は下がるし、次のランクをあげるのに必要な貢献度にも影響がある。


 この貢献度に関してはギルド側しか把握できないものなので、本当にそんなものがあるのか確たる証拠はないのだが。ただ、まぁ……聞いた話によれば、貢献度制度がギルド職員による冒険者の依怙贔屓を防ぐために一役かっているそうだ。


 おそらく魔導具か何かで正確な数字として算出されてるんだろうな。怪しいのはギルドに所属して受け取れるこのドッグタグか。王国全土で使用可能かつ身分証にもなってるしな、これ。再発行にも金と時間がそこそこかかる代物だし。



「あいよ。いつも通り罰金も定額持ってきている」


「……用意のいいことですね。はぁ、こんなことするのはあなたぐらいですからね?」


「ん?他にもいるだろ……ほら、採取専門とか護衛だけとかの冒険者」


「金級や銀級ならまだしも……さすがに銅級で十年近くも緊急依頼を断り続ける冒険者はあなた以外に報告がありませんね」


「うぐっ……ま、まぁ、いつもの事なんでそこは勘弁してくれ。あいにくと俺は戦闘畑の冒険者じゃないんだ」


「……つい先日、一人でオークを三体も倒す人が戦闘苦手なんて言い訳。通じると思いますか?いつもの事なのでいいですけど。


――確かに、レオンさんより規定の罰則金を受けとりました。今回の緊急依頼に不参加として記録させていただきます」


「ん、毎度悪いね」


「…悪いと思うなら、他の依頼で貢献してください。今日は休みと仰っているので、明日からで大丈夫ですが」


 

 最後の一言に軽く手をひらひらさせながらギルドを発つ。気がかりも無くなったことだし、今日は心に余裕をもって風呂に入れそうだ。

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