お風呂は命の洗濯だ


 窓から射し込む陽の光で目が覚める。いまやこれが、こっちに来てからの習慣となっている。


 まぁ、魔法がある世界とはいえ元いた世界のような科学技術は発展していないからな。当然アラームつきの目覚まし時計なんかない。いや、時計そのものはあるっぽいが……高位の貴族が買うようなもので、俺には縁亡きものとなっている。ちなみに俺は魔法が使えない――無念っ!



「さて、今日は何しようかな」



 昨日は一週間ぶりに魔物と戦ったわけで。寝る前に、体を濡れタオルで念入りに拭きはしたが……ここは、お風呂に入りたいところだな。



「だがなぁ……わざわざ1日潰すのも勿体ねぇんだよな…」



 俺が拠点としているこの街はそこそこな規模がある。というのも、辺境伯が治めているように、ここは国境線沿いの街に当たるからだ。

 先日入っていた森は山の裾の一部で、こいつを挟んだ向こう側は別の国が治める領域となる。

 んでもって、そこの国とはしょっちゅう小競り合いが起こっている。あいにくと、山によって進軍が困難なために、この街が攻められた事はないがな。


 なので、この街は他の国境線沿いの街への補給線を一手に担っている。つまり、重要な中継地点として栄えている街がゆえに規模が大きいってことだな。

 そのためか、いろんな商人がこの街にやってくるしな。おかげで、品揃えが辺境の地にしてはかなり豊富と言えるだろう。

 今もなお、宿や店がそこかしこに建てられて、街全体が賑わっている。



「……しゃーない、風呂のためなら行くしかないっ」



 そんな要衝の地であるからこそ、辺境伯ご本人がこの街に暮らしている。これが国境沿いの要となる街でなければ、実地での統治は代理人に任せて、お貴族様は王都で日々を過ごしていたんだろうな。


 そんな辺境伯が住んでいらっしゃるお屋敷の周囲はちょっとした高級住宅地が形成されている。ご丁寧なことに門で仕切って、あちら側とこちら側での境界線が引かれてるって訳だ。


 そんでもって、風呂なんてものはこの世界ではかなりの贅沢な設備だ。何せ、科学技術の発展してない時代だぜ。あるのは魔法。つまるところ排水設備やお湯がでるのもすべて魔法を用いて行われる。

 まぁ、よくある魔導具ってやつなんだが……この世界、どうやら魔法を使えるのは貴族の血を引く者だけらしい。


 魔導具の制作や魔法を使える人は少数。この事実を知ったときは愕然としたなぁ。どうりで魔法の価値が高いわけだと納得もしたが。


 じゃあ、なぜ魔法の使えない俺が風呂に入れるのか疑問が生じるが……不承ながら持ってるんだよな、高級住宅地に一件。


 俺、ふっつうのブロンズ冒険者で稼ぎもほどほどなんだけどなぁ。身の丈にあってないし、権力とかもろもろめんどくさいのには触れたくないんだが……貰えるものは貰っとくというか、貴族相手に庶民がどうやって断れと。今のところ干渉してこないから気持ち楽にはいられるが。



「はぁ……昨日は思わぬ稼ぎもあったしな。今日は休みにするか」



 軽く身支度をして、宿をでる。ここは安い分、食事が夜にしか出ない。朝飯は適当に屋台で買うとしよう。


 

 っとその前に冒険者ギルドに顔出してから…だな。昨日の件がどうなったか、少し気になる。

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