第15話 報告
「蒼山さん、状況はどうですか?」
颯太は蒼山さんに戦いの状況を尋ねた。
「どうやら魔物襲撃は沈静化したようです」
「そうですか、よかった」
颯太はホッと息を吐く。
これでようやく肩の荷が下りた気分だ。
「アカデミア第二班に対しても帰投命令が出ていますので、すぐに向かいましょう」
「あれ、避難者の誘導は?」
「はい、戦況が落ち着いたため応援が来るそうです」
「なるほど、了解です」
颯太たちは移動を開始した。
魔物襲撃の際にできた大きな穴は、後々の調査のために残されるらしい。
地中移動型魔物は作戦活動に重大な影響を与えるため、入念に調査を行うようだ。
確かに異世界においても経験のない個体であり、まさに不足の事態だったといえよう。
今回は本当に運が良かったとしか言えない。
「到着しました」
程なくして出発地点であった拠点へと辿り着いた。
「お疲れ様でした!」
拠点に到着するなり情報部の隊員たちが駆け寄ってくる。
「第二班の皆様、ご無事で何よりです」
「皆さんもお疲れさまでした」
颯太は笑顔で応える。
「ありがとうございます、ご活躍はこちらでも聞き及んでいますよ」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
颯太は苦笑した。
「さて、早速ですが蒼山様、如月様は、こちらへご同行をお願いします」
「了解です」
名指しで二人は指名され隊員の後へ続く。
「それではこちらへ」
そうして二人は前線司令部まで連れていかれた。
司令部には複数のモニターが設置されており、現場の状況がリアルタイムで音声や映像として流されていた。
まず異世界では見られなかった光景に、颯太は興味津々に辺りを見渡す。
「アカデミア第二班の方はこちらです」
そう案内された先は、先程いた場所とさほど変わらない簡素な部屋だった。
「ここで待機していてください」
「わかりました」
そう言われ、颯太と蒼山さんは椅子に腰掛ける。
「それでは報告してきますので、少し待っていて下さい」
そう言って隊員の方は部屋を出ていった。
残された二人の間には沈黙が流れる。
「失礼する!」
沈黙の中、一人の男性が勢いよく入ってきた。
「私は第七区防衛作戦の司令官を務める宮地だ」
「初めまして、アカデミア第二班の蒼山です」
「同じくアカデミア第二班の如月です」
颯太と蒼山さんは立ち上がり挨拶を交わす。
「君たちの活躍は聞き及んでいる、この度は災難だったな」
「お気遣い感謝します」
二人は頭を下げる。
「それでは早速だが、報告をお願いできるか?」
「はい、では私から報告をさせて頂きます」
蒼山さんはこれまでのことを報告し始めた。
第二班出発時点のことから救助活動のこと、そして地中型魔物が現れたことまで。
「――ということです」
「ふむ、地中移動型魔物、しかも大型か」
宮地司令官は腕を組んで考え込む。
「実はその大型魔物は他の地域でも出現していてな、どの部隊でも被害が出てしまっているのだ」
「他の場所でも……」
考えてみれば当たり前のことだった。
自分たちの場所にだけ特殊な魔物が現われるわけがない。
「とはいえ戦闘部隊への被害は少なく抑えられている、問題なのが非戦闘部隊の被害だ」
宮地司令官は難しい顔で言った。
「君たちを除いた支援部隊に関しては、甚大な被害を受けてしまった」
「え!?」
颯太は驚愕する。
「我々が把握しているだけでも、二十名以上が命を落とし、また負傷者も数十名に及ぶ見込みだ」
「そんな……」
颯太は言葉を失う。
確かに一歩間違えば自分たちもそうなっていた可能性はあった。
しかし予想以上の被害であったことは否めない。
その現場には颯太や蒼山さんのように対処できる人たちがいなかったということなのだろう。
「今回の件は、我々の想定不足と言わざるをえない。危険な目に合わせてしまい誠に申し訳ない」
そう言って宮地司令官は深々と頭を下げた。
「いえ、そんな……! 謝らないでください!」
颯太は慌てて言う。
「確かに想定外のことは多々ありましたが、それでも皆さんのお陰で被害を最小限に抑えることができました。これは紛れもない事実です」
「……ありがとう、そう言ってもらえるとありがたい」
想定されていたとはいえ、あそこまで強力な魔物が出現するなんて予想できない。
実際に異世界で戦ってきたユリシーズたちが不意をつかれるほどなのだから、もはや仕方がないと思う他ない。
