第48話 |木の家《アビエスビラ》に着いた

 ヨシは体力もない。オリビィエ師匠の背中で寝てしまった。


「ミク、何か布を持っていないか?」


 マジックバッグの中をまさぐって、細長い布を引っ張り出す。


「よく、そんな物を持っていたわね!」


 サリーに呆れられた。


「これは、この前、卵サンドイッチを売ったら、ヴィーガ師匠がくれたのよ」


 織物のヴィーガ師匠も、料理は苦手みたい。美味しかったと、この布をくれたのだ。


 細長い布で、うとうとしているヨシをオリビィエ師匠にくくりつける。日本昔ばなしの背負い紐みたい。


「さぁ、早くベッドに寝させた方が良いだろう!」


 それに、キラービー火食い鳥カセウェアリーも、小屋に早く入れた方が良いからね。


 養蜂箱は、一つ空いている。女王蜂が何処かに飛んで行ったのだ。気まぐれだね!


 火食い鳥カセウェアリーの小屋は、帰ったら大きくしないといけないかもね。

 オリビィエ師匠は、前からいる雄の火食い鳥カセウェアリーを潰して、唐揚げを作って欲しいみたい。


 私は、やはり飼っているから、情が移っている。卵から孵った雛鳥の雄の何匹かは、唐揚げにしたんだけどさ。


 そんなことを考えているうちに、アルカディアに戻った。


「わぁ! 本当に木の上に家があるのね!」


 ヨナが驚いている。ジミーも驚いているだろうけど、無反応だよ。


「奥の大きな木が、木の家アビエスビラなのよ」


 サリーがヨナに教えている。ジミーは、大きいとはいえ、木の中に何人も住めるのか、首を捻っている。


「ミク、扉を開けてくれ」


 先ずは、ヨシを居間のソファーに寝させる。いつも、アリエル師匠が寝転んで本を読んでいる場所だ。


 アリエル師匠とサリーはキラービーを養蜂箱に入れている。ヨナは囲いの外で、それを見学だ。


「なぜだ?」

 ジミーは、外から見た木の家アビエスビラと、中の大きさが違うのが変だと首を捻っている。


木の家アビエスビラは、オリビィエ師匠が空間魔法で作られたのよ」


 ジミーがハッとした顔になる。


「マジックバッグとマジック壺!」


 その通りだけど、その説明は後にして、火食い鳥カセウェアリーを鶏小屋に放さなきゃ!


「ミク、先にキラービーの死骸を投げ入れた方が良いぞ。お腹いっぱい食べていたら、新しい火食い鳥カセウェアリーを攻撃しないだろう」

 

 それ、名案だね。


「手伝おうか?」ジミーが言ってくれたけど、まだ無理かも?


「うん、守護魔法を自分に掛けられるようになったら、餌やりを手伝ってもらうよ」


 ジミーは、自分にできるのかと首を捻る。


「ジミー、竜を討伐したいなら、守護魔法が絶対に必要だ! 少しずつ覚えていけば良い」


 キラービーの死骸を投げてやると火食い鳥カセウェアリー達は、争って啄む。


 その間に、ぐるぐる巻きになっている火食い鳥カセウェアリーを解放して、鶏小屋の中に入れる。


「おお、元気そうだ!」


 ぐるぐる巻きにされて、マジックバッグの中にいたのに、前からいる火食い鳥カセウェアリーに負けない勢いでキラービーを啄んでいる。魔物だから丈夫なのかな?


「後は、卵を集めて、掃除をして、水をいっぱいにしたら、火食い鳥カセウェアリーの世話はおしまいよ」


 ジミーは、それのどれもが守護魔法が使えないとできないと気づいて、深い溜息をついた。


「私も、最初は守護魔法が掛けられなかったの。師匠に掛けて貰ったり、サリーに掛けて貰ったのよ」


「俺に掛けてくれ!」


 あっ、そうかも? でも、私は自分に掛けたことしかないんだよね。


「ミク、やってごらん! 大丈夫、私が見ているから、ジミーの守護魔法が解けそうなら、掛け直してあげる」


 師匠がフォローしてくれるなら、やってみよう!


「ジミーに守護魔法よ掛かれ!」


 薄ぼんやりと緑色の守護魔法が掛かった。自分にも掛けて、鶏小屋に入る。


「この籠に卵を集めて!」


 ジミーが集めている間に、私は汚れた藁を外に出して、綺麗な藁と取り替える。


「ほら、ミク! ジミーの守護魔法が解けかけているよ」


 えっ、その時は師匠が掛けてくれるんじゃないの? 注意してくれるだけ?


「ジミーに守護魔法よ掛かれ!」


 水は、昨日は替えていないから、全部捨てて、新しいのに替える。

 

「これでお終いよ、外に出ましょう!」


 外に出た途端、守護魔法が切れた。


「もう少し、しっかりと守護魔法を掛けられるよう頑張りなさい」


 オリビィエ師匠の言う通りなんだけど、自分に掛けるより、難しい。


「お茶が飲みたいわ」


 アリエル師匠の我儘? いや、皆喉が渇いているよね。


 木の家アビエスビラに入って、私とサリーで台所の使い方を二人に教える。


「水を井戸に汲みに行かなくて良いのね!」


 ヨナは、便利だと喜んでいるけど、ポンプで汲み上げないといけないんだ。


「これは俺がやる」


 一日、留守にしていたから、古い水は流して、新しく汲み上げてもらう。ジミーは、私やサリーより力があるから、あっという間に満タンになった。


「まだ暑かったから、ミントティーと焼いておいたクッキーで良いよね」


 ヨナはクッキーを一枚分けて貰ったのを食べたのか、嬉しいと喜んでいる。


「ヨシ、よく寝ていたわね」


 居間に行くと、ヨシが寝起きでぼんやりとしていた。ヨナがすぐに側に行って、抱きしめている。


「じゃあ、お茶を飲みながら、木の家アビエスビラの生活について説明しよう」


 アリエル師匠は、ヨシが起きたのでソファーに寝転がって、本を読みながらお茶を飲んでいる。

 座って飲む方が楽だと思う。


「カップが空中を移動している!」


 ヨシが驚いているのを見て、アリエル師匠はウィンクする。


「このくらいできないと風の魔法使いとは呼べないわ」


 いや、それは物臭なんじゃないかな? 


「サリー、そこは真似しないで良いと思う。取り敢えず、クッキーを食べて、お茶を飲もう」


 私達は椅子に座って暫くは黙ってクッキーを楽しむ。


「これは、ミクが焼いたんでしょう! とても美味しいわ」


 ヨナに褒められたよ。ジミーは無言で食べているし、ヨシは疲れているみたい。


木の家アビエスビラでは、弟子のミクとサリーが家事をしてくれているんだ。ヨナとヨシとジミーも二人を手伝って欲しい」


 三人は頷く。狩人の村でも家事の手伝いはしていたからね。


「私は、掃除と洗濯が中心なの。ミクが料理と畑仕事よ。勿論、忙しい時はお互いに手助けしているわ」


 サリーは、やはりしっかりしているね。ちゃっちゃと話を進める。


「私は、料理も少しはできるわ。それと掃除は得意よ」


 ヨナは、若者小屋で住んでいたから、半分自立しているものね。


「俺は、水汲みと畑仕事」


 うん、ジミーに料理は無理かも? いや、教えたら、上手くなるかな?


「僕は、何をしたら良いのかわからない」


 ヨシは、家でも過保護に育てられていたみたい。


「少しずつ、ヨナと一緒に料理や掃除をしよう」


「うん!」と頷くヨシ、可愛い。


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