第45話 ピザとハチミツ酒
村長さんと話している師匠達の事は気になるけど、久しぶりの我が家で料理をする。
「わぁ、ミク姉ちゃんの料理だ!」
ミラは単純に喜んでいるけど、バリーは横で真剣に見ている。
「これは、ピザという食べ物なの!」
パパが作ってくれたパン焼き窯が壊れずに残っていたので、今夜はピザにする。チーズは早めに食べた方が良いからね。
「ピザ生地を休ませている間に、上に置く物を作りたいのだけど……」
パントリーには、肉と芋しかなかった。
「トマトは少ししかできなかったんだ。それに、もう食べたから」
ふぅ、仕方ない。トマトソースは瓶詰めで持ってきている。
あと、玉ねぎも何個かマジックバッグに入っている。
芋と玉ねぎと肉を炒めて、それをピザ生地のトマトソースを塗った上に飾っていく。
「これだけで美味しそうだよ!」
バリーは、食べ盛りだからね。
「この上にチーズを乗せて焼くのよ!」
パパはパン焼き窯に火を入れてくれていた。ママは、親戚にクッキーを配っている。村中、親戚だから、これはしないと駄目なんだ。
「師匠達は、きっと村長さんの家に泊まるのだろう」
パパは、私は家に泊まって欲しいみたいだけど、寝る場所があるのかな?
「ミク姉ちゃん! 私と一緒に寝よう!」
ミラと私、小さな子ども用ベッドに二人はギリギリだけど、一緒に眠りたい。
「うん! そうしよう!」
ピザを焼いていると、師匠達が村長さんの家から出てきた。匂いでピザだと分かったのかな? まさかね!
「先ほどは失礼しました。ミクの師匠をしているオリビィエです。こちらは、サリーの師匠のアリエル」
サリーと両親もやってきて、私の家でピザを食べながら話すことになった。
「これは美味しいな!」
パパは、一口食べて、大絶賛だよ。
「ワンナ婆さんとヨハン爺さんのところにも持っていくね!」
この二人は、私の祖父母みたいなものだからね。本当は違うけど、血縁なのも確かだ。
「うん? それは酒なのか?」
パパは、お酒など飲まないと思っていたけど、実は好きみたい。コップに少し入れてあげる。
「私も一緒に持っていくわ!」
サリーと一緒にピザ一枚とハチミツ酒の瓶を持ってワンナ婆さんの小屋にいく。
「おお、これは美味しそうだ!」
二人に仲良く食べてね! と言って帰ろうとしたが、引き止められる。
「あんた達の師匠さん達と村長は、若者小屋の子をアルカディアに派遣しようと決めたみたいだよ」
私とサリーは、手に手を取って、ぴょんぴょん飛んで喜ぶ。
「やったぁ! これで、バンズ村の
でも、ワンナ婆さんとヨハン爺さんは、難しい顔をしている。
「そう上手くいくと良いのじゃが」
「ワンナ婆さん、若者小屋の子なら、一応は親から独立しているから、アルカディアに行っても良いんじゃないの?」
ワンナ婆さんは答えず、ヨハン爺さんがハチミツ酒の栓を開けながらボソッと呟いた。
「彼奴らは、自分が一人前じゃと勘違いしているからな。それに、狩りに夢中だ……」
ああ、それはわかる気がする。家に帰って、師匠達と話し合わなくては!
「えっ、若者小屋の子はアルカディアに来たがらないだろうと言われるのですか?」
アリエル師匠がサリーの両親に問いただしている。
「ルミやキンダーも若者小屋にいた頃を思い出してくれ。自分の狩りで食べていける! 一人前だと考えていたんじゃないか?」
サリーのパパの言葉に、ママとパパが気まずそうに頷く。今でも、ママは狩りが大好きだから、若者小屋の跳ねっ返り時期は、もっと狩り優先だったろうね。
「ああ、そうなのですか? では、村長さんとの話し合いは無駄になったかも……」
ガッカリしてきるオリビィエ師匠、そんなことないよ! きっとね!
