第47話 アルカディアへの道すがら

 ヨシは木と木の移動は、ほぼできない。

 私が森歩きをし始めた時と同じだ。木にはなんとか登れるけど、近い木にしか移動できないんだ。


「ゆっくり歩いていけばいい。ミク、上級薬草を見つけてみたら良い」


 オリビィエ師匠、無理言うよ! ここら辺には、下級薬草しか生えていない。


「無いんじゃないかな?」


 ぶつぶつ言いながらも、目に魔力を集めて、辺りを調べながら歩く。


 サリーもアリエル師匠から、キラービー火食い鳥カセウェアリーを探す宿題を出された。


「師匠、いませんよ!」


 サリーは無理難題を言われたと、少し怒っている。


「サリー、あちらにキラービーが一匹いるよ」


 ヨナは、若者小屋で狩りをしていたから、魔物を見つけるのが早い。


「えっ、どこに?」


 サリーとヨナは、一匹見つけたキラービーが巣に戻るまで、そっと追いかける。


「ほら、ヨシ! これが下級薬草よ」


 下級薬草なら、ところどころに生えているから、ヨシに教えてあげる。


「これを探せば良いのか?」


 ジミーは、口は重たいけど、植物採取などにも優れている。


「いいえ、これは下級薬草なの。師匠に言われたのは、上級薬草だけど……」


 かなりの範囲を見つめたら、端にあった。


「これが上級薬草なの。ここら辺には少ししか生えていないわ」


 ヨシもジミーも真剣に上級薬草を見つめる。


「よし! 覚えたぞ」


 ジミーは木と木を飛びながら、広範囲を探す。


 ヨシは、まだ目に魔力を集める方法を知らないから、歩きながら、下級薬草を見つけたら、採っていく。


「サリーとヨナは、大丈夫かな?」


 離れて小一時間は経つ。心配になった。


「巣を見つけたら、報告に帰ってくるさ。それにしても、ヨシは下級薬草を見つけるのが上手いな」


 そうなんだよね! 私は、上級薬草しか探していないから、まだ二本だけ。 

 ヨシは、もう何十本も下級薬草を採っている。


 そんなことを言いながら、アルカディアを目指す。


「師匠! キラービーの巣を見つけました!」


 サリーが報告に戻ってきた。


「よくやったわね! ハチミツ酒が欲しいと言う森の人エルフが多いのよ!」


 それに、アリエル師匠はハチミツが大好きだからね。


「皆も見学に行くかい?」


 ジミーは、広範囲を探して、上級薬草を五本採っていた。


「行きたい!」


 ジミーなら、そう言うと思ったよ。


「ヨシはどうする? 道から離れるけど?」


 ヨシは少し考えて首を横に振った。


「ヨシ、行きたいなら、行こう! アルカディアには、私が背負えばすぐに着くさ」


「見てみたいです」


 うん、ヨシは我慢しすぎなんだ。もっと、自己主張したら良い。


 ヨナがキラービーの巣を見張っていた。


「これを討伐して、ハチミツを取るのですね!」

 

 うん、狩人の村では、そうしていたね。たまにハチミツが分配されると嬉しかったな。


「違うのよ! こんなに多くは飼えないから、半分は討伐するけど、アルカディアで飼うの」


 狩人の村の三人が驚いている。


「サリー! 今回は自分でやってみたら」


 サリーは、少し躊躇したけど、頷く。


キラービーの巣を取り囲め!」


 アリエル師匠は、無詠唱だったけど、サリーは口に出さないと無理みたい。


 大きなキラービーの巣を、風のボールで包み込む。


 中のキラービー達が、慌てて外に出る。ブンブンと羽音が煩いぐらいだ。


「半分に分けて、女王蜂がいない方の空気を抜くのよ」


 半分に分けるのは、難しそうだった。その上、片っ方だけの空気を抜くだなんて……。


「あっ!」サリーが空気を抜く方に集中したら、片方の風のボールが消えちゃった。


「まだまだね!」サッとアリエル師匠が風のボールで包んだから、怒っているキラービーに攻撃されないですんだ。


「皆で、手分けして、こちらのハチミツとキラービーを採取しましょう」


 片方の空気を抜かれた巣のハチミツをアリエル師匠が出した壺に入れていく。


「凄いわ! この壺はいくらでも入るのね!」


 ヨナがびっくりしている。手がベタベタになったけど、それは舐めちゃう。


キラービーは、この袋に入れてね! 火食い鳥カセウェアリーの餌になるから」


 ジミーが火食い鳥カセウェアリーを私が飼っていると聞いて、驚く。


「あいつらは鉤爪で攻撃してくるぞ!」


「捕まえた時に鉤爪は切るのよ。それに卵から孵った時も雛のうちに切るわ」


 卵も需要が多いのだ。私もいっぱい使うけど、茹でるだけで食べられるからね。

 アルカディアでも、料理は肉を焼くだけの森の人エルフが多い。

 でも、ゆで卵を狩りに持っていくと美味しいし、立ったまま食べられるから便利なんだ。


「ジミー、火食い鳥カセウェアリーを見つけて!」


 今いる火食い鳥カセウェアリーだけでは足りないのだ。


「わかった! でも俺は討伐しかできない」


 それは、オリビィエ師匠に捕獲して貰おう。


 ジミーが森の奥まで探しに行っている間、サリーは女王蜂がいる巣を空気のボールに包んだまま維持している。


 私とヨナとヨシで、死んだキラービーをマジックバッグに入れていく。


「サリー、無理だと思ったら、自分で判断して、私と交代するのよ」


 アリエル師匠も、なかなか厳しいね。


「このまま移動するのは、無理です」


 サリーは、自分の能力を見極めている。凄いな!


「ミク、彼方の奥に火食い鳥カセウェアリーの群れがいた」


 サリーは移動しながらは、巣の周りを囲む風のボールをキープできないので、アリエル師匠と代わる。


「あそこだよ」


 本当にジミーは、魔物や植物を見つけるのが上手い。


「ジミーは良い狩人になるな!」

 オリビィエ師匠が褒めると、少しだけ嬉しそうな顔をした。


「ミク、彼方の雌を捕まえてごらん」


 ふぅ、私はポシェットから、強いアイビーの種をだして、それで雌の火食い鳥カセウェアリーをぐるぐる巻きにする。


「鉤爪を切るんだな!」


 オリビィエ師匠と私が捕獲した火食い鳥カセウェアリーの鉤爪を、ジミーとヨナも手伝ってくれて切る。


「ぐるぐる巻きのまま、このバッグに入れてくれ!」


 二人が驚いている。


「これもマジックバッグなのですか? 生きているままでも入るの?」


 ヨナは、恐々と火食い鳥カセウェアリーを持ち上げて、オリビィエ師匠のマジックバッグに入れる。


 私も最初は驚いたから、わかるよ!


 ジミーは、何も言わないで、次々と火食い鳥カセウェアリーを入れていく。

 相変わらず反応が薄いね。でも、それがジミーらしいかな。


「寄り道をしすぎたわね! ここからはスピードアップするわよ」


 アリエル師匠は、キラービーの巣の入った風のボールを後ろに浮かべたまま、木から木へと移動する。


「ヨシ、背負うよ!」

 オリビィエ師匠は、ヨシを背負ったままなのに、凄いスピードで移動している。


 ヨナは、前々から移動は早かった。私とサリーは、ついて行くのに必死だよ!


 

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