1日目(上)
柔らかい日差しがさし、冬にしては暖かな昼下がり。わたしは電車に揺られていた。
今日から少し離れたところでひとり暮らしをしている
(正直、まだいまいち分かってないけど…咲都のこと嫌いではないもんなぁ…むしろ好きだし)
そこまで考えて昨日言われたことを思い出し、恥ずかしさで顔が赤くなる。
(ででででも恋愛感情ではない…と思うけどな…)
何を隠そうわたしと咲都は生まれた時から一緒にいるのだ、ただの親友でくくれるほどの仲ではない。
あれやこれや考えているうちに咲都の家の最寄り駅についたので急いで降りる。
(しかし、この類のなんか大切な出来事を忘れてる気がするんだよね…?)
ふとそう思ったが駅を出る頃には忘れてしまった。
✧ ✧ ✧
咲都の住むアパートはかなりの市街地にあり、新築できれいと評判の物件だ。
「最後にこの部屋に来たの、いつだったけ…?」
ぽつりとそう呟く。もちろん聞いている人もいなければ返事もない。
事前に咲都からあずかった合鍵を差し込みまわす。カチャリといい鍵があいたのを確認し、ドアを開けた。
咲都は今日バイトがあるらしく夕方までいないと聞いている。今は昼間、当然家の中に人の気配はない。
わたしは靴を脱ぎ部屋に入った。
久々に来る咲都の部屋はなんだか懐かしく、何故か安心感を感じた。
まず手洗いうがいを済ませ、リビングに向かう。この部屋に泊まったことがあるので間取りは覚えている。
リビングに入ると、前来た時と変わらない───いや、少し散らかってるな。片付けるように言っとこ。
まぁすこし…物が散乱しているが、特に変わっているところはない。
そういえば着いたらLINEして、って言われていたことを思い出し、「着いたよ〜、バイトいつ頃終わりそう?」とだけ送信しアプリを閉じる。
返信は案外すぐにきた。OK!と言うかわいい熊のスタンプと共に、
『バイト、多分5時くらいに終わると思う』
『好きにしてていいよ!』
と言う内容が書いてあった。またこの熊のスタンプ使ってる。咲都、熊大好きだもんなぁと思いながらとりあえずコタツをつけてもぐりこむ。時計を見ると、咲都が帰るまであと3時間程度ある。
「あったかいな…寝ちゃいそう」と、うとうとしながら呟いて、そのうちすうすうと寝息をたてて寝てしまった。
✡ ✡ ✡
「ただいま!
そう言うが、返事はなく不思議に思う。
花奈、着いたってLINE来たしいるはずなんだけどな…?
と思いつつリビングへ。すると…
「わ、爆睡してんじゃん」
夕日がさしこむそこにはコタツで寝ている花奈の姿があった。咲都が近づいても起きる気配は無いらしく寝息をたてている。
咲都はそれをじっと見つめた後、一言かわいい、とつぶやいた。
そしてカメラアプリを起動し、1枚、いや2枚花奈の寝顔を撮る。そしてアルバム内の「花奈」フォルダに入れ、厳重なロックをかけた。フォルダについては自分でもやばい自覚はあるが、この写真たちにいつも癒されているのだ。そうそう軽い気持ちで消せるものではない。
花奈を見た感じ、こんなに気持ちよさそうに寝てるしまだ起こさなくていいか。と思い、花奈の隣に座る。
(やっぱり花奈はあの時のこと忘れてるのかな)
無駄で意味の無いことというのは分かっている。だけど考えずにはいられないのだ。この考えを紛らわすかのように花奈の髪を撫でる。昔から変わらないサラサラの髪。これをできるのは私だけの特権だなんて傲慢かな、と苦笑した。
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