第50話 新たな仲間

 今日のピザは、とれたてのナスを使う。だって、いっぱい採れたからね。


 ピザ生地は、ジミーとヨシに作ってもらう。

 私は、ナスを切って炒める。ピザの上に生のまま置いても良いけど、焼く時間が長くなるからだ。

 先に、カポナータ風にナス、玉ねぎ、トマトを炒め煮しておく。これなら、生地の上にトマトソースを薄く塗って、具材をドバッと置き、チーズをパラパラ振って焼けば良いからね。


「ミク、きゅうりの一本漬けも作るんでしょ? 串はあるの?」

 サリーに言われて、串を入れている箱を見たけど、少ししかない。

「それなら、俺が作ってやるよ」

 ジミーは、赤ちゃんの時から木を削っていたからね。

 生地は捏ねてくれたから、そちらを頼む。


「ヨナとヨシは、レモネードを作るのを手伝って!」

 サリーもお小遣いを稼がないとね! お土産の布を買って、かなり使ったから。


 夕方になる前に旗を立てた。夏より、早く暗くなるからだ。

「おおい! 来たよ」

 リュミエールが一番乗りで、家が近いヘプトスが二番目、どんどんやってくる。

「ピザを焼いている間に、紹介するわね。私やサリーと同じバンズ村から来たヨナ、ヨシ、ジミーよ」

 またヘプトスが人見知りして、怖い顔になっている。

 でも、エレグレース、マリエール、ガリウスがやってきたので、緊張も解けたみたい。


「明日から学舎に行くの! 宜しくね」

 ああ、ヨナはしなやかな美人だから、ヘプトスとガリウスが頬を赤くして頷いている。ガリウスは、もう卒業してるじゃん!


「ヨシは何歳なの?」

 リュミエールは、マウントを取るのが好きだね。自分より幼い子が増えると喜んでいる。

「まだ二歳になっていないんだ」

 全員が驚いた。

「だから、姉の私が一緒に来たの。ミクやサリーも二歳でアルカディアに来たんでしょう」

 ヨナが、ヨシを庇う。

「まぁ、私が小さい子の面倒を見るよ。リュミエールと言うんだ! ヨシ、覚えておくんだよ」


 それから、皆が自己紹介をする。そして、ピザをたべたり、レモネードを飲んで楽しく話している。

 私とサリーは、忙しくしていたよ。ジミーが気がついて、手伝ってくれた。

「ヨシ、手伝いましょう!」

 ヨナがヨシと手伝いを始めると、何故かヘプトスとガリウスも手伝い出した。

 あらら、恋の予感? まぁ、アルカディアも結婚相手を探すのに困っているみたいだからね。


 途中でヨシをヨナが寝かしつけに行った。この日は、暗くなるまでピザ屋は大盛況だった。ナスのピザ、美味しいよね!


 次の日から、ヨナ、ジミー、ヨシと一緒に学舎に通う。

 ヨナとジミーは、一の巻からだったけど、ヨシは二の巻だ。

 武術は、ヨナとジミーは狩人のスキル持ちだから、優等生だ。

 ヨシは、私と一緒にメンター・マグスの指導を受ける。


「ミク、もっと素早く身をかわさないといけない!」

 わかっているけど、森の人エルフは凄く素早いのだ。前世だったら、私でもオリンピックに出られると思うよ!