「ミラとバリーも初めは学舎とか、嫌がっていたけど、そこで武術や魔法、そして狩りの練習にもなると聞いて興味を持ったのです。それに、竜を退治するのは、狩人の村の
師匠達は、この辺には竜がこないのだと知って、驚いていた。
「そうか、竜で懐柔するのはありかもしれないな」
ちょっと目的からずれているけど、アルカディアに行きたい気分になるのかもね。私的には御免だけどさ。
皆で意見を出し合いながら、ピザを食べ、師匠が持ってきたハチミツ酒、子供はりんごジュースを飲む。
「サリー! 家に帰ってこないか?」
わっ、サリーのパパ、顔が真っ赤だよ。酔っているんだね。
「魔法使いになる修業をしているから、家には帰らないわ」
サリーはキッパリと断っている。私より、心が強いね。私は、この村には居場所がないから、アルカディアで修業をすることにしたんだ。
結果は一緒でも、少し違う気がする。私の方が親に甘えたい気持ちが大きい。
「あなた、もう酔っ払っているのね! お家に帰りましょう」
サリーのママが酔ったパパを連れて帰ろうした時、ドアを誰かがノックした。
「誰だろう?」普段は、ノックと同時に入ってくる。村の住人は、身内ばかりだから、遠慮が無いのだ。
「あのう、ヨナとヨシです。ここにアルカディアの
ママが、二人を招き入れる。ヨナは、もう若者小屋で暮らしているよね? ヨシは、どうしているのか知らない。
「私とヨシをアルカディアで教育して下さい」
えっ、それは良いのかな? ママとパパも難しい顔をしている。
「この二人は姉弟なんだね? 私達は、嬉しいが、何か問題があるのかい?」
ヨナがヨシを自分の背中に隠して、話す。ヨシって、私やサリーが村から出ていく時は、少し遅れて森歩きを始めていたと思うけど?
「私は弓のスキルを賜りましたが、弟のヨシは……神父さんは、教会の子になる運命だと言われたのです。でも、この子は、とても賢いし、勉強も好きです」
ああ、狩人の村でヨシは居る場所が無いのだ。
「ふうん? ヨシも他の
ヨシは、他の狩人の村の
「では! 受け入れてくれるのですね!」
ヨナは喜んでいるけど、アリエル師匠は「本人はどう思っているのかしら?」と質問する。
「俺は……この村では暮らせない。神父さんと人間の町で教会に入って修業するのだと思っていた。でも……本当は、他の人と同じように木と木の移動をしたい! それに、勉強もしたい!」
木と木の移動もできないんだ。そう言えば、神父さんも少し悔しそうな口調で話していた事があったね。
「ううむ、神父さんと話し合う必要があるな。教会の弟子を横取りするのは良くないからな。だが、もう少し大人になって、自分のやりたい事を決めたら良いと思うぞ!」
オリビィエ師匠がぱふぱふとヨシの頭を撫でた。
サリーの両親が帰ったので、二人を子どもベッドのソファーに座らせて、ピザとリンゴジュースを出す。
「美味しいわ! ミクの料理は、とても便利だわ」
うん、でもヨナの弓のスキルが賜っていたら、今もこの村に住んでいたかも。
ああ、ここら辺がサリーより弱い点なんだよね。
「二人をアルカディアで教育するかは、明日、ご両親と村長さんと話し合って決めよう」
ヨナは、ヨシを受け入れてくれそうなのに驚き、喜ぶ。
「本当にヨシは光の魔法を習得できると考えておられるのですね!」
「ああ、少し時間が掛かりそうだけど、今でも光の魔法で成長しているから、大丈夫さ! ミクと一緒に学べば良い。それより、ヨナは良いのか? 若者小屋にいるのでは?」
ヨナは、若者小屋の生活でも困っていないと思う。
「私も年を取らずに長生きしたいから、ほかの村人に教わるよりは、直接アルカディアで習った方が良いと思っています」
ヨナ、良いお姉ちゃんだし、賢いね! 又聞きより、直接習う方が習得しやすそうだもの! 私も頑張ろう!
明日、他の村人にもアルカディアに行きたい人を聞いてみることになった。
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