第44話 ママ! パパ!

 大人の狩人達も大きな魔物を狩って戻ってきた。


「あっ! ママ、パパ!」

 遠くに見えたママとパパ! パパは他の森の人エルフと一緒に魔物を担いでいるけど、そんなの関係ないよ!

 走って行って飛びついた。


「まぁ、ミク! 大きくなったわね」

 ママは、いつもの綺麗なママだった。

 パパは、獲物を他の森の人エルフに渡して、私を抱き上げた。


「ミク! 帰ってきたのかい?」


 ううう、このままバンス村で暮らしたくなったけど、ここに私のいる場所はない。


「いいえ、師匠達とここに来たの!」


 後ろにいるオリビィエ師匠と、少し離れた場所にいるアリエル師匠を紹介しなくてはね!


「ミクのご両親ですか? 私が薬師のオリビィエです」


 パパは、私を下ろして、師匠に挨拶する。

 ママも「狭い家ですが、どうぞ」と丁寧に招待している。


「後ほど、ご挨拶をしにお邪魔しますが、村長と話し合わなくてはいけません。ミクは久しぶりに家族とゆっくりとしておいで」


 ぱふぱふと私の頭を撫でて、アリエル師匠と一緒に村長の家に行く。


「ママ! いっぱいお土産があるのよ!」


 ふふふとママが笑う。


「ミクのことだから、美味しい食べ物ね! それだけでも、アルカディアでの生活が上手くいっているのがわかるわ」


 ママの腰に抱きついたまま、小さな我が家に行く。


 懐かしい狭い家、ああ、やはり子ども用のベッドが親のベッドの下に収納しきれず、飛び出している。


「ここをソファーがわりにしているのよ」


 うん、上手く考えて使っているね。ママは、料理はあまり上手ではなかったけど、掃除や整理整頓は得意だった。


 テーブルの上に、マジックバッグからハチミツの瓶、トマトソースの瓶、クッキーを入れたガラス瓶、生姜のハチミツ漬け、そしてハチミツ酒! 


「えっ、いっぱい出てくるね! こんなにいっぱいこのバッグに入るの?」


 食べ物だけじゃないよ。紙やペンやインクも、弟や妹の勉強の為に持って来た。


「これは、もしかして噂で聞いたことがあるマジックバッグか?」


 パパは、ママとの結婚資金を貯める為に、人間の町で働いたことがある。その時に、噂で知ったんだね。


「ええ、オリビィエ師匠は、薬師としても優れておられるけど、空間魔法も使われるの!」


 ママは、どのくらい入るのか興味深々だ。


「このバッグがあれば、獲物もすべて持って帰れるわ。今は、担いで持って帰れる量が決まっているから、良い部位だけしか持ち帰れない場合もあるの」


 相変わらず狩り優先のママだね!


「いつか、作れるようになったら、ママとパパにあげるわ!」


 本気で言ったのに、子どもの戯言だと笑われた。


「ありがとう! 気持ちは嬉しいけど、ミクは、空間魔法など賜っていないでしょう」


「違うのよ! 能力判定で、スキルを貰わなくても、努力次第で使えるようになるの。私も少しだけだけど、光の魔法も使えるようになったわ。それに、下手だけど弓も練習しているのよ」


 ママは、弓と聞いて驚く。

「スキルがないと、下手なのでは?」


 うっ、その通りなんだけど、ここで引けない。


「勿論、弓のスキルを持っている子や、風の魔法が使えるサリーより下手だけど、人間のほとんどはスキルを賜らないと聞いて、努力するしかないと思っているの」


 ママは、最後まで聞いてくれた。


「師匠達がこの村に来たのは、アルカディアの提案を真剣に考えて欲しいからなの。去年の戦争についてはアルカディアも知っていたけど、あんなに森の人エルフが亡くなったとは考えてもいなかったの。それと、エバー村の森の人エルフが木から木の移動の仕方も忘れていたと聞いて、メンターはショックを受けていたわ」


 パパもそれは同じ思いをしたのか、頷く。


「そうか、アルカディアの森の人エルフにとって、光の魔法の使い方を忘れたのは、種族として信じられない退行なのだな。そして、手遅れにならないうちに習得しなおすべきだと考えているのか!」


 退行とは、言い方が悪いけど、エバー村の森の人エルフを見た時に、バンス村の森の人エルフはそう感じたから、パパは理解しやすかったみたい。


「でも、もし私だけ習得できなかったら、貴方は若いままなのに、私が老けていくのは嫌だわ!」


 この感情があるから、大人達は習うのに積極的ではないのかも?


「アリエル師匠が、夫婦で老化の速度が違う場合は、どちらかに合わせる方法もあると言われたわ。でも、本当は二人とも習得して、長生きして欲しいの! ミラやバリーも長生きして欲しいわ!」


 黙って話を聞いていたミラとバリーもママやパパを説得する。


「私も若いまま長生きしたいわ!」


「俺もだ! それに、ママやパパも長生きして欲しい」


 ママが私やミラやバリーを抱きしめて「そうね! あなた達に長生きして欲しいわ」と強い口調で言った。


「ああ、俺達は何を恐れていたのだろう。アルカディアが子どもを拐うとか、あり得ないのに! では、何故、子どもを連れていくと言い出したのか?」


「ああ、それは長老会の失敗だね! アルカディアでは学舎があるから、そこで教育して、村に帰って教えて欲しいと考えたんだと思う」


 そこから、ミントティーとクッキーを食べながら、アルカディアの生活を説明した。


「えええ、毎日、午前中は学舎で勉強しなくちゃいけないのか!」


 バリーは勉強は嫌いだからね。


「でも、そこで武術や魔法も習うのよ。私は、勉強はそこそこできるけど、武術は落ちこぼれているわ。でも、頑張って竜を討伐しないと、アルカディアでは大人と認められないの」


 ママとパパの目がキラキラしている。この二人は狩りが大好きだからね。


「アルカディアの奥の森には竜がいると聞いていたが、本当にいるのだな!」


「でも、ミクは竜を倒せないのじゃないの? 弓も練習しているけど、未だ下手だと言っていたじゃない」


 そうなんだよね! でも、私には仲間がいる。


「ええ、でも一人で討伐しなくても良いのよ。友達や仲間に協力してもらって討伐できれば、一人前と認められて、アルカディアから出ても良いの」


 何だか、ママがそわそわしている。ママが修業に来てくれたら良いな。


「そんなことを学ぶなら、学舎も悪くないかも?」


 おお、勉強嫌いのバリーも前向きに考えてくれている。


 師匠と村長さんとの話し合い、上手くいくと良いな! 皆に長生きしてもらいたんだ!

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