今できることは今回の失敗を次に活かすことだ。
「しかしだ、君たちの部隊は被害がゼロ、蒼山の報告によると君が一人で対処したのだろう?」
宮地司令官は颯太の顔を見て言った。
「はい、そうです」
颯太はまっすぐ見つめ返し簡潔に答える。
「なるほど、本来君のような力を持つ者は前線に配属されるはずだったがどうやら能力検査の不手際のようだな、ただ今回はそれが功を奏したわけか」
宮地は複雑そうな表情で答える。
「改めて感謝を表する、ありがとう」
そう言って再び深く頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございました」
お互いにお辞儀をし合う。
「ふむ、それだけの力を持っておきながら決して驕らないその姿勢、蒼山よ、相変わらず奴は慧眼のようだな」
「はい、全くです」
「宜しく伝えておいてくれ」
「承知しました」
二人はとある人物について話しているようだった。
「それでは最後になるが、如月君、君に頼みたいことがある」
「頼みたいことですか?」
颯太は首を傾げる。
「うむ、今回の件を受けて緊急評議が開催されることとなったのだが、君には是非それに出席してもらいたい」
「え?」
突然の提案に颯太は目を丸くした。
「君は学生とは言え非常に優秀な人材だ、それに今回の件について色々と話をしたい者もいるだろう」
「まあ、特に問題はありませんが」
少し気後れするものの特に拒否する理由はなかった。
それにガイア同盟という組織における評議というものに純粋に興味が湧いた。
「そうか出席してくれるか! それは良かった、評議には各本部長や評議員、アルゴノーツの方々も出席する予定だ、是非楽しみにしておいてくれ」
「そ、そうですか、分かりました」
何だか分からない単語が並んだが、何やらそうそうたるメンツが集まる様子。
もしかしなくてもとんてもないところに参加することになってしまった。
「ああ、蒼山も管理本部から参加要請が来るだろうな」
「概ね予想しております……」
蒼山さんは疲れた様な表情で答えた。
「それでは報告感謝する、これからの予定については後日連絡する」
「了解しました」
「本日の任務ご苦労だった、本当にありがとう」
「お疲れさまでした」
こうして二人と司令官の会話は終了した。
「お疲れ様でした」
颯太は蒼山さんに言葉を掛ける。
「はい、お疲れ様でした」
「今日は色々とありましたね」
「そうですね、大変な一日でした」
颯太たちは二人で拠点内を歩いていく。
「お、如月!」
拠点内を歩いていると、遠くの方から明るい声が聞こえてきた。
見れば、とある男性がこちらに向かって手を振っている。
「あ、斎藤先輩!」
「おう、如月無事だったんだな」
「はい、そちらこそ」
前線へ支援任務に行っていたことから多少不安視していた先輩の元気そうな顔をして颯太は素直に嬉しい気持ちに包まれる。
「おう、当たり前だろ! 俺を誰だと思ってるんだ、ああ、ちなみに高杉も無事だぜ」
そう言って斎藤は近くにいた高杉に顔を向ける。
「おい斎藤、恥ずかしいから止めろ」
「は? 何だよ急に、後輩に武勇を誇って何が悪い」
「いや、お前なそれは相手が悪すぎる」
「は?」
斎藤は何を言っているのか分からないと首を傾げた。
「……って、蒼山先輩!? 何でここに?」
そして突然蒼山さんの顔を見て驚愕の声を上げる。
「今更かよ」
高杉は呆れたように呟いた。
「お疲れ様です、私は如月さんの補佐役として従事しています」
蒼山さんは冷静な口調でそう説明した。
「なっ、なるほど、うらやま……凄いじゃないか如月」
本音がダダ漏れの斎藤に颯太は苦笑する。
「なるほど、そういうことか。お前のいいたことが分かったぞ高杉」
そして何を納得したのか斎藤はそんなことを言った。
しかし高杉は再び大きく息を吐き口を開く。
「いや、それも多分違うぞ」
「え?」
斎藤は更にポカンとする。
高杉は呆れた顔で続けた。
「お前も聞いただろ、傘の勇者の話」
「ああ、もちろん、傘で巨大な魔物を一撃で倒したってやつだろ?」
「それ、如月な」
「ああ、そうか、そういうこと……か?」
斎藤はギギギと顔をこちらに向ける。
「まじで?」
「まあ、はい」
颯太は苦笑しながら頷いた。
「はぁーーーー!!!!!??」
その事実を知り、斎藤の絶叫は拠点内に木霊したのだった。
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