「ヨシは……先ずは体力作りだな。屈伸運動をしてみよう」

 私には厳しいメンター・マグスだけど、ヨシには優しい。幼いのもあるけど、森の人エルフの運動神経がないのを一目で見極めたのだろう。


 初日は、皆疲れたみたい。ジミーは、学習が大変そうだ。

 ヨシは、やはり体力がないみたい。

「ヨシは、昼食後は昼寝をした方が良さそうだ」

 オリビィエ師匠は、薬師として体調管理にも詳しい。

「僕も手伝います」とヨシは、言うけど、誰が見ても体力の限界だ。

 ああ、ヨシを見ていると、前世の私を思い出す。他の子が何気なくできる事が、できなくて辛かった。


「ヨシ、少しずつやれば良いのよ。今、無理をしたら、病気になるかもしれないわ」

 ヨナも同じ気持ちなのか、二階の部屋に連れて行った。


「昼から、森に行きたい!」

 ジミーは、元気いっぱいだね。

「そうね! ちょっと奥まで行こうかしら!」

 えっ、ジミー! 知らないだろうけど、アリエル師匠はドラゴン・スレーヤーなんだよ。

「ちょっと奥って、川を越えるんじゃないのか? 子どもを連れて行くのは反対だ」

 オリビィエ師匠が止めてくれたけど、ジミーとヨナとサリーを連れて森にいっちゃった。


 私は、オリビィエ師匠とお留守番だ。ヨシが寝ているからね。

「明日は、魔法訓練の日だけど、皆は大丈夫でしょうか?」

 オリビィエ師匠は、薬草を整理していた手を止めて笑う。

「ミクは、自分の事だけ考えていれば良いのだよ。あの子達を引き受けたのは、私とアリエルなんだから。それに、光の魔法を頑張って取得しないといけないのでは?」

 そうだよね! なんとなく、気持ちが軽くなった。



 光の魔法を習得しに来たヨナは、四ヶ月でバンズ村に帰った。私もちゃんと習得したよ!

 その頃には、ヨシも光の魔法を少し使えるようになったからか、見違えるほど元気になって、森歩きで薬草採取ができるようになったから、安心したのかも。

 ジミーは、雪が降っていない昼からは、アリエル師匠とサリーと森に狩りに行く日々だ。


 私は、三歳になり、アルカディアの厳しい冬の中、火食い鳥カセウェアリーを飢えさせないで頑張った。だって、餌が少ないと攻撃的になるからね。

「雄を潰して食べたら楽なのに」

 オリビィエ師匠は、唐揚げが食べたいだけだと思うよ。


 春になり、バンズ村の子ども達が光の魔法を習得したと聞いた他の村からも、少しずつ子どもがアルカディアに来るようになった。

 殆どが若者小屋の子で、五歳以上は集会所に住んでいる。

 その中で、畜産に興味を持つ子がいて、ヴェルデは初弟子を待つことになった。

 顔は怖いけど、ちゃんと聞けば答えてくれたヴェルデだから、教えるのは上手いと思うよ。


 アルカディアは、狩人の村に光の魔法の使い方を教え、寿命を伸ばした。でも、アルカディアも得る物が多かった。

 子どもの数が減少し、紙漉き、織物、ガラス工芸、畜産などの技術が失われそうになっていたが、狩人の村の子どもが技術を習いたいと弟子になったのだ。


 それに、狩人の村ほどではないが、アルカディアも血縁関係が多い。狩人の村の森の人エルフとの交流で、何組かのカップルができた。

 

 リュミエールは、やっと一番幼い子ではなくなりそうだと、喜んでいる。私やサリーやジミーやヨナは、アルカディア生まれではないからね。

 ジミーを赤ちゃん扱いして、武力訓練で捩じ伏せられたのも影響しているのかも。


 冬の間、ジミーは、アリエル師匠に厳しく鍛えられていた。サリーが時々ヤキモチを焼くけどね。

 春になった頃、卵から孵ったばかりの若い竜がアルカディアの近くまで飛んできた。

 竜討伐に目のないアリエル師匠がジミーと森歩きしていたのは、竜にとって災難だったね。瞬殺されたみたい。

「俺は、村に帰るよ!」

 ジミーは、竜は手に余ると、アリエル師匠の勇姿を見て感じたのかな?

「もっと大きくなってから、竜に臨みたい!」

 あらら、目がメラメラ燃えている。

「ふふふ、ミクやサリーが竜討伐するまでに、腕を上げておくのよ」

 ふう、やはりそれが卒業試験なんだね。


 ヨシは、光の魔法を習得し、学習面では六の巻を終えた。

「僕は、神父さんになります。そして、狩人の村とアルカディアの森の人エルフの掛橋になりたいです」

「えっ、教会に行きたくないから、アルカディアに来たんでしょう?」

 驚いたよ! でも、ヨシは清々しく笑う。

「何もできないから仕方なく教会に行くのは嫌だったんだ。アルカディアで色々と学んで、それで皆の役に立ちたいと思って教会に行く事にしたんだ」

 オリビィエ師匠が嬉しそうに笑う。ヨシの事を一番心配していたからね。

「頑張ってね!」私とサリーは、それしか言えないよ。

「二人も頑張ってね。竜を退治する時は、ジミーに応援を頼むと良いよ」

 はぁ、それは何年後なんだろうね。

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